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波瀾万丈のフェルスタッペンと苦戦するフェラーリ マイアミGP観戦記

金曜日のトラブルを乗り越えて勝利したフェルスタッペン

序盤レースをリードされたフェルスタッペンが逆転で今シーズン3勝目。予選で好調だったフェラーリはなぜ敗れたのか。最後のリスタートでフェルスタッペンとルクレールが優勝を賭けたバトルを見せてくれた、初開催のマイアミGPを振り返りましょう。

プロアメリカンフットボールリーグ NFLのマイアミドルフィンズが本拠地として利用しているハードロックカフェスタジアムの周りの駐車場を改造して作られたストリートコース(ストリートじゃないけどww)で2番目のアメリカGPとして開催されたマイアミGP。駐車場でサーキットが作れるなんて、日本人からしたら想像もつかないですけどね。

マイアミドルフィンズの本拠地 ハードロックカフェスタジアム前での表彰式。白バイ先導で移動するなどアメリカっぽい演出もありました。ちなみに表彰式には伝説のQB ダン・マリーノも登場してNFLマニアにはたまらなかったですね

そのマイアミGPでフェルスタッペンとルクレールがまたも接戦を繰り広げました。レース終盤にセーフティカーが出て、ルクレールが最後のアタックを見せるも、二戦連続でフェルスタッペンが逃げ切りました。

だが金曜日からレッドブルが好調だったわけではありません。金曜日、フェルスタッペンはトラブル続きでほとんどまともに走れませんでした。初開催のコースで周回数が足りなかったのは当然、うれしいことではありません。

フェラーリは予選Q3で、ソフトタイヤの温度を上げることに成功し、それを1周維持することができ、2台がフロントロウを独占できました。ストリートコースで路面がスリッピーでタイヤ温度を上げるのが難しかったので、これは簡単な仕事ではありませんでした。一方のフェルスタッペンはQ3でミスをして予選3位。しかし金曜日にほとんど走れなかったことを考えると悪くはありません。

レコードラインからアプローチするフェルスタッペン。イン側のサインツを抜いてルクレールとの一騎打ちに持ち込んだ。

ポールのルクレールはライトが消えると、素晴らしい蹴り出しを見せてトップをキープしてターン1をクリア。だが予選2位のサインツはレコードラインから外れた偶数グリッドだったので、蹴り出しは悪くなかったのですが、ルクレールよりは少し加速が鈍ります。ただそれほど悪いわけではなかったのですが、予選3位スタートのフェルスタッペンがレコードラインを利用してアウトから被せ、ターン2でインを取り抜いていきます。

マイアミGPのコースはストリートコースなので、オフラインはグリップがかなり落ちます(しかもレース前に降った雨もそれに拍車を掛けました)。オフラインでは予想できないハンドリングになります。

マイアミの舗装表面自体はスムーズでグリップが低かったのですが、マシンが走るレコードラインだけは表面のアスファルトが取れて、下にあるゴツゴツした面が表面に露出してきました。となるとレコードラインはグリップするけど、それ以外はグリップしないという現象が現れてきてします。またターン17を含め、何カ所か再舗装されたので、そこもまたグリップレベルが違うという難しいコンディションとなりました。

グリップのより高いフェルスタッペンがアウトからトライし、サインツの前にはチームメイトのルクレールがいます。フェルスタッペンの前には誰もいなくてフリーエアで走れます。サインツはルクレールのダーティエアの影響を受けますし、接触を避けなければならないので無理にフェルスタッペンと競ることが難しい状況でした。

グリップしないイン側から見事にルクレールをパスするフェルスタッペン

こうしてフェルスタッペンはサインツを抜くことに成功しました。フェルスタッペンはフリー走行のトラブルでスタート練習も満足できなかったのにしては大成功のスタートです。

これでフェルスタッペンは2位になり、前にいるチャンピオンを争うルクレールとの一騎打ちになります。1周目の終わりにルクレールはフェルスタッペンに0.85秒差を付け2周目には1秒以上の差を付けました。DRSが使用可能になる前にフェルスタッペンを1秒以上離さないと(低ドラッグのリアウィングを持ち込んだフェラーリでしたが)、最高速ではレッドブルには敵わなわず、抜かれてしまうからです。

ルクレールはDRSゾーンでは最高速の早いレッドブルに対して負けているのを自覚していました。だから彼らが得意なセクター1でプッシュし、セクター1だけで0.4秒も速く走ることもありました。だが全開区間が長い残りの二つのセクターではフェルスタッペンが有利です。そのためルクレールとフェルスタッペンの際は最大で1.4秒にしか広がりませんでした。

そしてこの序盤にペースを上げたことでルクレールの右フロントタイヤに負荷をかけ、黒い帯が見えてきました。ルクレールがタイヤで苦しんでいることを無線で伝えられていたフェルスタッペンは徐々に差を詰めてきます。フェルスタッペンはミディアムタイヤを痛めないように気をつけて走っていました。

ミディアムで苦しんルクレールは先にタイヤ交換してハードタイヤに賭けた

8周目のターン17(実質的な最終コーナーで、このサーキットで最も難しいコーナー)でルクレールはフロントのタイヤが厳しくインに付けず、立ち上がりでアウトにはらみ加速が鈍ります。そこでフェルスタッペンが急接近し、短いホームストレートでDRSを使いルクレールに仕掛けました。

