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勝利が必要だったルクレールが敵地で勝利した理由 オーストリアGP観戦記

予選、スプリントレースと首位を維持したフェルスタッペン。レースでも本命視されていたが、結果はルクレールの勝利。1-2フィニッシュ目前で逃したサインツのリタイヤ、タイヤのデグラに苦しんだフェルスタッペン等イベント満載のオーストリアGPを振り返って見ましょう。

レッドブルのホームサーキットで勝利したルクレール

予選Q1ではルクレールが1分05秒419、サインツが1分05秒660、フェルスタッペンが1分05秒852を記録し、Q2ではルクレールが1分05秒287でトップ、フェルスタッペンが1分05秒374となりました。しかし、Q3ではフェルスタッペンが最後の力を振り絞って1分04秒984を出し、ルクレールを1分05秒013の2位に、サインツを1分05秒166の3位に押しやりました。

予選ではポールポジションを獲得したフェルスタッペン。レッドブルのマシンは車両重量が10Kgほど重いと見られていて、それは燃料が軽い予選アタックでは影響が大きく、これまで予選ではルクレールに圧倒されていましたが、コーナーの少ないレッドブルリンクではその影響も少なくポールポジションを獲得できました。

コースにも寄りますが、10Kgも重いとラップ当たり約0.3秒のロスになります。それでも予選でルクレールとポールを争っているレッドブルとフェルスタッペンのすごさがわかるかと思います。ただ決勝レースで燃料満載になるとこの10Kgの差は相対的に小さくなりますし、燃費が良ければ燃料搭載量を減らすこともできますし(実際ホンダの燃費は一番いいと思われます)、そうすれば決勝レースでは十分戦えますし、実際これまでも予選で速いフェラーリ対レースで強いレッドブルという構図でした。ただこのオーストリアでは少し様子が違いました。

今回は今年2回目のスプリントレース。ポールからスタートしたフェルスタッペンは、序盤から全力で走り後続を引き離します。一方ルクレールはフェルスタッペンのペースでは最後にタイヤが厳しくなると予想し、ペースを抑え気味です。しかしそのせいで3位のチームメイトであるサインツとバトルとなりタイムロス。終盤はフェルスタッペンより速いペースとなりましたが、追いつくところまでは行かずフェルスタッペンがトップでゴール。フェルスタッペンは決勝でもポールの位置からスタートすることができました。

熱狂的なオレンジ軍団の前を走り抜けるフェルスタッペン

ここでひとつ気になったことがありました。序盤は順調にフェラーリとの差を広げていたフェルスタッペンでしたが、スプリントレース終盤にかけてはペースが伸び悩みルクレールに接近を許したことでした。

この結果を見てルクレールは決勝レースではフェルスタッペンと十分に戦える自信を持っていました。

そして決勝レースの朝に降った雨が、気温を下げ、路面のラバーを洗い流し、レースに大きな影響を与える事になります。

決勝レースでもポールの位置からスタートを決めたフェルスタッペンがリードを奪います。気温が低くなった決勝レースで、フェルスタッペンはスタートを決めるためにフォーメーションラップを速いペースで走り、タイヤ温度を上げスタートダッシュに成功しました。ただスプリントレースと違ったのはすぐにルクレールが差を詰めて12周目にはフェルスタッペンをパスしたことでした。

フェルスタッペンのマシンは、タイヤのデグラがひどく早々にワンストップを諦めて、ツーストップに切り替え、13周目にハードタイヤに交換します。ここでタイヤの状態が良かったフェラーリはフェルスタッペンをカバーしないで走り続ける判断をします。そして26周目にルクレールがハードにタイヤ交換すると一時的にトップを譲りますが、33周目には早くもフェルスタッペンをパス。

タイヤ交換のタイミングリスト

実際、ピレリはワンストップが最速と予想していましたし、コーナーも少ないレッドブルリンクはタイヤへの負荷は低いと予想し、もっとも軟らかい三種類のタイヤを持ち込んでいました(モナコと同じタイヤセット)。しかしフェルスタッペンのタイヤはまったく持ちませんでした。

