Formula Passion

SCには関係なくフェルスタッペンが勝った理由 イタリアGP観戦記

イタリアGPがSC先導フィニッシュで終わったことは、昨年のアブダビ同様議論の的になるでしょう。しかしながらSCがあろうがなかろうがフェルスタッペンの勝利は動かなかったと思われます。情熱と熱狂のイタリアGPを振り返りましょう。

5連勝でチャンピオンに王手をかけたフェルスタッペン

イタリアGPが開催されるモンツァ・サーキットでは、ホンダの強力なPUが威力を発揮するはずでした。ところが今年の一般的な傾向とは違い、不思議なことにライバルのフェラーリの方が最高速が優れていました。

それは秘密でもなんでもなく、レッドブルでテクニカル・ディレクターを務めるピエール・ワシェは、このストレートでの遅れは意図的に高いダウンフォースを発生させるリヤウイング(=ドラッグ多い)を装着しているためだと明かしました。

「まず、エンジンによるものではないことは確かだ」
「これは明らかに、マシンに施したダウンフォースレベルによるものだ。私達は他のマシンと比べてダウンフォースは高いように見える」
「見ての通り、我々は他のサーキットと比較してもリヤウイングを変えていない。ライバルは変えていて、それがトップスピードの領域に影響している」

ではレッドブルがなぜリアウィングを立てたかというと、コーナーの少ないモンツァはリアタイヤが最初に厳しくなりますし、リアタイヤが厳しくなると立ち上がりの加速が遅くなり、タイムを失います。

外から見ても明らかにレッドブルとフェラーリはリアウィングの厚みが違っています。例年、直線区間が長くスピードの殿堂と呼ばれるモンツァ・サーキットでは、特殊な空力パッケージが持ち込まれることが多いですし、実際レッドブルも低ドラッグのパッケージを持ち込んではいました。

だから通常とは違いサーキットの直線部分ではフェラーリが速く、コーナー部分ではレッドブルが速いという逆転現象が見られました。ただ過去にはレッドブルやマクラーレンがダウンフォースをつけたセットアップを選択し勝利したこともあり、正解はひとつではありません。

地元イタリアで力負けしたフェラーリ。リアウィングの角度がレッドブルとは違うのがわかる

リアウィングが薄ければ直線部分では速く走れますが、ダウンフォースが大きければコーナリングスピードが高くなるし、立ち上がりの加速も改善されます。そしてなによりダウンフォースが多いとタイヤのデグラデーションを抑えることができます。直線部分が長いとはいえ最速速度で走れる時間は限られているので、トータルでどちらを選択するかを判断しなければなりません。

低ドラッグのパッケージによりルクレールは予選でポールポジションを獲得し、トップスピードを犠牲にしたフェルスタッペンは予選ではルクレールにわずかに届きませんでした。レッドブルはコーナー部分の最初のシケイン、レズモ、アスカリ、そして最終コーナーのパラボリカでペースがありました。しかしそれ以外の直線部分では、フェラーリが優れたデプロイメントのアシストで有利な立場でした。

結局、フェルスタッペンはシャルル・ルクレールが記録したタイムを0.145秒下回って2番手タイムでしたが、彼はエンジンを交換することになっていたので、5番手降格の7位スタートが決まっていました。ただこれはフェルスタッペンのエンジンに問題が合ったわけではなくて、このあとは比較的オーバーテイクが難しいサーキットが続くので、今後のエンジンのトラブル発生に備えて、新しいエンジンをプールするというホンダからのアドバイスでこのペナルティを受けることをレッドブルは決めました。

スパに続きエンジン交換のペナルティに関係なく勝利したフェルスタッペン

エンジン交換の舞台に中団から挽回するのに最も容易なサーキットを選んだ理由を、チーム代表のクリスチャン・ホーナーは次のように語りました。

「ホンダからのアドバイスで、このペナルティを受けることにした」
「ここでの5グリッド降格というのは、それほど厳しいモノではない。だから残り7戦のためにエンジンを追加するのは、戦略的に正しいことだと我々も考えたんだ」

レッドブルは今後、イタリアGPでエンジンを交換したフェルスタッペンに対して、ペナルティに繋がるパワーユニットコンポーネントの交換を行なわないことを目指していると考えられます。

このモンツァ・サーキットはスパ・フランコルシャンと並んでオーバーテイクが比較的容易なので、他にもPUのペナルティを受けるドライバーが多くいて、予選終了後は誰がどのグリッドからスタートするのかチーム間でも意見が別れ、かなり混乱した状況でした。実際、暫定グリッドが発表されたのも夜遅くになってからでした。

