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フェルスタッペンはどうしてレッドブルを100勝目に導けたのか? カナダGP観戦記

レッドブルのワールドチャンピオン、マックス・フェルスタッペンがモントリオールで落ち着いたパフォーマンスを見せ、今年の8戦中6勝目を挙げてポイントリーダーとしての差をさらに広げました。フェルスタッペンはコントロールされたドライビングで2人のチャンピオンを置き去りにし、レッドブルにF1通算100勝をもたらし、記録を達成した5番目のチームへと導きました。

いろいろと細かいトラブルはありながらも、カナダGPで危なげなく勝利したフェルスタッペン。これでレッドブル通算100勝を達成しました

F1の100勝クラブは、カナダGPが開催されるまで、伝統的なチームによって占められていて、フェラーリ、ウィリアムズ、マクラーレン、メルセデスは、グランプリ通算100勝というマイルストーンを達成した者たちの高貴な殿堂を独占していました。その大胆でダイナミックなアプローチでF1のカウンターカルチャーを担ってきたレッドブルが、ジル・ビルヌーブ・サーキットでエースドライバー マックス・フェルスタッペンのワンマンショーによってその仲間入りを果たしました。ただ2023年シーズンのここまで圧倒的な強さを誇っていたフェルスタッペンが、このような活躍を見せるのは全く驚きではありませんでした。

フェルスタッペンが最後にフェルナンド・アロンソにつけた9.6秒の差は今年最大ではないし、レッドブルに移籍してからの数シーズンで最も圧倒的な勝利だったわけでもありません。ウェットコンディションで行われたプラクティス・セッションや、サーキットのシステムがトラブルを起こし、タイムが得られなかったセッションなど、レッドブルは混乱したフリー走行の3セッションで苦戦を強いられました。

FP2では、マシンが珍しくサーキットの縁石やバンプでいつもと違って安定しないことが明らかになりましたが、ウェット/ドライ/ウェットで行われた予選では、フェルスタッペンが不安定な天候を打破し、キャリア25回目のポールポジションを獲得しました。

とはいえ、レッドブルが金曜夜に変更したセッティングの影響を、フェルスタッペンは部分的に理解できないままレースに臨んでいました。2023年ここまでは好調だったコーナー出口のトラクションが、プラクティス2回目のセッションで弱まったように見えたのです。チームはその後、セットアップの微調整をし、その問題を解消しました。

「正直なところ、何をどう予想していいのかわからなかった」とフェルスタッペンはレース後に語りました。「金曜日に比べてかなりマシンを変えたから、今日はどんなフィーリングになるのかわからなかった。幸い、いい方向に行ったよ」

スタートでもトップを守りターン1に侵入するフェルスタッペン。3位スタートのハミルトンがアロンソをかわして2位に上昇

レッドブルの圧勝に飽き飽きしている人々は、アロンソがロケットスタートを決めてターン1でフェルスタッペンに挑むことを期待していました。しかし、アロンソのいた偶数グリッド側のスタートはグリップがなく、アロンソの蹴り出しはライバルたちと互角でしたが、その後ルイス・ハミルトンと比べるとアロンソはホイールスピンが多くなり彼の加速は伸びず、ハミルトンに2番手を譲ったアロンソはフェルスタッペンを追い詰めるどころか、後方から並びかけていたジョージ・ラッセルへの防戦で目一杯となってしまった。

ハミルトンは予選後、スタートでアロンソとフェルスタッペンにプレッシャーをかけたいと話したものの、スタートしてしばらくして、前を走るレッドブルを観察した時、低速コーナーの立ち上がりでリアエンドが安定していることに気づいて、フェルスタッペンへのチャレンジについては難しいと考えました。そしてハミルトンの予想通り、フェルスタッペンが序盤の10周で毎ラップ、コンマ数秒ずつリードを広げていきます。

8周目、ローガン・サージャントがオイル漏れの疑いでターン6にマシンを止めたため、一時的にバーチャルセーフティカーが導入されたが、フェルスタッペンはなんの問題もく10周目には3.6秒のリードを築きます。フェルスタッペンは鳥に当たったと無線で報告してきましたが、鳥にぶつかっても今のフェルスタッペンの勢いが衰えることはなく、次の2周でさらにリードを広げます。後にクリスチャン・ホーナーは、鳥の死骸がレッドブルのブレーキダクトに詰まっていたことを明かしています。

しかし、フェルスタッペンとレッドブルがミディアムタイヤを履いて第一スティントを伸ばしたいと考えていたのなら、12周目のターン9出口でラッセルがバリアに激突しセーフティカーが出たことで、彼らの作戦に修正を加える必要が出てきました。

