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イギリス人に夢を見させたノリスの走り_イギリスGP観戦記

イギリスGPでランド・ノリスは、2023年シーズンを独占しているマックス・フェルスタッペンをオープニングラップでリードし、レース終盤には情け容赦のないルイス・ハミルトンを果敢にディフェンスした。コンディションと路面特性はアップデートしたマクラーレンに有利だったかもしれないが、ノリスはそれ以上の仕事見せてくれた。

優勝したフェルスタッペン以上に、シルバーストーンを歓喜の渦に巻き込んだランド・ノリス

シルバーストーンの観衆はその瞬間どよめいた。マックス・フェルスタッペンとランド・ノリスは、フロントロウから一斉にスタートしたが、地元のヒーローであるノリスはすぐに友人のフェルスタッペンを抜き去り、トップに躍り出た。その瞬間、満員の観客は地元でイギリス人ドライバーが優勝する夢を見た。

最終的に、フェルスタッペンとレッドブルは再び冷酷なまでの速さを発揮し、フェルスタッペンにとって2度目のイギリスGP優勝を飾った。これでフェルスタッペンは6連勝、レッドブルは11連勝となり、1988年にマクラーレンが達成した記録に並んだ。フェルスタッペンからセルジオ・ペレスまでのポイント差は99。観客は(叶わぬ)夢を見るしかありませんでした。

優勝したのはノリスではありませんでした。2021年のソチで初勝利を逃したノリスにとって、初優勝は今回も叶わぬ夢でした。しかし今回、彼はあの日彼を打ち負かしたF1の伝説 ルイス・ハミルトンからポジションを守り2位の座を射止めることができました。

ノリスとマクラーレンが今年のイギリスGPを少なくともレッドブルとともに面白くし、ハミルトンとメルセデス勢と戦ったイギリスGPを振り返っていきましょう。

スタートで出遅れたものの、すぐに巻き返しイギリスGPを制したフェルスタッペン

▽ノリスがスタートで前に出たフェルスタッペンのミス

「ちょっとホイールスピンしすぎた」とフェルスタッペンはスタートについて語った。「そうなるとターン1まで加速の伸びが鈍ってしまう。そしてランドが前に出た」

ノリスがアビーの右コーナーで期待させる走りを見せていた頃、フェルスタッペンはもう1台のマクラーレンと争っていた。オスカー・ピアストリはチームメイトの後を追って、蹴り出し後のフェーズでうまく加速し、一時はイン側でノーズをフェルスタッペンの前に出していた。

しかし、フェルスタッペンが簡単に順位を渡すはずもなく、アウト側のラインでピアストリの前に飛び出した。その後、フェルスタッペンはノリスのスリップストリームに飛び込み、ノリスはウェリントン・ストレートで2度ウェービングをしてリードを守った。

ブルックランズやラフィールドでは2021年と同様のバトルは行われなかったが、クリスチャン・ホーナーはピアストリがナショナル・ピットの長いストレートでイン側にとどまり、フェルスタッペンをコプスのレーシングラインの埃っぽいアウト側の端に追いやったとき、あの有名なフェルスタッペンとハミルトンの激突を思い浮かべていた。

レッドブルのチームボスは、「バトルが落ち着けば、あとはDRS圏内に留まり続けてチャンスを待つだけだった」。それこそがフェルスタッペンのプランだった。フェルスタッペンは52周の最初の4周をノリスの後ろで走り、3周目にDRSが作動可能になる時には、DRS圏内にいた。

すぐにフェルスタッペンがノリスを抜き返せなかった理由について、ホーナーは、「コースの大部分がフラットアウトなので、ここではオーバーテイクするのは難しい」と語った。「すべてのクルマが一緒に収束してしまう。そのため、オーバーテイクもかなり複雑で、このサーキットでポジションを上げるのは難しいんだ」。

レース序盤にコースアウトして順位を落としたが、最後は安定した走りで3位になるハミルトン

▽いつものライバルたちの苦戦

そのラップでフェルスタッペンがDRSの助けを借りてウエリントンストレートでリードを奪い返しブルックランドへのイン側を抑えた。この時点でフェルスタッペンとノリス、ピアストリの3人はライバルに比べて一歩先を行っていた。

ブルックランズでノリスが「戦いを挑まず」、「無理に抵抗しなかった」のには、このことがあった。というのも、フェラーリのシャルル・ルクレールがピアストリに2.4秒差をつけられ、トップから3.9秒も離されている状況で、無理に勝負してミスをした場合、マクラーレンは失うものがかなり大きかったからだ。

マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは、「フェラーリやメルセデスのようなライバルを最初のスティントでリードできたことに、自分たちでも驚いている」と語った。「そしてそれが少し問題になりそうだった」

1週間前のオーストリアGPでは、少なくともレッドブルを悩ませるほどの速さを見せていたフェラーリが、ステラの予想通りの速さを見せられなかったのは、週末を通じてシルバーストーンに吹き荒れた強風のせいだった。

ループ、ラフィールド、ストウ、クラブでは風が特に問題で、特にFP1のように横風がマシンにぶつかっていた場合はなおさらでした。ところが土曜日はその風向きが変わり、ルクレールは再び速さを取り戻しました。

4番手と5番手のグリッドから決勝に臨んだフェラーリは、金曜日と同様の風向きに戻った風の影響で「クルマが非常に難しくなった」(ルクレール)。風の影響でリアエンドが滑り、コーナーからの脱出が難しくなってしまったのだ。

「ここは苦手なコースのひとつになると思っていた。高速コーナーが多いからね。このマシンの弱点のひとつなんだ」

高速コーナーはバルセロナでも好調だったマクラーレンの強みだ。気温が低かったこともあり、MCL60が苦手とするテクニカルな低速コーナーを得意とするアストンマーティンがトップ争いから脱落したことも幸運だった。

しかし、今回はメルセデスがスペインGPのようにレッドブルに戦いを挑むことはできなかった。チーム代表のトト・ウルフによると、ここでは「全体的に出口のトラクションにも苦労していた」そうで、もちろん「マシンは依然として扱いが難しい」。

さらにレースを複雑にしたのは、ハミルトンがここ最近ではあまりなかったくらい、ひどいオープニングラップになってしまったことだ。ビレッジでカルロス・サインツとジョージ・ラッセルのブレーキングに引っかかりコース外に出て、フェルナンド・アロンソに次ぐ8番手に後退したのだ。

この時、「なんて考えていたかは、ちょっと言えないな」。レース序盤にアストンを追うことのきっかけとなったこの瞬間について、ハミルトンは語った。

ハミルトンは7周目のブルックランズで元マクラーレンのチームメイトのインを突くが、その時点でサインツとの差は2.9秒に広がり、その前にはルクレールとラッセルがいた。

▽フェルスタッペンに食らいつくノリス

自国の英雄が勝利する夢は破裂したかもしれないが、フェルスタッペンがノリスを抜いたラップ時点では、レースの結果はまだ見えていなかった。ノリスがレッドブルの速さに食いついていければ、まだ望みはあった。

そしてノリスはまさにそれを実行した。9周目、ノリスはまだ1秒以内の差を保っており、ピアストリはさらに1秒遅れてチームメイトの後ろで待機を命じられていた。2021年のモンツァのように。

「ランドがDRS圏内に来たから、ほんの数周しかタイヤをクールダウンできなかった」と上位勢が履いていたミディアムタイヤの取り扱いについてフェルスタッペンは語った。

ノリスもまた、彼とマクラーレンが 「こういった(高速)サーキットではタイヤをうまく使うことができ、そこから恩恵を受けられる」こと理解していた。

「高速(コーナー)ではとても競争力があった」「ほとんどレッドブルと同等程度だったんじゃないかな。ターン15やストウのような中速コーナーでは、グリッド上でベストのマシンに近いと言えるだろう。ターン9(コプス)のような超高速では、そうでもなかったかもしれないけどね」

「レース中、他のマシンが少しペースが落ちるような状況でも、僕たちは間違いなくパフォーマンスを維持できた。そうすることで、とてもタイヤを労って走ることができた。特にタイヤの温度制限がないときには、タイヤをうまく使うことができた」と語った。

とはいえ、15周目にレースが落ち着くと、フェルスタッペンは周回を重ねるごとに差を広げていくことができた。この時点でトップ二台の差は3.1秒に達していた。

その後3周、フェルスタッペンはタイヤの温度もコントロールできるようになった。マクラーレンは何度もノリスにペースを維持できるかどうか尋ね、1ストップ作戦がうまくいくかどうかを確認し、彼はできると答えた。

ピレリのモータースポーツ・ボスであるマリオ・イソラによると、レースはソフト・ミディアム・ソフトの2ストッパーで展開されると予想していた。しかし、スタート直前にシルバーストーン上空に雲が広がり、その時点でストウとクラブから8マイル離れたブラックリー方面に雨が降ったため、多くのチームがアプローチを変更することになった。

