スペインGPのフェルスタッペンの優勝は、最高のパフォーマンスだったと書かれるかもしれません。しかし、少し掘り下げてみると、この勝利は見た目ほど簡単ではありませんでした。数字の上ではポールポジションから勝利まで簡単に見えたものの、難しい局面がいくつかありました。

スターティングタイヤが発表されたとき、セルジオ・ペレスが上位陣の多くが履いたソフトではなく、ミディアムを履いていたのは、それほど驚きではありませんでした。彼は予選で失敗し中団からのスタートだったので、ライバルたちと反対の作戦を選択することは予想できました。
多くのライバルはバルセロナの最初のコーナーに向かう長い下り坂で、発進時のグリップを得るためにソフトを選びましたが、フェルスタッペンが予想に反してミディアムを装着していたのには、驚きました。
「ソフトタイヤはかなり劣化が早く、3ストップが必要になるのではと懸念していたんだ。だから、少し保守的にした」とクリスチャン・ホーナーが説明しました。
この選択により、フェルスタッペンはスタート時にいつもより危険にさらされることになりました。ターン1まで距離があるので、2番手スタートのカルロス・サインツにスリップストリームの機会を与える可能性がありました。
このレッドブルのタイヤ選択によって、サインツの方がフェルスタッペンより蹴り出しとその後の加速で有利になり、さらにフェルスタッペンのトウも使えます。ライトが消えるとフェルスタッペンはいい蹴り出しを見せます。しかしすぐに右にコースを取りサインツのラインを押さえに来ました。
この動きによりサインツはフェルスタッペンのトウを使い急接近します。イン側を抑えられたサインツはアウト側に進路を取りターン1に向かいます。
フェラーリはレッドブルに迫り、サインツはフェルスタッペンのアウト側から侵入し、二台はほぼ同時にターン1に飛び込みます。

フェルスタッペンは、レッドブルの直線スピードが速く(フェルスタッペンは予選のスピードトラップでヒュルケンベルグの次だった)サインツに先行されてもまた抜き返せるにも関わらず、そのアグレッシブな走りがまだ健在であることを示しました。
普通であればアウトサイドにいて、かつ柔らかいソフトを履くサインツの方がコーナーリングスピードが高いはずですが、そこを負けずにフェルスタッペンはトップをキープします。するとサインツはフェルスタッペンと争うことなく2位に落ちました。
サインツからすれば、彼が争うべき相手はレッドブルではなくて、後ろにいるメルセデスやアストンマーチンだったので、ここで無理してコースアウトして順位を落としては元も子もないと考えたのでしょう。
フェルスタッペンはポールポジションを獲得した後、レース序盤に順位を落としても「大丈夫」と話していました。彼は例えスタートで先行されてもDRSを使えば順位を回復することが可能でした。レース後、彼は次のように振り返りました。
「逆の立場でも、同じような話になっていたかもしれないね。彼らが自分のポジションを守るように、僕は自分のポジションを守ったんだ」
いずれにせよサインツは、フェルスタッペンのディフェンスに不平を述べず、次のように語りました。
「彼はポジションをよく守ったし、僕をワイドに走らせ、やるべきことをやったよね」

このハードだけどフェアなバトルのあと、フェルスタッペンはそのまま大きく差を広げます。オープニングラップを終えた時点で1.1秒の差をつけ、フェラーリのDRSの脅威から脱しました。そして15周目にサインツがストップするまでに7.1秒のリードを築きます。
スタートで順位を失うリスクを乗り越えれば、レースではミディアムの方が有利になります。長く走れるのでタイヤ交換のタイミングの選択肢を幅広く持てますし、セーフティカー登場時にタイヤ交換できるチャンスも増えます。
ソフト勢が早めのストップする間、フェルスタッペンは長い距離を走ることができました。しかし、レッドブルがミディアムでスタートすることを決めた時に予想したほど、タイヤ交換の時期は早くはありませんでした。これは決勝当日の気温が曇りだったこともあり、低かったからです。さらにレース中に路面温度は下がり続けました。実際、タイヤに厳しいこのサーキットで、ソフトでスタートしたハミルトンとラッセルは、重いマシンだったにも関わらず24周と25周を走れています。
そしてフェルスタッペンが第2スティントでハードに変えたとき、フェルスタッペンに抵抗できるドライバーがいない状況でした。
問題はフェルスタッペンがワンストップで最後まで行けるかどうかでした。スタートタイヤでミディアムを選んだことで、フェルスタッペンにはワンストップという選択肢が視野にありました。
しかし実際には、第2スティントがフェルスタッペンにとって最も厳しいものとなりました。というのも二度目のストップまでに彼はリードを16.3秒まで広げていたにも関わらず、ハードコンパウンドでのマシンバランスに不満を抱いており、予想以上にスライドしていたからです。