ズルズルとタイムを失うフェルスタッペンは36周目にまたもハードへ交換。ルクレールは49周まで引っ張ってハードへ交換。その3周後にはフェルスタッペンをパス。フェルスタッペンは為す術もなくトップを譲ります。恐らくフェラーリは二回目のタイヤ交換の必要性は低かったと思いますが、万が一SCとかがでた時に備えて新しいタイヤに変えておく保険の意味が強かったと思います。

さらに後方からはサインツが追い上げており、フェラーリ1-2フィニッシュ目前だったのですが、なんと57周目にサインツのエンジンから煙が出てきて炎に包まれてリタイヤとなります。これでVSCが出たので、ルクレールとフェルスタッペンは新品のミディアムに交換します。ここではシルバーストーンで学んだのかフェラーリも的確な判断を下しました。

痛かった1-2フィニッシュ目前でのサインツのリタイヤ

フェルスタッペンのタイヤのデグラが大きかったのは、元々のセッティングがタイヤに厳しかったのだと思います。スプリントレースのある週末は最初のフリー走行後、いきなり予選になります。路面ができていないFP1はタイヤのライフを見るのはあまり適切ではありません。なので持ち込んだイニシャルセットから大きく変更することが難しくなります。

スプリントレースではラバーも乗っていたので、大きなデグラに悩まされませんでしたが、決勝日の朝に雨が降り、路面についたラバーが流されて、きれいな路面になったことでレッドブルのイニシャルセットのタイヤに厳しい弱点が大きく拡大して露見したのではないでしょうか。また決勝レースでは大量の燃料を積んでスタートするので、それもレッドブルのタイヤのデグラへの影響をさらに大きくしたと考えられます。

実際、レース終盤にタイヤのラバーも乗って燃料が少なくなってからのフェルスタッペンのミディアムのペースはレース序盤とは違い、大きな落ち込みを見せることはありませんでした。

今のピレリタイヤはほんの少しの違いでタイヤの動作温度に入れられなかったり、デグラがひどくなったりするので、最初は大きな違いのなかったレッドブルとフェラーリとのデグラの違いが、複数の要因が折り重なり、レース結果に大きな違いを生み出しました。

結局、このレースでルクレールはフェルスタッペンを三回もパス。これまでレースでは劣勢を強いられてきたフェラーリとしては勇気をもらえたレッドブルの本拠地での大きな勝利でした。

ルクレールにとってもオーストラリアGP以来、先週のイギリスで奪われた勝利を取り戻す勝利となりました。

レッドブルリンク コース図

▽簡単ではなかったフェラーリの勝利
ただしフェラーリの勝利は、先週同様簡単ではありませんでした。トップにたったルクレールはレース終盤にアクセルを完全に閉じても、エンジンは完全に閉じないトラブルに見舞われます。これはコーナーではかなり厄介な挙動です。このためルクレールは妥協した走りを余儀なくされました。

すなわちコーナーの手間で早めにアクセルオフして速度を落としてコーナーを回らなければいけません。特に低速コーナーではドライビングが難しくなりますが、幸いターン3を除けば低速コーナーがないレッドブルリンクでは最後までなんとか持たすことができました。

本来ならフェラーリのトラブルに乗じて、迫るべきフェルスタッペンは最後まで脅威を与えることができませんでした。

ただそれでもサインツの(恐らくアゼルバイジャンのルクレールと同じ)エンジントラブルにより、フェラーリは1-2フィニッシュを逃しました。これでフェルスタッペンは本来ルクレールが優勝して詰められるポイントを10ポイント差から7ポイント差にすることができました。

この勝利で今後、フェラーリが完全にレッドブルと戦えるかどうかは、まだわかりません。ここまで大きなトラブルなくきているホンダとトラブルが続出していて原因解明ができていないフェラーリ。

シーズン序盤を除きレッドブルが優勢で来ていて、シーズンの前半終了間際に二連勝したフェラーリですが、このトラブルを解決しない限り苦しい戦いは続きそうです。

オーストラリアGP 決勝レース結果
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