「スタート直前に天気予報をチェックしていたら、30~40分後に雨が降る可能性があった」とイソラはレース後に説明した。

「ソフトタイヤでスタートし、短いスティントを予定していた場合、タイヤを交換して数周後に雨が降り始めたら、レースは台無しになってしまう。ミディアムでスタートすれば、作戦的により柔軟性があるし、長いスティント中に雨が降るか降らないかをより正確に予測することができる。だからほとんどのチームがミディアムでスタートすることにしたんだと思う」。

そして実際に15周目にフェルスタッペンが “小雨 “を報告したように、雨は何度か降っていた。しかしFP3のような激しい雨にはならず、フェルスタッペンは18周終了時点で4秒差までリードを広げていた。

▽レースの流れを変えたマグヌッセンのストップ

この18周目、ルクレールがピットインしてハードタイヤに交換した。ルクレールはラッセルからの脅威を受けており、アンダーカットから順位を守るために早いタイヤ交換を決断した。ただこれは交換後にルクレールがチームに話したように「ちょっとタイヤ交換が早すぎたと思う」。

「フェルスタッペンは、レース当日の観客16万人(イギリスGPの週末は48万人という記録的な数字だった)にレースを中継する巨大スクリーンのひとつに、フェラーリがピットインする映像を見つけた。

「自分たちは作戦を変えないのか?」彼はエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼに質問した。彼の答えは「そうだ、作戦に変更はない」。つまり、序盤のスティントを可能な限り延長して戦略の柔軟性を最大限に高めるのがレッドブルの作戦だった。そしてフェルスタッペンのミディアムの状態もよく、ノリスとの差は最大9.7秒まで広がった。

フェラーリはルクレールの8周後にサインツを呼び寄せ、やはりハードタイヤに履き替えた。ラッセルはその2周後にソフトからミディアムに履き替えたが、彼のソフトでのペースはみんなが注目していた。

「彼は最初のスティントをソフトで素晴らしい走りを見せた」とピレリのイゾラは述べた。
「ソフトが予想以上に良かったのは、2つの要素があったからだ。ひとつは路面温度が低かったことで、金曜日より15℃も低かった。コースの進化が(もうひとつの)要因だったのは確かだ。この2つの要素によって、ソフトはより使いやすくなり、デグラデーションも低く抑えられた。そして、ほとんどのドライバーはミディアムソフト作戦に切り替えることにした」

実際、奇妙なことにこの日のソフトは長く走ってもデグラはかなり抑えられていた。ミディアムやハードと比べても遜色がないくらいだった。ただソフトは温まるまでの時間は短く、ハードが温まるまでには数周が必要であり、これがレース終盤にドラマを起こしそうになったが、それはまた後ほどの話となる。

ソフトのライフがいいことは金曜日の時点で、メルセデスは気がついていた。彼らは2台のマシンに違うタイヤを履かせてデータを取得できていた。一方のフェラーリはFP2でルクレールのマシンにトラブルが出て、タイヤのデータを十分に取ることができず、しかもFP3が雨だったため、そのままの状態で決勝レースに臨むことになった。

ピレリはイギリスGPから新しい構造のタイヤを持ち込んだので、どのチームにとってもこの日タイヤのデグラデーションを正確に予測するのは難しかったことは事実でした。それだけに金曜日の午後にルクレールが走れなかったのは、フェラーリにとっては痛いトラブルとなりました。

ただほとんどのドライバーにとってタイヤ交換のタイミングは、このレースの最もドラマチックな瞬間にやってきました。それは32周目ケビン・マグヌッセンがウェリントン・ストレートでエンジンを失火させながらストップした時でした。当初はバーチャルセーフティカーで対応していましたが、その後セーフティカーが導入されました。

ピアストリが通常のピットストップを行った3周後の32周目にマグヌッセンはリタイアしました。「この時点でオスカー(ピアストリ)のタイヤは少しグリップを失いかけていた」マクラーレンのステラが述べた。ピアストリがピットインした時点で、ノリスとの差は3.2秒にまで広がっていた。「だからポジションを失うリスクもあった(ので、あのタイミングでタイヤ交換させた)」

「セーフティカーが入る可能性があることを常に考えるのは当然だが、セーフティカーが入るかもしれないからといって作戦を妥協するようなことはない。それはあくまでもセーフティカーであっていつどこで入るかは予想できない。最悪の状況で登場するかもしれないのがセーフティカーであり、予測できるものではないからね」。