このタイミングで上位3台はミディアムタイヤからハードに履き替えるためにピットストップ。ハミルトンはアロンソの目の前でピットから出てきて、これはかなり危険なように見えたが、スチュワードは反則行為がなかったと判断し、ハミルトンにアンセーフリリースのペナルティを科さないことを決めました。

アロンソとの2位争いに破れたハミルトン。ただバトルできた事自体には満足していた

フェルスタッペンはセーフティカーが終わる17周目のシケイン出口でリスタートのアクセルを踏み込み、後続車を置き去りにしリードを確実にしました。しかし、ハミルトンとアロンソはすぐ2位争いを再開します。

リスタートから2周後、フェルスタッペンはすでにハミルトンに1.6秒差をつけていましたが、ハードタイヤにはまったく納得していない様子でした。ハミルトンがなかなか迫ってこないことで、フェルスタッペンの懸念が少し和らぎましたが、ハードコンパウンドの温度を適切なウィンドウに保つために、フェルスタッペンは必要以上に攻めなければならないと感じていました。

「今日はタイヤを適切な状態に保つのが難しかったと思う」と彼はレース後に話しました。「タイヤは常に冷えていて、かなりハードにプッシュしなければならなかった。グリップが低くて、簡単にはいかなかった。でも最終的にはすべてがうまくいった。ただ、ハードタイヤはコンパウンドが硬いので、タイヤ温度をキープするのが難しかった」

「僕たちのクルマは、他に比べてタイヤに優しく、タイヤに厳しい状況では有利だ。今日はおそらく、タイヤの温度をキープするためにもう少しタイヤに厳しいマシンが必要だっただろう」

ハミルトンもまた、ピットレーンでのニアミスの後、アロンソと比較するとハードコンパウンドでやや苦しい時間を過ごしていました。そしてアロンソは22周目のバックストレートでハミルトンに追いつき、シケインで2番手に浮上します。

フェルスタッペンはハードタイヤではグリップが得られないと主張しながらも、2位にアロンソが来てもリードを守り続けます。レースが中盤に差し掛かると、アロンソは5秒以上の差をつけられますが、アストンマーティンはアロンソにリフティングとコースティングを要求します。

アロンソがブレーキ冷却に問題を抱えているとの憶測が流れましたが、アストンマーティンのチーム代表であるマイク・クラックは、マシンの燃料搭載量に対する懸念から、レース終盤に燃料切れを起こさないよう、チームは燃料のセーブを開始したと明かしました。クラックは燃料システム内の問題が何であったかは明言しませんでしたが、リフト&コースティングの指示はのちに不要であったことが判明しました。

優勝には手が届かなかったアロンソだが、ハミルトンから2位を守った

アロンソはレース後、「彼らは(それが何なのか)教えてくれなかった。心配させないためだったのかもしれない。でも、僕にはわからない。マシンの調子は良かったよ。でも、僕はただ指示に従っていただけなんだ。だから、もう少し速く走れるペースはあった」

「確信が持てなかったので、念のため、燃料を節約してリフト&コーストで走るのがベストだと考えていた」とチーム代表のクラックは説明した。「結局、問題は起こらなかった。どれくらいペースを失ったかを判断するのは難しい。コンマ数秒か、1、2秒かもしれない。用心のためだった。でも完走できないか、もう少し(燃料が)多い状態でフィニッシュするか、どちらかを選ぶことができるなら、私なら安全な方を選ぶね」

それでもレース中に予選ラップ並みの走りをしたアロンソを止めることはできなかった 。フェルスタッペンとアロンソの差は5.4秒に広がっていたが、レース中盤になると、2回目のピットストップを前にその差はわずかに縮まり始めた。

この時点でハミルトンのアロンソとの差は約5秒になり、彼は40周終わりでの最後のストップに備えてハードコンパウンドのピレリを使い切るように命じられていた。アンダーカットでタイムを稼ぎ、アロンソとの差を縮めようとしたハミルトンは、アストンマーティンよりも1周早くピットストップを行い、ミディアムタイヤを装着して残り30周の最終スティントに向かった。アロンソはハードタイヤしか残っておらず、遅いラバーと戦いながら終盤にハミルトンを抑えなければならなかった。

「予選と決勝のタイヤ選択は、予選前に決める必要がある。「金曜日の限られたプラクティスでは、(ハード2セットを温存するのは)単なる推測に過ぎなかった。ただその決定には満足しているし、ハードは悪いタイヤではなかったし、スティントを走り切ることができた」

