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フェルスタッペンの優勝を防ごうとした4人のライバル_メキシコGP観戦記

多くの出来事があったメキシコGPでマックス・フェルスタッペンが今シーズン16勝目を挙げ、またしても記録を更新した。しかし、もし重要な瞬間の展開がわずかに違っていれば、レースは複数のコンテンダーによる興味のある争いになっていただろう。

多くのアクシデントがあったメキシコGPでも、危なげなく勝利し、シーズン最多勝記録を更新したフェルスタッペン

今年もメキシコGPが開催され、マックス・フェルスタッペンが勝利を飾った。フェルスタッペンは、2年連続でメキシコシティのサーキットでシーズン優勝の新記録を達成した。

フェルスタッペンは日曜日にハースのケビン・マグヌッセンの大クラッシュにより事実上2つに分割された二つのレースに優勝し、他を寄せ付けない走りを見せた。

しかし、フェルスタッペンの勝利をもう少し難しくすることはできたのだろうか?彼がメキシコGPで勝利を挙げることができたのは、ほんのわずかな幸運があったからではないだろうか?この日、彼に勝てるライバルはいたのだろうか?

少なくとも4人のドライバーがフェルスタッペンにプレッシャーをかけるチャンスがあった。しかし、さまざまな理由ですべてが阻まれた。

とはいえ、フェルスタッペンが自分の力で勝利しなかったというわけではなく、スタートの蹴り出しからターン1への直線で見事な加速を見せ、フェラーリ2台をパスし、第1コーナー イン側のラインで見事にトップを奪った。

そして、ここで一人目のライバル候補が落ちた。

▽ルクレールとペレスの困難
先週日曜日、フェルスタッペンのスタートは良かったが、それが一番良かったということではなかった。彼のチームメイトであり、地元メキシコのヒーローでもあるセルジオ・ペレスがそれ以上のスタートを見せた。

5番手からスタートしたペレスは、スタートライト消灯にわずか0.23秒で反応。フェルスタッペンを0.02秒上回った。

ペレスはすぐさま前を走るリカルドに並びかけ、フェルスタッペンがポールシッターのルクレールとサインツの間に割って入ったとき、ペレスはフェルスタッペンからスリップストリームの助けを借りてさらに加速した。

レッドブルのチームボスであるクリスチャン・ホーナーは、スタートの成功について、ドライバーとエンジニアが協力して 「コンディション、路面、標高、その他すべてで、ベストな状況を作り出し、より良いパフォーマンスを実現できたからだ」と語った。

「これは我々の通常の手順で、タイヤのグリップやクラッチのセッティングを理解して、ほんの少しかもしれないが改善できた」とフェルスタッペンは後に説明した。

スタート直後のターン1で抜群のスタートを見せたペレスがトップを狙うもルクレールと接触し、コースアウトしてリタイヤ。地元のファンを落胆させてしまった

フェルスタッペンはサインツを抜き去り、ターン1への途中でルクレールに対してコーナーでイン側に付け、有利なポジションにつけていた。そこにルクレールのスリップで加速するペレスが追いついてきた。

ペレスはアウト側のラインに出て、2021年にフェルスタッペンがメルセデスの2台をスリリングにパスしたのと同じ場所に向かった。ペレスの走りはとても素晴らしく、ルクレールより少し前に出ていて、フェルスタッペンは有利なイン側のラインを走っていた。

フェルスタッペンがターン1へアプローチするために、わずかに左に動いた直後、ペレスがターンインしてきて、ルクレールは 行き場がない状態に陥り二台は接触した。

ペレスは一瞬、空高く舞い上がり、ターン1の広大なランオフでスピンして集団の最後尾に。再スタートを切ったが、すぐにマシンにダメージがあることがわかった。結局、ピットでのチェックの結果、レッドブルは「マシンのフロアとアンダーボディにダメージが大きすぎる」と判断したとホーナーは言う。