タイヤの熱ダレが心配になりつつあったので、フェルスタッペンはこのままでは温度が上がりすぎてタイヤの寿命を縮め、レッドブルが避けたい3ストップにしてしまう事を懸念していました。
フェルスタッペンは「ハードは出来損ないのミディアムみだいだった。同じようなデグなのに、もっと滑るような感じだった」とハードの感触を語りました。「幸運にも、もう1回ピットストップをすることができたが、今までの人生で最も楽しいスティントではなかったよ」
そしてレースを14周残した2回目のストップで彼はソフトを履きます。
ピレリのモータースポーツ担当のマリオ・イソラ氏は、フェルスタッペンのハードでの不満については「ラップタイムは悪くなかったので、タイヤにグリップがないことを明確に示していたわけではない」と述べました。
そして実際、フェルスタッペンのラップタイムは、搭載燃料が徐々に減り車重が軽くなっていたこともあり、1m19秒台後半から徐々に上がっていき、1m18秒台後半となり、さらにリードを広げていきました。

イソラは、フェルスタッペンが相対的に苦戦したのは、路面の進化が影響しているのではないか、と推測しています。「路面にラバーが乗ってくるとグリップが増してくるので、少しでもラインを外すと影響が出るのではないか」
フェルスタッペンにとってより大きな、より注目される問題、そしてバルセロナでの勝利が簡単なものであったとは言い切れない2つ目の重要な理由、それはトラックリミットとの奇妙な闘いです。
39周目、15.6秒のリードを築いていたフェルスタッペンは、レースを完全にコントロールできていたにもかかわらず、ターン5でホワイトラインを超えたとしてラップタイムを抹消されました。その約10分後、45周目にも同様の行為でタイムを抹消されました。さらに56周目、ターン10の上りヘアピンの立ち上がりで3度目の警告を受け、タイム抹消とともにブラック&ホワイトの警告旗が提示されました。
もう一度違反すれば5秒加算のペナルティになり、もしレース終盤にセーフティカーが導入されて後続との差が縮まれば逆転される可能性もありました。フェルスタッペンは、ケビン・マグヌッセン(コースリミット違反で2回警告)以外で唯一、この問題で複数回の警告を受けましたが、それをハードタイヤのせいにして受け流しました。しかし、52周目にソフトタイヤに履き替えてから、グリップも復活し問題なくフィニッシュすることができました。

「時々あることなんだ」とフェルスタッペンは言います。「コースによってはもっと簡単にこうなることもあるし、硬めのタイヤでは白線内に収めるのに少し苦労した。最後の警告を受けたら、そのあとは白線内に収めなければならなかった。でも、本当に問題ないんだ」
さらにホーナーは、フェルスタッペンがコースリミット制限違反で制裁を受けそうだと告げられたことに、とても驚いていたと述べました。彼はそこにリミットがあることを認識していませんでした。
この時点では、ファステストラップのボーナスポイント巡る戦いには決着がまだついていませんでした。
ペレスは最終スティントのごく早い段階でDRSを使った走行でファステストラップを確保するためにプッシュしました。しかし、フェルスタッペンはチームメイトのペースを知るや、それを吹き飛ばすほどのペースで、61周目に1分16秒330のファステストラップを記録。

すると、エンジニアのジャンピエロ・ランビアゼが、「マシンを白線内に留めてフィニッシュするようにドライブしてもらえるかな、ありがとう」と皮肉った。コックピットからは、「ああ、そうだな」というそっけない答えが返ってきました。
「この2人の関係は、まるで老夫婦のように、テレビのどのチャンネルを見るべきかを議論しているようなものだ」とホーナーは、この最後の奇妙なエピソードについて語りました。しかし、最終的にはすべてがうまくいきました。「マックスは完全にコントロールできていた」とホーナーは結論づけました。「そして、リスクを認識した上で、装着していたタイヤで快適にファステストラップを出すことができた」
フェルスタッペンは2位のハミルトンに24.1秒の差をつけてフィニッシュし、「クルマはハッピーだった」と振り返った。
レース後の記者会見で、チャンピオンシップのリードが53ポイントになったことを知らされた彼は、「ここ数戦のレースウイークは、間違いなく僕にとってポジティブなものだった」と語った。「でも、今回は本当にうまくいったと思う」