ワンストップ作戦でフェラーリに勝利したフェルスタッペン

▽最初のVSCでフェラーリが勝負を仕掛ける
ソフトタイヤでスタートしたルクレールがポールポジションから好発進し、他のドライバーのペナルティでグリッドを昇格させたジョージ・ラッセルをリードして、最初のシケインに突入したとき、フェルスタッペンはすでに2週間前のスパで優勝したときのように1周目で大きなゲインを得ていました。

3番手スタートのランド・ノリスが誤ったモードを利用しアンチストールを発動させたことも、フェルスタッペンを助けることになりました。すぐさまアロンソをパスしたフェルスタッペンはグリップのあるソフトをうまく使って前方のミディアム勢をパスしていきます。最初のシケインを5位で通過したフェルスタッペンは、アスカリの手前でガスリーを抜き、リカルドは2周目の最初のシケインでのブレーキングで仕留め、この時点で3位となります。

その後、ルクレールとフェルスタッペンはライブタイミング上でファステストラップを競い合い、赤に染まった観客が赤と黄色の贔屓のフェラーリに声援を送りました。しかし、その差は徐々に縮まってきます。

5周目、フェルスタッペンはアスカリの出口でラッセルに迫り、DRSとトウの効果をうまく組み合わせてメインストレートでラッセルをパスして2番手に浮上し、ルクレールとの差はわずか2.1秒。これで今季のライバル2人の優勝争いとなります。

フェルスタッペンは次のように述べています。
「もちろん、1周目が素晴らしかったから、DRSトレインに入る前にほとんどのクルマをクリアできたのは大いに助けになったよ。ターン1の手前で何が起こるかわからないからね。でも、僕にとってはすごくうまくいったよ」

フェルスタッペンは10周目になるまで、1周あたりコンマ1秒ずつルクレールのリードを削り続けます。そして、ベッテルが第2レズモの出口でERSの故障で止まり、ヨーロッパでの最後のF1レースを終えたとき、黄旗が振られすぐにVSCが指示されます。

地元イタリアで出撃を待つルクレールとサインツ

VSCが導入されたのは、ルクレールとフェルスタッペンがフィニッシュラインを通過した後でしたが、そのラップの終わりにVSCでロスタイムが削減できるルクレールがピットストップのために飛び込んできました。フェルスタッペンを迎え入れる準備をしていたレッドブルでしたがフェルスタッペンにはルクレールとは逆の選択をするように指示。ルクレールがピットに飛び込んだので、フェルスタッペンはステイアウトを選択しました。

ルクレールは2.2秒でソフトからミディアムに交換。しかし、不運なことにルクレールがピットレーンを走っている間にグリーンフラッグが振られレースは再開され、VSCによるメリットをフルには受けられませんでした。ルクレールはギリギリでリカルドの前の3位でレースに復帰。フェルスタッペンに対して18秒差となりました。

全チームがレース前には、1ストップを想定していたことを考えると、フェラーリはかなり思い切った作戦をとったことになります。フェラーリはローダウンフォース仕様のため、マシンの挙動が荒く、デグラデーションもレッドブルに比べ大きくなり、2回目のタイヤ交換は避けられない状況でした。

しかし今シーズン、フェラーリの判断は度々激しい非難を浴びてきました。今回、チームボスのマッティア・ビノットがメディアに対して行った恒例の弁明は、彼のライバルによって擁護されました。クリスチャン・ホーナーは、フェラーリが正しい判断をを行ったとし、フェラーリがツーストップを選択した理由を理解しました。

ピレリのタイヤ交換ラップリスト

ビノットはさらにこう言って正当化します。「今にして思えば、あのタイミングで(バーチャル)セーフティカーが出たのは正しい判断だったと思っている。シャルルのペースがいいことは分かっていたが、マックスのほうがタイヤのデグラデーションがよく、すでに彼のほうが速かったんだ。

「1ストップというシンプルな作戦をとっていれば、遅かれ早かれ彼にやられていただろう。我々にとっての唯一のチャンスは彼らとは作戦を変えて、VSCのタイミングでピットインすることだった」

「ピットレーンにいる間にVSCが終了してしまったので、潜在的な利益をすべて得ることができなかったのは少し不運だった。とはいえ、もうひとつ興味深いことを思いつく。レッドブルはピットレーンでの準備が整っていたので、我々とは逆のことをすることにしたんだ」