ペレスはレース後、「間違いなく悲しいよ。スタートはとても良かったし、レースに勝つことだけを考えていた。表彰台には興味がなかった。2年連続で表彰台に上ったからね」

「チャンスだと思ったから、それを狙ったんだ。今思えばリスクを冒したが、もしそれが成功していたら、トップでターン1を抜けていただろう」

ホーナーは、クラッシュがなければペレスは「確実に表彰台に上っていただろう」と語った。しかし、彼はFP2でのペレスのハードでの素晴らしいペースを考えれば、チームメイトによる接戦の可能性も示唆した。

「二人のガチンコレースになっていたかもしれない」とホーナーは説明した。
「今週末のチェコはペースが良かっただけに、第1コーナーのアクシデントが悔やまれる。しかしそれが最も恐れていたことでもあった」

予選でフロントロウを独占したがフェラーリだが、またも勝利はならず

ポールポジションから11戦連続で、ルクレールは予選のスピードを勝利につなげることができなかった。フェルスタッペンから勝利を奪う(わずかな)可能性を秘めた最大のチャンスはターン1で訪れるはずだったが、蹴り出しで回転を落として加速が伸び悩んだため、彼の戦いはすぐに終わってしまった。

しかし、ペレスが戦線離脱した後のレースで、ルクレールはフェルスタッペンを苦しめ、レースををもっと面白くさせることができたかもしれない。ターン1のクラッシュの直後、ルクレールは芝生に飛出し、賢明にも即座にフェルスタッペンにリードを譲って2位でレースに復帰した。

1周目を終えた時点でルクレールは1.6秒差だったが、彼はスタートでペレスと接触して負ったダメージが気がかりだった。

「チェコのリアホイールが僕のフロントホイールに接触しているのを見たとき、これで(レースは)終わった と思った」とルクレールは語った。「その後、2つ、3つのコーナーを走ったけど、それほど悪い感じはなかった」

実際、ルクレールは左側のフロントウィングエンドプレートが破損していたにもかかわらず、後方のチームメイト、サインツよりも速いラップタイムを刻んでいた。4周目にルクレールのフロントウィングのエンドプレートが脱落したため、セーフティカーがほぼ2周にわたって導入されたが、その間に上位陣がピットインすることはなかった。

19周目の開始時点では、ルクレールがダメージを負ったマシンをうまく操っていたにもかかわらず、フェルスタッペンはリードを4.6秒にまで開いた。そしてフェルスタッペンは、ミディアムからハードに交換するためにピットへ向かった。これで2ストップ作戦なのは明らかになった。

「アグレッシブに行ったんだ。昨年よりコンパウンドが一段階柔らかくなっていて(2023年はC3-C4-C5対C2-C3-C4 2022年)、1ストップは厳しい感じがしたからだ」とホーナーは説明した。「私たちは攻めにいった。マックスは攻撃的な作戦を好むからね。ツーストップのために一時的に順位を譲ったとしてもね。それが金曜日からのプランだった」

この作戦により、フェルスタッペンはルクレールに16.0秒差をつけられて集団に戻り、6周後にはジョージ・ラッセル、ピアストリ、リカルドをパスして、11.5秒差まで縮めた。この時点で、フェラーリが二台ともワンストップを狙っているのは明らかだった。

これは計算上は最速のはずだった。昨年、フェルスタッペンがソフト・ミディアムのワンストップで優勝を飾ったのと同じ作戦だからだ。つまり、フェルスタッペンがトップに戻るにはコース上で抜く必要があり、ルクレールの勝利への期待も高まっていた。しかし、マグヌッセンのクラッシュのおかげでそれは叶わなかった。

ルクレールが31周目にピットインしてミディアムタイヤを履いたわずか2周後、リアサスペンションの破損により、マグヌッセンはターン8/9のイン側タイヤバリアに激しく激突。彼のリヤブレーキが炎上していることを受けて、セーフティカーが導入された。

