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ノリスのチャレンジと失望のブラジルGP_ブラジルGP観戦記

シャルル・ルクレールの早期離脱とランド・ノリスのロケットスタートにより、彼はインテルラゴスでフェルスタッペンに挑戦するポジションにつけた。しかし、レッドブルのフェルスタッペンは余裕を持って今季17勝目を挙げた。なぜノリスはフェルスタッペンに挑戦することができ、なぜ成功することができなかったのか。波瀾万丈のブラジルGPを振り返ります。

この日、最大のヒーローだったランド・ノリス

▽レース前に終わったルクレールの不運
ブラジル名物の急な悪天候により予選はQ3途中で中断され、フロントロウの二人(フェルスタッペンとルクレール)を除けばいつもとは違う並びになったスターティング・グリッドだった。そんな中スタート前のフォーメーションラップで大きな波乱が起きた。

2位グリッドに付けていたルクレールがなんとフォーメーション・ラップでコースアウトしリタイヤした。油圧系トラブルのような症状に見舞われたルクレールは、マシンのダメージがフロントウイングだけに留まったため走行を再開したものの、結局マシンを止めてしまった。

ルクレールのクラッシュについて、フェラーリのフレデリック・バスール代表は「同じ問題が原因で、システムが油圧系とエンジンを切ってしまった」と語った。

「システムコマンドがどうなっているかは、クルマが戻ってきていないのでまだ分からない。だがそれは電子的なコマンドが原因だ」
「彼はスイッチを切ったり入れたりした。問題なのは、彼が30メートル進んで同じ状況になったことだが、停止してよかった」
「システムコマンドがオフになると、パワーステアリングもギヤボックスも使えなくなる」

この問題は以前にも発生したことがあるのかと尋ねられ、彼は「少なくともここ10ヵ月はなかった。初めてだったんだ」と答えた。

バスール代表は、ルクレールにできることは何もなかったと強調した。

ルクレールがスタートしても、フェルスタッペンに勝てたとは思えないし、タイヤのデグラが大きいフェラーリが表彰台に乗れたかもわからないが、少なくとも競争することはできたわけで、不運なルクレールだった。

フォーメーションラップでレースを終えたルクレール。不運というか、フェラーリしっかりしろと言うか

▽ノリスがフェルスタッペンに迫れた理由
これで2位グリッドに空きができて、4位スタートのアロンソの前が空いた。だがこのチャンスを活かしたのはアロンソではなく、6位スタートだったノリスだった。ノリスは抜群のスタートを見せ、すぐにアロンソを抜くとフェルスタッペンについで2位でターン1に入り、フェルスタッペンへの挑戦権を得た。

ただ後方でアルボンとマグヌッセンが接触した事故があり、それを取り除くため当初はセーフティカーが登場し、最終的に赤旗が出て、レースは3周目にして中断となった。

赤旗中断時はタイヤ交換が自由にできる。ここでマクラーレンは残しておいた新品のソフトタイヤをノリスに履かせて再スタートすることを決断。最初のスタート時は6位スタートだったので新品タイヤの出だしの良さを活かせないと判断したが、2位からスタートすればあわよくばトップも狙える。

結局その作戦は再スタートでもフェルスタッペンがスタートを決めたのと、ターン1までの距離が短いことで成功しなかったが、チーム代表のアンドレア・ステラは、新品タイヤのアドバンテージにより、レッドブルとの間に存在する差を埋めることができると考えたため、賭けに出る価値があると判断したと説明した。

「赤旗が出た後の我々のアプローチについて言えば、確かにそうだ。我々は勝ちたかった」

「再スタート時に我々は、新品のソフトを使うことに決めたんだ。そして、それでリードを奪おうと狙っていた。そしてフェルスタッペンをいつもとは異なるポジションに置き、何ができるかを試してみようとしたんだ」

リスタートでトップを奪えなかったノリスは、フェルスタッペンに食らいついていった。ただ途中で接近しすぎるとタイヤがオーバーヒートしてしまうことに気付いたため、少しギャップを広げる必要があった。