最後のスティントにハードを履かせたマクラーレンだったが、それをノリスが見事にカバーして2位表彰台をゲット

▽マクラーレンがノリスにハードを与えた理由

フェラーリはVSCを利用してルクレールを再びピットインさせた。

レッドブルとメルセデスは中古のソフトを与えられ、マクラーレンはノリスにハードを与えた。しかし、ステラはマクラーレンには選択肢がなかったと主張している。

「最初はVSCだったからね」と彼は説明する。VSCだとウォームアップには問題ない。ところがその後で、僕たちがピットインするときにVSCがセーフティカーに変わったんだ」

「ピットストップではハードタイヤを履く準備をしていた。それを土壇場でソフトに交換するのはオペレーション上無理だった」

ピレリのイソラが次のように付け加えた。「(ミディアムハード戦略をとったのは)おそらく、タイヤの使い方に関してチームが持っている別の要素があったからだろう」。これはマクラーレンが、スペインGPのようにソフトタイヤでタイヤの空気圧を上げるとレースペースが低下することを恐れていたことを指している。そして実際、シルバーストーンではコースレイアウトがタイヤに厳しいので、普段より高いタイヤプレッシャーがピレリから指示されていた。

シルバーストーンサーキット コースレイアウト図

▽ノリスがハミルトンの攻撃を退けた理由

マグヌッセンのマシンをウェリントン・ストレートから撤去するには、回収クレーンが現場に到着しなければならず、VSC発動から39周目のレース再開まで12分を要した。

ノリスが再スタート後にトップ争いをするチャンスがなかったのは、入念なウォームアップが必要なハードタイヤを履いていたからだ。というのもセーフティカーでの走行はVSCで走るより速度が低く、タイヤのウォームアップが(特にハードは)難しくなる。そしてフェルスタッペンがいつものようにリスタートを完ぺきにこなした。

最終的に3.8秒差までリード広げたフェルスタッペンだったが「ハードタイヤを履くべきだったかもしれない」と感じていた。「少なくとも第2スティント全体でもう少しハードにプッシュできたはずだ」と語った。

そんなフェルスタッペンを追いかけたのは、同じようにソフトタイヤを履いたハミルトンではなくノリスだった。ノリスはハミルトンの猛烈なアタックをうまくかわしていた。

ハミルトンはセーフティカー中のタイヤ交換で、ピアストリをかわし3位に順位を上げていた。

再スタートしたラップでは、ノリスがブルックランズでハミルトンをはね返したが、ハミルトンはラッフィールドですぐに再チャレンジ。その1周後、ハミルトンはブルックランズまで待ち、ラッフィールドでノリスがミスを犯すと、マクラーレンに並走した。しかし、ノリスは再びコプスで突き放した。

「サーキット前半のターン3、ターン4、ターン6、ターン7でルイスは簡単に僕に追いつくことができた」とノリスは説明する。「でも、もともと僕たちは高速が得意だったし、今ではそれが僕たちの強みになっている。タイヤをいい状態に保ってくれるし、ターン9では全開でいけるラップが多かった。[それから)シフトダウンしてマゴッツとベケッツに入り、セーフティマージンを確保することができた」

「でもコプスでのサイド・バイ・サイドは良かった。かなり接戦だったけどね。ラフィールドで彼がインを突いてくるのを見たとき、ファンも同じように喜んでいたと思う。でも、昨日は少し低めのダウンフォースを選択したから、ちょっとリスクもあった。でもほんの少しのトップスピードでも助けにはなるし、まさにあそこでは、そうだった。だから、低めのダウンフォースを選択した自分の決断を褒めたいね」

「インサイドに飛び込んで、抜こうとしたんだ」とハミルトンはラフィールドでの侵入について語った。「でもストレートでは少しドラッグが多かったし、高速では彼が言ったように、彼らは僕らより優れていた」

ノリスがハードの温度が上がってくるまでに、ハミルトンのアタックを防いだことで、「マクラーレンを抜いて2位と3位でフィニッシュするか、あるいはフェルスタッペンに挑戦することになるだろう」というウルフのリスタート前の予測は外れることになった。

ルクレールの2回目のタイヤ交換で順位を上げたラッセルが、ハミルトンに続くことができなかった。というのも、ピアストリがスタート後のハードタイヤでノリスばりのハードなディフェンスを見せたからだ。

そしてセーフティカー前にタイヤ交換した可哀想なピアストリは、チームメイトと表彰台に登ることはできなかった。とはいえ常に3位を走り、最終的に4位になった彼の走りは印象的で、彼もまたこのレースを盛り上げた一人だった。

イギリスGPの観客は大いに盛り上がった。ノリスは2023年のマクラーレンの最高の日は 「このコースに特化した 」ものだと語った。つまり彼は「あまり興奮したくなかった」のだが、夢を見た観客が彼のためにそうしたかったのだろう。