最終スティントをミディアムを履いて2位を獲得したハミルトン

フェルスタッペンはこのセーフティカー期間中にストップし、最後のタイヤ交換を終え、順位を失わずにトップで戻ったので、実質的に優勝を確定していた。その後、マシンの回収とマグヌッセンが破壊したバリアの検査のため、レースは赤旗中断された。

「もし2周後にピットインしていたら、赤旗中断で(ルクレールは)ポールポジションから再スタートしていただろう」とフェラーリのチームボスであるフレッド・ヴァスールはチームの戦略タイミングの不運について語った。「でもレースとはこういうものだし、多くの出来事がある」

22分の中断の間、フェラーリはルクレールのフロントウイングを交換。フェルスタッペンとルクレールは赤旗中断直前に装着したハードをそのまま使用し、またしてもフェルスタッペンが再スタートを決めた。

「ここでの3回のスタートはすべてロケットスタートだった」とホーナーは説明する。

同じタイヤで、レースでのタイヤマネジメントに勝るマシンを相手に、追加のピットストップをする事もなくなったため、ルクレールの勝利への挑戦は終わった。しかし、2位をキープするための挑戦は始まったばかりだった。

フェルスタッペンがレース再開後の1周目を終えた時点で1.3秒のリードを築いていたため、ルクレールはミディアムタイヤに履き替えたルイス・ハミルトンのメルセデスのほうが気になっていた。

▽ハミルトンの追撃
この時点で3位を走行していたハミルトンは、スタート直後のターン1のクラッシュをうまくすり抜け順位をアップ、序盤にリカルドとバトルを繰り広げ、16周目にはサインツの後方まで迫った。ハミルトンは7周にわたって接近戦を繰り広げたが、抜けなかったので24周目にピットインし、スタート時のミディアムからハードに履き替えて、サインツをアンダーカットしようとした。

「カルロスに対して自分の方がペースがあることに気づいたとき、アンダーカットを使えばかなりうまくいくと思ったし、事実とてもうまくいったよ」とハミルトンは語った。

実際、サインツが唯一のピットストップをした時、彼はハミルトンから6.5秒遅れてコースに戻った。しかし、もしマグヌッセンがクラッシュしていなければ、ルクレールはハミルトンより7周遅くタイヤ交換をしたので、そのタイヤライフのオフセットと2.8秒のアドバンテージは、ハミルトンを抑えるのに十分だったに違いない。

しかし、マグヌッセンのクラッシュによってこの戦いはハミルトン有利に変わり、さらにルクレールのハードタイヤがミディアムほど良くなかったこともハミルトンを有利にした。

ピレリのマリオ・イソラは、「ミディアムコンパウンドの方が良いパフォーマンスだった。ミディアムコンパウンドのデグラデーションは非常に少なかった。トラックエボリューションがこの現象に大きく影響していた」と説明した。

先週末は、雨で路面のラバーがほとんど洗い流されることがなかったため、路面温度が51度という灼熱のレーススタートとなったが、ミディアムコンパウンドは路面に馴染んで、グレイニングの危険性を下げていた。

ピレリのタイヤ交換のタイミングリスト

メルセデスのボスであるトト・ウルフよると、チームはミディアムが 「第1スティントで好調を維持している 」ことを見抜いていた。「シャルルは31周を走ったけど、ペースは落ちなかった。再スタートでミディアムを履いたのは、戦略担当者とタイヤ担当者の勇気ある判断が功を奏したんだ」

ハミルトンの手持ちの中古ハードは7周走行済だったのも、再スタートで中古ミディアムを履く判断に影響を与えた。スムーズな路面でミディアムコンパウンドの温度が上がったハミルトンは、40周目のターン1のイン側に果敢に飛び込んで、2位に上がった。「でもシャルルは本当にフェアだったし、素晴らしいレースだった」とハミルトンは彼を讃えた。