ルクレールはターン1のイン側が滑りやすいことを理解しており、意図的にレーシングラインを走り、無理にイン側を締めることはありませんでした。しかしフェルスタッペンはインに飛び込みました。フェルスタッペンはターン1の立ち上がりでアウト側に出そうになりますが、なんとかこらえてルクレールを抜くことに成功します。

その後、ミディアムタイヤを履くルクレールは、なんとかフェルスタッペンに引き離されまいと抵抗しました。フェラーリが得意なセクター1でプッシュしますが、またもターン17でタイヤロックさせ、12周目の終わりには2.6秒の差を付けられてしまいます。この11周後にルクレールはマシンをドライブするのが難しいと訴え、フェラーリはハードタイヤを持ちだして交換しました。

フェルスタッペンは余裕があったので、これにすぐには反応しませんでした。そして2周後にハードにタイヤ交換。そしてアウトラップで差を7.6秒まで広げます。

ツーストップが予想されたが上位はすべてワンストップで乗り切った

ミディアムでは苦戦したルクレールでしたが、ハードではフェルスタッペンと競争できました。フェルスタッペンとルクレールはお互いにファステストラップを出し合いますが、ルクレールはミディアムで開いた差を縮めることはできません。

この時点でレースは膠着状態になり、フェルスタッペンが気にしたのは予報されていた雨だけでしたが、最後まで雨は降ることはありませんでした。

なのでこのままレースは終わるかと思われましたが、レース終盤にもうひと山ありました。これは39周目にアロンソがガスリーと接触したところから始まります。この影響でガスリーはダウンフォースを失い、ハンドリングも悪化して普通にコーナーを曲がるのが難しくなっていました。

41周目には何回もコースアウトして、コースに戻ったガスリーを後ろから来たノリスが抜きにかかります。緩い右コーナーでしたがガスリーは接触の影響で思う通りに右に曲がれません。そこにアウトからノリスが右に曲がってくる。しかもノリスが走るところはオフラインでタイヤカスが沢山落ちていました。ノリスはガスリーがハンドリングの問題を抱えていることを知る由もありません。

そして曲がれないガスリーと曲がってくるノリスが意図せず接触。接触しただけならノリスも走り続けられたかもしれませんが、運悪くタイヤのサイドウォールがはがれてしまいスピンして大破。パーツが散乱し、最初VSCが、そして次にセーフティカーが登場し、フェルスタッペンの7秒のリードはなくなり、最後にスプリントレースとなりました。

アメリカンフットボールのヘルメットを被って表彰台に表れたフェルスタッペン

この時、ルクレールがタイヤ交換していればチャンスが大きくなったかもしれませんが、セーフティカーが登場したときにフェルスタッペンがピット入り口を通過していたのと同様にルクレールも追加していてタイヤ交換のチャンスはありませんでした。

3位のサインツはタイヤ交換が可能でしたが、選択しませんでした。それはハードタイヤで問題なく走れていたからです。ハードタイヤはタイムの落ちも少なく、タイムをキープできていました。実際ラッセルはハードで40周も走り続け、このSCでタイヤ交換して利益を得ています。4位のペレスはフリーストップを選べるポジションにいたのと新品のミディアムを持っていたので、迷わずタイヤ交換を実行します。

この2人は19周目のペレスのトラブル(エンジンのセンサーが故障して、エンジンが壊れることを防ぐためにセーフティモードになりタイムを失った)で、大きなタイム差がつきました。その後、エンジンをリセットしたことでペレスは問題なく走れましたが、サインツとの差は縮められなかったので、このセーフティカーはペレスにはチャンスでした。

マイアミGPのコースレイアウト。最近のストリートコースは高速型が多い

またサインツには新品のハードを持っていましたが、ハードはウォームアップ性が悪い(特にフェラーリは)のでリスタートで不利であることもあり、フェラーリはタイヤ交換を見送りました。代わりにサインツは中古のソフトを選ぶ選択肢もありましたが、残り10周前後を走るのは苦しく、タイヤ交換は見送られました。(ちなみに持ちタイヤセットはルクレールも同じでした)

セーフティカーで差がなくなり、47周目の再スタートでフェルスタッペンはリードを守りますが、ルクレールを引き離せません。ハードタイヤでは2人はほぼ同じペースでした。

雨が予報されていたが、結局最後まで雨は降らなかった

レース開始1時間前に降った雨の影響で日曜日は、この週末で一番気温が低くなったので、フェルスタッペンはタイヤが冷えていて苦しんで、タイムを上げられません。だがルクレールもタイヤの温度が上がらずに低速コーナーで苦しんでいました。

フェルスタッペンがミスをしたことにより、48周目にルクレールにチャンスが来ましたが、この時はまだDRSが使えずに最高速に強みのあるフェルスタッペンに並ぶことはできませんでした。

リスタートしてから6周もするとフェルスタッペンのタイヤに熱が入り始め、徐々にペースを上げ、54周目には差を1.3秒にし、DRSが使えない距離にまでリードを広げました。そしてフィニッシュ時には3.8秒の差を付けて波乱のマイアミGPで優勝しました。

ミディアムで苦しんだフェラーリでしたが、同じC3タイヤで走ったイモラのレースでも同じ様に苦戦しました。今後このC3タイヤの使い方を改善しないとフェラーリは苦労するかもしれません。なぜなら5種類のタイヤの真ん中に位置するC3タイヤはもっとも多く使われるタイヤコンパウンドになると思われる(多分全部のレースで使われる)からです。

マイアミGP 決勝結果
チャンピオンランキング。フェルスタッペンがルクレールを急激に追い上げている。1レースで逆転できる差になった