しかし、それでもフェラーリの判断には疑問も残ります。そもそもピットストップ回数を増やして勝つには、ライバルよりもかなり速く走らないと逆転できません。つまり前の遅いマシンに引っかかって自分の速いペースで走れないので、タイヤ交換して速いペースで走り逆転するというのが普通の考え方になります。ところがビノットも認めているように、この日はレッドブルのほうが速かったですし、モンツァ・サーキットは他と比べてタイヤ交換のロスタイムが多く24秒も必要になります(VSCなら18秒)。つまりタイヤ交換の回数を増やすということは、ロスタイムが増えることでもあり、当然その増えたロスタイムをカバーするには、更に速く走る必要が出てきます。

なのでフェラーリがリスクを取って勝利を狙うなら、VSCのタイミングではタイヤ交換せず、フェルスタッペンにツーストップにさせ、ルクレールは1ストップでハード(かミディアム)に履き替えて最後まで走り切るという方法しかなかったと思います。それでもフェルスタッペンに勝てたとは思いませんが、ツーストップよりは可能性が高いと思います。実際、23周目からハードで走っていて、恐らくセーフティカーが出なければ、そのままワンストップで走りきったであろうラッセルは、1分25秒台後半でコンスタントに走れていました。これはフェラーリとレッドブルの24秒台に比べると遅いですがメルセデスの実力的には妥当なタイムだったと思います。

真っ赤に染まった表彰台でブーイングされるフェルスタッペンだが、本人曰く「勝てれば気にしない」らしい

フェラーリがもう一度タイヤ交換をしなければならないので、フェルスタッペンは周回数を重ねたソフトタイヤで走りながらも、ペースを維持し続けました。新品のミディアムを履くルクレールより0.4〜0.5秒遅いだけでした。

二人の差が13.8秒差になった25周目にフェルスタッペンがタイヤ交換に向かいミディアムに交換し、これで再びリードを奪い返したルクレールとの差は10秒となりました。

しかしフェルスタッペンは1周あたり1.0〜0.8秒近い差をつけ、二人の差は33周目には5.4秒に短縮されます。このままではすぐに追いつかれることになるルクレールは、最後の望みを新品のソフトタイヤに託し、タイヤ交換後の19秒の差をより速いタイヤで挑戦します。しかしながらルクレールのペースは期待した以上に上がらず、フェルスタッペンに0.3〜0.4秒差をつけるのがやっとでした。それでは逆転することはできません。二人の差は縮まりはしましたが残り10周で17.9秒もあり、ルクレールはレッドブルを追いつくだけのスピードアドバンテージを見出せず、終盤の追い上げで優勝を狙うことはできませんでした。

モンツァ・サーキット コースレイアウト

しかしその後、レースを揺さぶるボールが投げ込まれます。リカルドは46周目の第2レズモへのアプローチで急停止を余儀なくされました。マクラーレンMCL36がオイル漏れを起こし、チームがマシンを止めるようにドライバーに求めました。しかしマシンはギアが入ったままだったので、オフィシャルはマシンを押して動かすことができずお手上げ状態で、クレーンを移動させコース上で持ち上げて動かすしかなく、セーフティカーが導入されます。

フェルスタッペンとルクレールは、シルバーストーンやザントフォールトのようなスプリントレースを予想して、ソフトタイヤで最後の勝負をするためにピットへ向かいます。しかし、この時点で集団は大きく散らばっていて、セーフティカーが間違えて3番手のラッセルを抑えたので、彼を先に行かせて、トップ2の前に出るのに丸々一周が必要でした。さらにそこから周回遅れを先に行かせて周回遅れを解消するので、リカルドのマシン自体は残り2周には移動できていたのですが、時間切れとなりました。

そのため、多くの議論が交わされる中、最後にグリーンフラッグが振られることはなくレース再開はありませんでした。フェルスタッペンはクルーズしながらゴールし、31回目のグランプリ優勝を5連勝で今季11勝目をモンツァでのキャリア初勝利で達成しました。

このレースを振り返り、彼はこう語りました。「チーム内で経験していることは驚くべきことだ。僕たちは素晴らしい1年を過ごしている。そして、それを楽しむことも重要なことだ。これまでいろいろな種類のサーキットでいろいろなチャレンジをしてきたけど、今はどのサーキットでもクルマが本当にうまく機能しているように見えるんだ。とてもうれしいよ」