ハミルトンはこのラップでルクレールに1.3秒の差をつけたが、フェラーリは50周目にはハードがミディアムより速くなるとルクレールに告げた。しかしこのクロスオーバーは想定より遅く現れ、イソラによれば67周目になった。

この時点でハミルトンは7.6秒リードしており、ルクレールへの追加のリフト&コースの要求によってその差は広がっていた。イソラは、これは「ミディアムのデグラデーションが低かったため、予想より遅れた」と付け加えた。

「ハードでは、リスタートでタイヤをうまく動作させることができなかった」とバスツールは説明した。「まったくうまくいかなかった」

ハミルトンは最終ラップでファステストラップを記録。しかし、もっと早くからプッシュしてフェルスタッペンにプレッシャーをかけることができたのではないかという疑問が浮上した。ハミルトンはもっと早くからフェルスタッペンにプレッシャーをかけ、13.9秒差でフィニッシュしたフェルスタッペンに追いつくことができたのではないか?

「確かに、もう少しプッシュすることはできたと思う」とハミルトンは説明した。「一度トライしてみたけど、タイヤをセーブしていたから、マックスとの差が縮まるか見てみようと思った。残り10周くらいだったかな、その時点で僕は22.0秒、マックスは21.9秒で走っていた。僕は「いや、そのままにしておこう」って感じだった。彼は21.9でクルージングしていたからね」

「それに慎重にならざるを得なかった。もし最後の10周を本当にプッシュしていたら、おそらくタイヤが保たなかったかもしれないし、もしかしたらシャルルは僕に追いつていたかもしれない」

予選での失敗がなければ表彰台を狙えたノリス

▽ノリスはフェルスタッペンの脅威になれたか?
17番手スタートのランド・ノリスはサインツからわずか6.1秒遅れの5位でフィニッシュした。彼は赤旗前のセーフティカーストップで3つ順位を落とし、ホイールスピンの多いひどい第2スタートでさらに4つ順位を下げたにも関わらず、素晴らしいカムバック劇を見せた。

ノリスは、ブレーキ温度管理に悩まされながらも、第2レースで9つポジションを上げた。2回目のリスタート後のラップから終盤までの平均ペースは1分22秒924で、ハミルトンの1分22秒582やフェルスタッペンの1分22秒237と比べても遜色ない。

彼は路面が急激に向上していたQ1終盤のソフトタイヤでのミスを悔やんでいるだろう。ミディアムタイヤを履いていたとき、マクラーレンは燃料システムが正常に作動しているかチェックするためにノリスをピットに戻さなければならなかったのだ。

そのためノリスはレース後、マクラーレンのチームボスであるアンドレア・ステラが「(F1で見た)すべての中で最高のレースの1つ 」と称し、フェルナンド・アロンソが2012年にバレンシアで優勝したときのようだったと述べたにも関わらず、「笑顔になることはできなかった 」と語った。「これはいい仕事をするために僕を頼りにしているマクラーレンの工場にいる700~800人いる人を失望させたから」

再びFP2に戻ってみると、ノリスは重要なミディアムでのフェルスタッペンのロングランと同じくらい速かった。このことは、ノリスも上位陣の近くでスタートしていれば、勝者を苦しめることができたことを示唆している。

しかし、ノリスの可能性を阻止してしまったことで、おそらくこのレース最大の後悔はペレスがいなくなったことだ。

ホーナーいわく「(レース前に)ツーストップレースのために、2本の新しいミディアムタイヤを用意していた彼は有利な立場だった」

今季ベストのマシンにこの日ベストのタイヤを装着したペレスは、フェルスタッペンに迫りレッドブル内が緊張感に包まれることになったかもしれない。

しかし、そうはならなかった。フェルスタッペンはこれで1シーズンで16勝という記録を達成した。ハミルトンはアブダビでシーズンを締めくくるまでに「彼があのマシンで18勝、19勝目を挙げることにお金を賭けるよ」と皮肉と冗談を込めて語った。

2023年 メキシコGP最終結果
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