予選では宿敵ハミルトンがフェルスタッペンを破っており、レースでもフェルスタッペンを脅かす存在になると予想されていたが、予選での弱点が決勝では強みになり、フェルスタッペンがライバルを圧倒してレッドブルが12連勝を達成したハンガリーGPを振り返ります。
▽予選でフェルスタッペンを破ったハミルトン
今回は予選から振り返りましょう。予選最大のサプライズは、ハミルトンのポールポジション奪取です。二人の差はたったの0.003秒差。ほとんどないに等しい差です。予想外の速さを見せたハミルトンの力も当然ありますが、これは最後の最後にアタックさせたチームも見事でした。
ハンガロリンクは普段あまりレースが開催されないので、路面はセッションが進むに連れどんどん進化していきます。なので予選でも最後にアタックするのが有利になるのですが、最後にアタックすればするほど、イエローやレッドフラッグが出たときに再アタックできないというリスクと隣り合わせです。
この僅差を見ると、もしハミルトンが最後にアタックしなければ逆転ポールはなかったと思われます。
それを決断したメルセデスとそれに対して想像以上のパフォーマンスを見せてポールを取ったハミルトン。久しぶりに緊迫感の高い予選を見られました。
▽レースを決定づけたスタート
2021年以降、ほとんど休眠状態にあったハミルトンとフェルスタッペンのライバル関係は、2人がフロントローを独占したことで復活したかに思われました。
もしフェルスタッペンが2週間前のイギリスGPで見せたようなパフォーマンスを繰り返せば、ハミルトンはメルセデスの堅実なレースペースを生かし、現実的にレッドブルを苦しめることができる可能性がありました。逆にフェルスタッペンがオープニングコーナーで優位に立てば、1988年にマクラーレンが記録した11連勝を更新し、レッドブル12連勝を達成する可能性が飛躍的に高まると見られていました。
2023年のこれまでのレースを振り返れば、フェルスタッペンが第1コーナーでトップに立てば、いつものように勝利に向かって走り始めるのは驚くことではありませんでした。彼がフィニッシュラインを通過したとき、ランド・ノリスが2番手でチェッカーフラッグを受けるまで33秒待つ必要がありました。フェルスタッペンとレッドブルにとって、前人未到の覇権を手にした今シーズン、この勝利はフェルスタッペンにとって最大のマージンのレースとなりましたた。
レース前、パドックでは面白いレースや一騎打ちのバトルが繰り広げられるのではないかという期待感があふれていました。メルセデスのマシンに弱点が残っていることを考えれば、ハミルトンがフェルスタッペンにレース全体で挑むことを期待するのは非現実的だったのかもしれません。しかしながらレース序盤に限定すれば、面白いレースが見られる可能性はありました。しかしながら現実は厳しく、フェルスタッペンは素早い加速でハミルトンのインサイドに飛び込み、スタートして数秒後には優位な状態を作りました。
「クラッチを切った瞬間、シルバーストーンとは違ってホイールスピンがないように感じた」とフェルスタッペンはスタートについて説明しました。「いい走りができた。で自分はインサイドにいることをわかっていたから、ターン1では自分が有利だった。ターン1ではかなり遅れてブレーキをかけた。それでターン2でも自分の走りをしたんだ」
ハミルトンのほうは、特にクリーンなスタートを切れたわけではなく、フェルスタッペンに抜けるチャンスを与えてしまいました。ポールシッターのハミルトンは「ちょっとホイールスピンをした」と説明しました。それはその後のフェルスタッペン優位を決定づけただけでなく、オープニングラップで二台のマクラーレンに追い抜かれるきっかけにもなりました。
ハミルトンは最後までフェルスタッペンとポジションを争っていたので、ターン1でフェルスタッペンに少し押し出される格好でアウト側の立ち上がりで多少妥協を強いられた走りを余儀なくされました。
ノリスは前を行くフェルスタッペンとハミルトンを追いかけようとしましたが、右コーナーのタイトなターン1をターンインするときにはイン側にこの二台がいて、アウト側でこの2台と並ばざるを得ませんでした。