「スタートでリードを奪うことができなかった。コース上でオーバーテイクできそうな時もあったが、その後でタイヤがオーバーヒートし始めたので、目標ラップタイムをキープすることができなかった」とノリスは述べた。

「最初のスティントでは目一杯努力した。その後、フェルスタッペンは状況を適切にマネジメントするだけの十分なリードを持っていたと思う」

「我々が少しでも近付こうとすると、その後でフェルスタッペンはすぐにペースアップできたと思う。つまり第1スティントを終えた段階で、我々にできることはほとんどなかった」

ノリスに迫られながらも、逃げ切り今季17勝目を上げたフェルスタッペン

 ノリスが懸命にプッシュしたとしても、フェルスタッペンがタイヤを適切に管理するのは、いつものレースで見られる光景だった。そのためステラ代表は、スタートだけが何かを起こすことができる唯一のチャンスであると十分認識していたという。

「だからこそ我々は、新品タイヤで先頭に立ち、フェルスタッペンがいつものようにリードしていれば間違いないという”運命”を、変えてやろうと思っていたのだ」

「そういう状況を断ち切りたいと思っていたが、残念ながらそれは叶わなかった。あとほんの少しだった……パスできるには、あと1m足りなかった。その後は、結局はスプリントと同じような状況だった」

インテルラゴスは、新品ソフトの利点を活かすには1コーナーへの距離が短すぎたし、スタートも中古タイヤを履いた1回目のスタートよりも良くはなかった。スタートでリードを奪えなかったノリスだったが、フェルスタッペンと競う気は満々だった。

いつもならフェルスタッペンは序盤から2位以下をDRS圏外に引き離すことを常としていたが、今回はそうはいかず、ノリスはフェルスタッペンのテールに張り付き、プレッシャーをかけ始めた。

ノリスは7周目の終わりでその差を0.5秒以内に縮め、8周目にはフェルスタッペンにアタックを試みた。フェルスタッペンは、マクラーレンが猛スピードで迫ってくるのに気づき、ほんの少しだけイン側に寄ってターン1を抜け、下り坂のエスドセナに進入したが、立ち上がりのラインが厳しくなったフェルスタッペンにノリスがスリップとDRSを使い迫り来て、抜くかと思われた。しかし、フェルスタッペンはまたもや賢明だった。

バックストレート終わりでイン側のラインをとってノリスをアウト側に追いやり、マクラーレンはフェルスタッペンのレッドブルと同じ場所でブレーキングするしかなかった。ノリスがアウトから抜くチャンスはなく、それが最初で最後のアタックとなり、残りのレースでは2位を固めることにした。

一度目のスタートでスーパースタートを決めて6位から2位に上がりフェルスタッペンへの挑戦権を得たノリス。後方ではアルボンとマグヌッセンが接触した白煙が見えている

▽ノリスがフェルスタッペンに勝てなかった理由

ノリスはレース後のインタビューで、「マックスとレースをするチャンスは数周しかなかった」と語った。

「レースを通じて、僕たちはマックスと争うペースがないことに突然気がつかされた。後ろにはフェルナンドがいて、彼らのアストンマーティンのレースペースは、特にデグが大きい時はとてもいいのがわかっていた。彼はスプリントでは、集団の中を走っていたけど、決勝レースではそうではなく、もっと上位にくることが可能だった」

「もう1回トライすることで、(タイヤをだめにして)自分のレースを妥協したくなかった。同時に、バッテリーの残量が少なかったし、タイヤを早くにオーバーヒートさせすぎたりすると、あとで大きな代償を払うことになるからね」

「やりたかったけど、マックスに再挑戦する価値はなかった。可能性はあったと思うが、フェルナンドとその背後にいるドライバー達に抜かれるかもしれないことを考えると、割に合うものではなかった」

