ルクレールとフェルスタッペンのフランスGPの優勝争い。それは18周目に突如終わりを告げました。ルクレールは自分自身のミスで優勝を逃し、それをタイトル争いのライバルであるフェルスタッペンに譲る結果となりました。真夏のポールリカールで開催されたフランスGPを振り返りましょう。
「ノーーーーーーー!」と聞こえたルクレールの悲痛な叫びがこのレースを決定しました。
イモラでコースオフして以来、ルクレールの2022年の不幸の大半は、ほとんど彼のせいではありませんでした。しかし、先週末のフランスGPの18周目に起きたスピンは、彼自身が招きました。
ルクレールは、ターン11で過去17周で経験したようにアウト側に近づいていきましたが、リアタイヤが耐えきれずにスピン。ルクレールは360度回転し、そのままバリアに突っ込んでしまいました。
ただこのクラッシュでルクレールにも不運な面はありました。彼のマシンはノーズがバリアの下に潜り込んだことにより、リバースギアで後退することができませんでした。もしバックしてコースに戻ることができていればノーポイントは免れたでしょう。ここはスペインGPでコースアウトしても、コースにすぐに戻り優勝したフェルスタッペンとは違います。
ルクレールのクラッシュとフェルスタッペンの勝利によって、二人はチャンピオンシップの差を63ポイントに開きフランスを後にしました。フェルスタッペンは最近の5レースで4回目、9レースで7回目の優勝を果たしました。一方ルクレールはオーストラリアGPの勝利のあと、9戦中1回しか勝てていません。オーストリアGPでの勝利だけでは、タイトル争いに加わるのは難しいでしょう。
このリタイヤでルクレールの責任は免れませんが、なぜこのようなミスを犯してしまったのか、その背景を推測することは可能です。
長い直線区間のあるポールリカールはレッドブル有利かと思われましたが予選ではフェラーリのルクレールがポールを獲得しました。
フェラーリはQ3でPU交換で最後尾スタートの決まっていたサインツを走らせ(普通はPUの距離を節約するために走らせない)、ルクレールに彼のトウを使わせて、ポール獲得を助けようとしました。実際、このアタックラップの最高速はレッドブルに迫っています。
ただフェラーリに強みはそこではなくて、コーナー部分にあります。ルクレールはセクター3だけで0.4秒ゲイン。フェルスタッペンに0.3秒の差を付けました。なのでもしフェルスタッペンがペレスのトウを利用したとしても、フェルスタッペンはポールを取ることは難しかったでしょう。
フェラーリがカナダGPから投入した低ドラッグの新しいリアウィングは効果が確認され、フェラーリの最高速向上に役に立ち、レッドブルとの差を縮めることに成功しています。
最高速が高いフェルスタッペンでしたが、Q3最後のアタックでセクター1、2ともに自己ベストも出せなかったので、タイヤが上手く使えなかったのでしょう。予選2位に終わりました。
スタートではルクレールがトップをキープ。しかしその後もフェルスタッペンは離されずDRS圏内に居続けます。
直線部分が長いとはいえ、トップスピードで走れる距離は限られています。ダウンフォースの大きいフェラーリは当然、コーナーの立ち上がりも速く加速でまさります。なのでフェルスタッペンがDRSを使ってルクレールに迫っても、挑戦するまでには至りません。
14周目から徐々に2台の差は広がり始め、フェルスタッペンは引き離され始めます。この日は気温も高く、路面温度は50度を超え60度に迫る勢いでした。
フェルスタッペンは「僕はかなり長い間、彼のDRSにとどまっていたけど、タイヤはすでにすごく熱くなっていて、だから彼とは少し離れたんだ」と語っています。
ホーナーは「残念ながら、ターン6からストレートにかけてはDRSを利用するために十分な距離に縮めることができなかった。そのため、(最初にタイヤ交換することで)トラックポジションを確保することにした」と説明しています。
ラップタイムはフェルスタッペンの方が速く、トップで走れればタイム的にも有利にたてると判断して、まだタイヤは残っていましたが意図的に早めにタイヤ交換をして順位を優先する判断をレッドブルはしました。