もう一台のマクラーレンであるピアストリはスタートでは路面がダーティなインサイドからのスタートということもあり、良くも悪くもなくポジションを守ってターン1にアプローチしました。ただ前述のようにフェルスタッペンが順位を守るためにブレーキをギリギリまで遅らせ、ハミルトンとノリスをアウトサイドに追いやったのでイン側には広いスペースがあり、ピアストリはマシンをエイペックスに近づけて、ハミルトンとノリスを抜き2番手に浮上しました。
ハミルトンの苦戦は更に続きます。ターン1出口での加速が鈍ったハミルトンに対して、ノリスはターン2でマクラーレンをアウト側に出し、続く右カーブ ターン3の手前でハミルトンを抜き去ります。この動きについてノリスは、ターン1のあとに来るチャンスを見越して、ブレーキバランスを調整するためにステアリングホイールを2回クリックしたことを明かしました。
「スタートはうまくいって、マックスとルイスについて行ったんだけど、イン側に行けなかったんだ。ルイスのスリップストリームがあったので、ルイスの横に半分くらい並びかけた。でもそこからが難しかった。早めにブレーキングすれば、インを突かれやすいからね」
「でも僕がブレーキをしてターンインしようしたけど、そこにはルイスとマックスがいてターンインできなかった。簡単に言えば、邪魔されてしまったよね。オスカーが抜けたのは良かったけど、ルイスを抜けなかったのは悔しかった」
その後、ターン2でポジションを守ろうとしたハミルトンは、イン側を抑えます。ただイン側からコーナーにアプローチした場合は、少しブレーキを早く掛けなければなりません。そのためスピードの鈍ったハミルトンに対して、アウト側からアプローチしたノリスは並びかけてコーナーに入ります。
「でもそのあと僕はアウトサイドをキープして、彼が少しワイドに来なかったのにはちょっと驚いたよ。もう少し幅寄せしてくると思っていたから。でも彼はそうしなかった……」とノリスは語りました。
そうしてノリスもハミルトンを抜き3位になり、マクラーレンがオープニングラップで2位と3位になりました。
▽フェルスタッペンの一人旅
だがそれはフェルスタッペンには、ほとんど影響を及ばしませんでした。フェルスタッペンは、ピアストリの懸命な追い上げにもかかわらずギャップを築き、2周目が終わる前にDRS圏内から抜け出し、ピアストリは追いかけることができなくなりました。
フェルスタッペンはレース序盤ではなかなか差を広げられませんでしたが、ミディアムコンパウンドで最初のスティントを走りきる間には十分なマージンを築きました。
一方、序盤のハミルトンは4位に落ちたこともあり、オーバーヒートの予兆があり、ストレートの終盤にはリフトアンドコーストをしてPUの温度を管理しなければいけなくて、ペースを上げることができませんでした。
▽熾烈な表彰台争い
17周目を終えた時点で、フェルスタッペンはピアストリに8秒以上の差をつけていて、その勢いに陰りはありませんでした。マクラーレンは、ピアストリのペースが落ちていなかったことからまだ走れると判断して先にノリスをピットインさせ、ハードタイヤに履き替えさせました。これは後ろを走っていたハミルトンが16周目にタイヤ交換したので、彼のアンダーカットの脅威から逃げるためでもありました。
この時点でのマクラーレンは、非現実的な優勝ではなく、現実的な2位と3位を守るという目標を持っていました。そのためにはアンダーカットの脅威からノリスを守られなければなりませんでした。
ピアストリがハードタイヤを要求したのは、ノリスがピットインした1周後でした。ピアストリがたった2秒でピットストップを行ったにもかかわらず、ノリスはターン1で楽々とチームメイトを抜き去り、2位の座を奪いました。この際、ノリスはオーバーテイク用に用意されていた、モーターアシストを最大に使えるモードを利用しました。
実際には先程述べたように、ハミルトンはオーバーヒートに苦しんでおり、アウトラップでもペースが上がらずにアンダーカットは難しかったのですが、それをマクラーレンは知るよしもありませんでした。
マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは、チームがドライバーの入れ替えを行おうとしたわけではないと強調したが、ノリスのアウトラップはピアストリにとってあまりにも「スーパー、スーパー速い」もので、ピアストリはそれに対抗できませんでした。