ノリスのアタックから2周後、フェルスタッペンのリードは約2秒に広がり、最初のピットストップが始まるまで、毎周コンマ1、2秒ずつ拡大していった。

ピレリのタイヤ交換のタイミングリスト

フェルスタッペンは27周終わりでソフトタイヤが限界に達し、ミディアムタイヤを投入したが、マクラーレンは戦略のオフセットを選択するのではなく、同じ周にノリスをピットインさせて対応することにした。ピットストップ時のギャップ(約3.6秒)はアンダーカットで克服するには大きすぎるし、オーバーカットはデグラデーションが高いことを考えると特に効果的とは思えない。この時点でノリスの直接のライバルはフェルスタッペンではなく、後方を走るアロンソ達とマクラーレンは考えていたのだろう。

ノリスのピットストップは、レッドブルのフェルスタッペンの2.2秒に対して2.6秒と決して遅くはなかったが、その差は1秒広がった。アウトラップの遅さもあり、二人の差は5秒以上となった。

とはいえ、ノリスがタイムを縮めようとしなかったわけではなく、新しいミディアムタイヤを履いてペースを上げ、フェルスタッペンとの差を4.8秒まで縮めた。

レッドブルはライバルに比べてタイヤのデグラデーションが低いことで有利な立場にある。それはタイヤへの負荷が厳しいインテルラゴスでは特に顕著で、レース中盤のミディアムタイヤの段階で明らかになった。ノリスはフェルスタッペンに5秒ほどの差をキープしていたが、マクラーレンはレッドブルよりはるかに早くタイヤが限界に達した。

そのためスティント終盤には7秒以上の差が開いてしまった。とはいえ、2回目のスティントを早めに切り上げたのはフェルスタッペンで、チームは56周目にピットインしたほうが安全だと考えていたようだ。

ノリスはミディアムタイヤで3周余分に周回し、最終のソフトタイヤで少し余裕が持てるようにした。フェルスタッペンのピットストップは標準的なもので、60周目にノリスがピットから出てきたときに二人は13.4秒差だった。

この日もタイヤのデグラが少ない利点を活かしてノリスを振り切ったフェルスタッペンとレッドブル

しかしノリスはそのギャップを縮めるために少しハードにプッシュする余裕があり、新しいタイヤを履いて最初のフルラップで1分12秒486を記録。フェルスタッペンが1分14秒台で走る一方で、ノリスは1分13秒台で周回を重ねた。この結果、ノリスは最終的に8.3秒差まで詰め寄った。

しかし最終的にフェルスタッペンはそのまま逃げ切り、1シーズンでの勝利記録を17に伸ばし、ラジオから流れる即席のカラオケで、ありそうもないお気に入りの歌を披露して祝った。

フェルスタッペンは、ノリスとマクラーレンの脅威は本物だったが、タイヤマネジメントで優位に立つことができるレッドブルの能力が、長いスティントで発揮されたことを指摘した。

「ほとんどのスティントで、ランドは僕のラップタイムと同じだったと思う」とフェルスタッペンはレース後に説明した。

「スティント最後の5周から10周は、もちろんタイヤのデグラデーションが良かったけど、どのスティントでも最初は集中しなければならなかったし、ミスをする余裕はなかったよ」

「このサーキットはデグも高いから、運転しやすいとは言えない。ただリラックスして、何も考えなく、コーナーに突っ込んでいくというわけにはいかない。本当に集中して走らなければならない。幸運なことに、今日は戦略やピットストップなど、すべてがうまくいった」

この日は勝負できるペースがなかったメルセデス

こうしてノリスはまたも初優勝への夢を絶たれ、ブラジルGPは最終的にいつもと変わらない結果となった。しかしながらノリスのフェルスタッペンへのアタックは、これまでと違い一瞬の夢を見させてくれ、記憶に残るレースとなった。

次はF1が40年ぶりにラスベガスに戻ってくる。ギャンブルの街で誰がギャンブルするのかはわからないが、砂漠の街の新しいサーキットは、予想される寒さが決定的な要因となれば、結果はルーレットのようなものになるかもしれない。特にレッドブルにとっては。

2023年 ブラジルGP 最終結果
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