後続の二台がタイヤ交換したことにより、フェルスタッペンは安心して二度目のタイヤ交換することができました。彼は42周目にハードよりは温度管理が容易な新品のミディアムタイヤを装着し、最終スティントに臨みました。上位二台が2回目のピットストップを終えた後、アロンソはフェルスタッペンとの差を4.5秒差まで詰め、47周目には4秒弱まで詰めましたが、珍しいターン8でのミスでランオフに進入しタイムを失います。

アロンソは悔しがりながらもリフト&コーストで走り続け、レースエンジニアのクリス・クローニンに 「もう十分だろ 」と声をかけた。「レースに勝ちたいんだ」と彼は言い残し、アストンマーティンのエンジニアたちが別の解決策を見つけてくれることを願いました。

しかし、その後フェルスタッペンがミディアムタイヤでタイムを更新し続けたため、勝利への望みは薄れたように見えました。その差は1周あたりコンマ数秒でしたが、徐々にリードを広げるには十分で、アロンソは残りのレースでの優先順位を考え直さなければならなくなりました。

残り10周になった時点で1位と2位の差は8.3秒。ハミルトンはアロンソがブレーキに問題を抱えていると誤って伝えられながらも、その差をわずか1.4秒に縮めてきました。しかしこれがアロンソのペースアップを促し、アロンソは1分15秒台に突入して、ハミルトンの努力を無効化しました。

ターン8ではわずかにミスをして縁石に乗り上げてマシンコントロールを失いそうになる場面もありましたが、フェルスタッペンはレースを締めくくる方法を心得ており、無事にレースをフィニッシュしました。最後フェルスタッペンは、アロンソとの差をさらに1秒広げ、残り2周で10秒のリードを築き、41勝目を上げてアイルトン・セナの記録に並びました。

ジル・ビルニューブサーキット レイアウト

「ゴーカートに乗っていた小さな頃は、F1ドライバーになることを夢見ていた。41勝もできるなんて想像もできなかったよ」フェルスタッペンが説明しました。

「アイルトンとのタイ記録は信じられないことだ。誇りに思うね。もちろん、ここで止まらないことを願っている。もっと多くのレースで勝ち続けられることを願っている」

アロンソは2位を守りきり、ハミルトンに4.6秒差をつけてチェッカーを受けました。2005年と2006年のワールドチャンピオンであるアロンソは、スタートで出遅れたと思ったというが、アストンマーチンのハードタイヤのペースはハミルトンを逆転するのに役立ちました。かつてのハミルトンなら順位を譲ったことを悔やんだかもしれませんが、過去2シーズンでメルセデスが直面した苦戦を考えれば、かつての宿敵と本物のバトルを楽しめたことを喜んだでしょう。

混乱した予選で後退したフェラーリだったが、決勝ではなんとかポイントを稼いだ

上位の王者3人組の後方では、フェラーリのコンビが予選での失敗をレース戦略で救うことに成功しました。長いミディアムスティントで1ストップに成功。ルクレールはサインツより前でフィニッシュしましたが、サインツは的確な判断を下し、フェラーリのピットに第一スティントの延長を促しました。

最終的に両ドライバーのペースは上位陣のペースと変わらず、サインツはルクレールから3秒以内の位置にいることが多かったが、2人は好成績を維持するためにチームメイトと争わないことで合意しました。そのためハミルトンもアロンソも、レース中にフェラーリが気になる場面があったと認めています。

(モナコに続き)レッドブルが苦手だと感じていたこのサーキットでも、フェルスタッペンがレッドブルの100勝を達成するのを止めることはできませんでした。セバスチャン・ベッテルがステアリングを握った2010年代前半の圧倒的な強さのなかで、このような輝かしい記録を達成するのは時間の問題だと思われていました。しかし、感傷的でないフェルスタッペンにとって、それは単なる通過点にすぎません。

「チームにとっては大きな成果だ。これが(100勝を達成できる)最初のチャンスだったし、100勝を達成できてうれしい。でも、もっと勝ちたいから、新しい目標は200だ」

200勝を達成したのはフェラーリだけで、それはチャンピオンシップへの長い参加期間のおかげでもあります。レッドブルはついに100勝クラブへの入会を達成し、残りのシーズンはフェルスタッペンの3回目のタイトルに向けた行進になるのかもしれません。それともそれを防ぐ新しいヒーローが登場するのでしょうか。現時点でそれを望むのはかなり厳しいと言わざるを得ません。