二人の差は徐々に広がりつつありましたから、このラップでフェルスタッペンがタイヤ交換しないと、次のラップでルクレールにタイヤ交換された場合、順位が入れ替わらなかったので、フェルスタッペンはこのタイミングでタイヤ交換する必要がありました。実際、ルクレールはフェルスタッペンの次のラップでタイヤ交換することを諦めています。
フェラーリは以前デグラがレッドブルより悪かったのですが、ダウンフォースを付けてタイヤを守るセッティングを採用して、オーストリアGPでもそうでしたが、今ではレッドブルよりタイヤを守れるようになりました。
特にこのコースではフロントタイヤリミテッドなので、フロントタイヤを守るために新しいフロアを投入し、フロントへダウンフォース付け、これにより相対的にリアのダウンフォースが減少しオーバーステア気味になりましたが、ルクレールはオーバーステアを好むので問題はありませんでした。
ただレース後にルクレールはこう語っています。
「僕はオーバーステアが好きなんだけど、暑いと安定しないんだ。その代償として、レース中にひとつ大きなミスを犯してしまった」
ただロングランになると、このセッティングはリアタイヤの寿命的には厳しくなります。それが18周目のルクレールのスピンに影響した可能性があります。今まで通りにアプローチしてもほんの少しだけグリップを失ったことにより、想像以上にアウト側を走ることになり、路面状態の悪い部分を走りグリップを失ったのでしょう。
またルクレールは18周目のターン11に前のラップよりもほんの少しだけオーバースピードで飛び込んでいます。これによりルクレールはいつものラップよりもほんの少しだけアウト側を走ることになりました。そしてそこはダーティーな路面でありグリップがありませんでした。オーバースピードとグリップ不足が重なりルクレールはスピンして、レースを失いました。
これらの要因が複雑に絡み合いルクレールのクラッシュを招いたのでしょう。
これまではチーム側のミスでポイントを失っていたルクレールでしたが、今回は彼自身のミスで得られたかもしれない25ポイントを、ライバルであるフェルスタッペンに渡してしまいました。
ただここでルクレールがここでプッシュする必要はありませんでした。確かにルクレールがフェルスタッペンのタイヤ交換をカバーするために、翌周にタイヤ交換するのならプッシュするのはわかります。だがフェラーリはカバーせずに、そのまま走らせることにしました。
これはオーストリアGPのようにタイヤ交換時期をずらすことにより、有利なタイヤ状態で戦う作戦でした。
このフランスGPではピットの速度制限が60Kmといつもより低く、制限速度区間がいつもより長く設定されていたので、ロスタイムが27秒と通常より多くなっていました。そのためツーストップは通常よりも10秒以上ロスが大きく、よほどのゲインがなければ割に合いませんでした。
なので早くタイヤ交換したフェルスタッペンでしたが、交換したハードタイヤのデグラは少なく、この時点ではワンストップで最後まで行く予定でした。
ルクレールもワンストップを予定していましたから、この時点で焦る必要はありませんでした。実際チームからはタイヤを労って走るように指示が出ていました。
これではルクレールをかばうことは難しいでしょう。しかし彼は今年初めて勝てるマシンでチャンピオンシップを争っています。だから多少のミスが出ても仕方がありません。過去にはハミルトンだって、ベッテルだって、フェルスタッペンだって、考えられないようなミスをしています。偉大なドライバー達はそこから学んで、より強い存在になって戻ってきています。だからミス自体が問題ではありません。問題はここから何を学ぶかです。
それにフェラーリは予選での速さは今まで通り維持し、タイヤのデグラも大きく改善していますし、最高速もレッドブルに接近しています。そして次のハンガリーはフェラーリ向きのサーキットになります。
フェラーリは取りこぼしが許されない状況ですが、まだ残り11レースも残っています。諦めるにはまだ早すぎます。