ノリスはニュータイヤを駆使して素晴らしいペースで周回を重ね、フェルスタッペンがタイヤ交換するまでに、5.2秒差まで縮めました。フェルスタッペンがハードタイヤに交換して、適切な温度領域に上げるまでに2ラップを要したが、タイヤが適切な状態になると、フェルスタッペンはアドバンテージを回復し、再びレースをコントロールし始めました。
▽フェルスタッペンが独走した理由
この時点でフェルスタッペンは、24時間前にRB19のバランスに不満を抱いていたのとは対照的に、とても快適に感じ始めていた。予選では、フェルスタッペンはレッドブルのフィーリングに満足しておらず、6戦連続のポールポジションを獲得するための努力は成功しませんでした。日曜日の午後にドライブしたフェルスタッペンは、それとは正反対で、1周の予選アタックで欠けていたピースが70周を超えたレースでは有利に働いたと示唆しました。
「予選ではマシンのセットアップに関していくつか異なることを試してみたんだけど、それが今日はうまくいった。でもこの週末を通じていろいろなことを試したけど、1ラップだけでうまくいったことはなかった。1ラップだけでは、タイヤをうまく機能させられなかった」
「レースでは気温が上昇し、長時間にわたって暑くなる。そのためには恐らくまったく違うバランスが必要で、基本的に昨日はアンダーステアが多かった。今日は気温も路面温度も高い。だから今日はバランスが良かったんだと思う」
レッドブルのチームボスであるクリスチャン・ホーナーは、
「予選よりもレースに集中するのが今年の傾向だね。シルバーストーンではマクラーレンとポールポジションを争った。モナコや他の低速サーキットでは、マックスの卓越したドライビングでポールを獲得した。でも、どこでも日曜日のレースペースはとても強かった。そこにポイントがあるのは明らかだ。そこに僕たちは集中しているんだ」
レースの半分を終えた時点で、フェルスタッペンのリードは11秒となり、直近のライバルたちより1周1秒速く走れていた。レースはいつものように彼ら自身との戦いとなり、フェルスタッペンはハードタイヤのスティントを可能な限りプッシュしながら、ますますリードを広げていった。
フェルスタッペンは第2スティントを51周目まで引っ張ることができ、他の誰よりも最後にタイヤ交換をできた。ミディアムへ履き替えたフェルスタッペンはすぐにタイヤの温度を上げてアウトラップで1分20秒504を叩き出し、一気にリードを3秒広げた。
中盤のスティントを終えたフェルスタッペンは、その後の各ラップで1秒ずつリードを広げていくことができた。レース序盤は保守的だったかもしれないが、レース終盤はレッドブルを制限するものはほとんどなく、フェルスタッペンのハンガリーでの勝利の可能性は高くなっていた。マクラーレンは、フェルスタッペンが1988年の11連勝記録をいとも簡単に塗り替えていくのをピットから眺めるしかありませんでした。
▽記録破りのレッドブル
「我々は歴史を作ったんだ。グランプリレース12連勝を達成できたことは、チーム全体にとって特別なことだ」。ホーナーはレース後にこう振り返りました。
「35年かかったが、我々のチームは記録を破ることができた。特に今我々が競争しているレベルの高い相手とのレースでは、これは驚異的な偉業であり、チーム全体が非常に誇りに思えることなんだ」
「チームのやり方がうまくいっているんだ。ディテールがすべてだと思うし、今後も手を抜かずにやっていくつもりだ」
フェルスタッペンの勝利について、トト・ウルフはF1マシンが “F2 “の他のチームと戦っているのと同じだとしながらも、それは 実力主義 の結果であり、レッドブルが行った仕事は他のチームも受け入れなければならないと認めた。レッドブルが12連勝を達成し、2023年も勝利を独占し続けることができたのは、レッドブルのファクトリーが維持し続けている卓越したエンジニアリングの賜物である。
33秒以上の差をつけて勝利するドライバーは、このカテゴリーの完全なる支配者と言えます。しかし、かつてないほど厳しく規制されたルールの中でレッドブルがそのようなアドバンテージを引き出せるということは、単純な優位性をはるかに超越しています。1988年のマクラーレンの連勝は、アイルトン・セナがモンツァでジャン・ルイ・シュレッサーと絡んだことで終わりました。今回もレッドブルを止められるのは不可抗力だけのようです。