この結末は、間違いなく盛り上がりに欠けたものでした。しかし、2021年のアブダビGPのタイトル決定戦での険悪な雰囲気がまだ記憶に新しい中、FIAはルールを厳密に適用するしか方法がありませんでした。今回は「どれでも、すべて」という周回遅れのあいまいな解釈はなく、FIAは最後の6周について次のような説明をしています。

真っ赤に染まったティフォージのみなさま

「リカルドのマシンを迅速に回収し、レースを再開するためにあらゆる努力が払われたが、状況は悪化し、マーシャルがマシンをニュートラルにしてエスケープロードに押し込むことができなくなった」

「回収作業の安全が最優先であり、赤旗が必要なほど重大な事故ではなかったため、FIAと全チームとの間で合意された手順に従い、セーフティカーのもとでレースは終了した。レース中のセーフティーカー導入のタイミングは、この手続きとは関係ない」

たとえルールが正しく適用されていたとしても、レース終盤のレーシングの不在は、観客に物足りなさを感じさせました。とはいえ赤い煙の中、フェルスタッペンがピットストレートの上にある表彰台に上ると、すぐにブーイングの大合唱となりました。

フェルスタッペンはこう語りました。
「1日の終わりに、レースに勝つためにここにいるんだ。もちろん、それを評価できない人もいる。でもそれは、別のチームの熱狂的なファンだからだ。そして、これはこれでいいと思う。自分の一日が台無しになるわけではないからね。この瞬間を楽しんでいる」

しかし、その罵声はFIAにも向けられたものかもしれない、とビノットは考えます。

もしレースが再スタートしていたら、何が待っていたのでしょうか。2人ともソフトタイヤを履いていましたが、フェルスタッペンは新品で、ルクレールは予選で使用したソフトでした。レッドブルのほうが速かったことを考えると、レースが再開されていても少なくとも優勝争いに関しては、なんの影響もなかったと思われます。

フェラーリは、ベッテルが引き起こしたバーチャル・セーフティでピットインすることが、速いレッドブルを脅かす唯一の方法であることを認めていました。ルクレールはこの点について、チームの方針に従ったと言います。

「今日の判断が明らかなミスだったとしても、それは僕らの選択だったし、振り返ってみると、VSCがいつ終了するかは予測できない。もし僕が止まっていなかったら、マックスがピットに入っていただろうし、彼も僕と同じような問題を抱えていたはずだ。だから、誰のせいでもないんだ。ただ、ちょっとアンラッキーで、おそらくペースも少し足りなかったんだ」

レースを通じてどのタイヤでもフェルスタッペンはルクレールより速く走れていました。だから、フェルスタッペンがツーストップにしようが、ルクレールが何をしようがフェルスタッペンの勝利は揺るがなかったでしょう。なのでレースが再開しなかったのでルクレールの勝利が奪われたという話は、かなり楽観的なものの見方かもしれません。

地元イタリアで2位のルクレール

しかしルクレールが「再スタートしたかった」と語ったことは当然です。それが彼らの唯一の勝利への方法だったからです。一方、フェルスタッペンは「とても残念」としながらも、もしラスト1周の勝負が始まっていたとしても、新品タイヤを履いていたのでそれほど心配はしていなかったと語っています。いずれにせよ、両ドライバーとそれぞれのチーム代表は、今回のレースがアンチクライマックスであったということでは意見が一致しました。

そしておそらく、それは2022年シーズン全体についても同じことが言えるでしょう。フェルスタッペンは少なくとも数字的には、次のシンガポールで2年連続のタイトルを手に入れることができます。モンツァでフェラーリは、夏休み明けの2レースとは違い、少ないながらもレッドブルにプレッシャーを掛けられていました。しかしフェラーリの関心はもう来年に向かっているのかもしれません。

またモンツァでは、レッドブルのマシン開発における前進がはっきりしました。フェラーリとは対照的にレッドブルの開発は目に見えて結果につながっています。RB18は重量オーバーを大幅に削減し、フェラーリの予選での優位性を脅かしています。重量削減ができたため、フェルスタッペンの尖った(オーバーステアを好む)ドライビングスタイルに最適な重量配分が可能になりました。

その結果フェルスタッペンは、ホンダの強力なPUによるトップスピードの武器を発揮することなくても戦えるようになりました。2度目のワールドタイトルを追い求めるフェルスタッペンは、栄光のタイトルを手にすることができるでしょう。問題はそれがいつかということです。

イタリアGP レース結果