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絶望という名のチャンピオン バーレーンGP観戦記

昨年同様、フェルスタッペンとレッドブルが圧勝したバーレーンGP。今シーズンはエキサイティングになるのか、それとも昨年同様フェルスタッペンとレッドブルがシーズンを支配するのか、開幕戦となったバーレーンGPを振り返ります。

スタートでリードを守ると、そのまま他を寄せ付けずに圧勝したフェルスタッペン。今年も彼の独走劇を見せつけられるのだろうか。

「おそらく1周あたり0.5秒の差があるだろう」と、ジョージ・ラッセルは予選でメルセデスを3番につけた直後に考えていました。レースでのレッドブルとの差を聞かれたとき、ラッセルは金曜日に彼とフェルスタッペンの間に見られた0.3秒の差よりも更に大きくなるだろうと推測しました。

それを聞いたマックス・フェルスタッペンは、少し驚いたようでした。「0.5秒?!」と彼は懐疑的な態度で驚いた表情を見せました。「それは大きすぎるよ」

「彼らはいつも自分たちを過少評価してるよね」とラッセルは反論しました。しかし彼は願っていました。フェルスタッペンが正しく、メルセデスが土曜日のレースで強いパフォーマンスを発揮することを。しかしながら彼の期待は裏切られます、彼は偶然にも2024年シーズンの開幕戦でフェルスタッペンがどれだけ圧倒的に優れているかを予測して的中させてしまったのでした。フェルスタッペンはしばしば予測された0.5秒のアドバンテージを超えてレースを支配しました。

フェルスタッペンとの接戦を希望するファンとライバル達の期待は、すでにテストの時に打ち砕かれていたかもしれません。レッドブルはロングランでもかなり無敵に見えました。FP2のロングランでもRB20の優位性を示唆していましたが、その大きさをレッドブルは意図的に隠していました。

レッドブルがレースで本当の実力を示す前に、フェルスタッペンはスタートで先頭を維持する必要がありました。彼とフロントロウに並ぶルクレールはほぼ同じ蹴り出しでしたが、ルクレールはターン1に向かってアウトサイドラインに自分のマシンをおいてフェルスタッペンにアタックします。ただターン2に向けてインサイドのラインになります。そうすると次のコーナーの立ち上がりが苦しくなります。

ルクレールはその後の短いストレートでスリップストリームを利用しようとしましたが、その試みは成功しませんでした。フェルスタッペンは難なく先頭を維持します。ただフェルスタッペンにとっての次の宿題は、オフシーズンのルールブックの手直しによって迅速にリードを広げることでした。

苦戦するルクレールを抜き、3位表彰台を確保したサインツ

フェルスタッペン勝利の法則のひとつは、彼が3周目のDRSが作動する前に1秒のリードを築くことができることでしたが、今年からはDRSの使用が2周目の開始時に前倒しされました。(恐らくフェルスタッペンが簡単にリードを広げないようにすためです)
ところが接戦を期待するFIAの望みもまたたたれます。フェルスタッペンは簡単にそれに対処することができました。ルクレールは、オープニングラップ終了後にすでに0.987秒遅れており、最初の3つのコーナーでのフェルスタッペンに挑戦するという彼の野望はたたれました。

この時点で、ルクレールはフェルスタッペンのかなり後方にいて、ペースは上がりませんでした。それどころか、彼はブレーキの温度差に苦しんでロックアップを頻発し始めます。彼がロックアップするほど状況は悪化し、失うポジションは増え、左右のフロントブレーキの温度差がほぼ100度に達しました。これではまともにドライブするのも一苦労です。

ルクレールを抜いたラッセルもフェルスタッペンに挑戦することはできませんでした。ラッセルはルクレールを抜いた後もペースは上がりません。彼はパワートレインの温度が上昇しアラートが出て、それ以上のペースは無理でした。メルセデスはペースを失い、ルクレール、セルジオ・ペレス、そしてサインツが彼の後方にしっかりとついてきます。ラッセルの問題はまだ深刻ではありませんでしたが、温度の問題は解決しなかったので、ラッセルはレース中にラッセルをリフト&コーストする必要に迫られました。これはメルセデスが少しでもパフォーマンスを引き出そうと、かなりタイトな冷却パッケージ選択したためでしょう。

17周目の終わりに、フェルスタッペンはペレスから30秒の差をつけて、ハードタイヤに交換しました。彼らの間の差は約6秒でしたが、ここからフェルスタッペンがハードタイヤで素晴らしいラップを記録し差を広げていきます。そのスティントの前半では、フェルスタッペンは、まだ理解の浅い新しいマシンにも関わらず、チームメイトよりも0.8秒から1秒速いラップタイムを記録することができました。これは、同じ車でドライブしているドライバーに対して絶望的な差です。

チャンピオンの特徴は、彼らが極めて高いパフォーマンスの領域で作動しているとき、それがほとんど常に最高の車を運転しているから、ほとんど評価されないことです。いわくこんな速いマシンに乗れば誰でも勝てるとかです。しかし、最速の車で勝つことと、勝利に至るまでにライバルに何も残さないことには明確な区別があります。フェルスタッペンは、彼のハードタイヤのスティントの大半で一貫して1分35秒台前半を維持。一方、ペレスはスタート時に1分36秒台を2回きっただけで、それ以降は一度もそのレベルには戻りませんでした。それが良いと最高の違いです。

フェルスタッペンがリードを10秒にまで拡大するのに数周、正確には5周しかかかりませんでした。ラッセルの予選後の予測が、ハードタイヤの初期の周回でペレスにほぼ1秒の差を付けていた事実と比べると、かなり保守的に見えました。

他のチームに対するレッドブルのレベルは、フェルスタッペン自身も驚きをもって迎えました。ラッセルが予測した0.5秒の差を大きすぎるとする彼の予想は別に謙遜でも、隠していたわけではありません。

パワーユニットの温度上昇で苦戦しながらも、なんとか6位入賞したラッセル

「もちろん、他のチームがどのようにしてレースをアプローチしたかはわからないよ。燃料搭載量やその他の要因もあるしね」とフェルスタッペンは付け加えました。「しかし、私たちの側からすると、間違いなく半秒もリードすることは予想外でした。それは確実に、私が今日思っていたよりも良かったよ」

昨年の日本での勝利に遡ると、そこからフェルスタッペンは8連勝を達成し、少なくとも2023年のマイアミからモンツァまでの10戦連勝記録に匹敵することができる可能性は高いと言わざるを得ません。ペレスに対するこの優位性がある限り、彼への挑戦はおそらくライバルチームから現れる必要があります。そのため、フェラーリ、メルセデスなどが更なる進化を続けることが非常に重要です。

ペレスはチェッカーフラッグを受けた際にはフェルスタッペンよりもかなり遅れていましたが、それでも2位になるには十分でした。バーレーンの荒れた路面は、他のチームに比べてレッドブルにはそれほどの負担ではありません。ジェッダのより滑らかなアスファルトが他の車両のタイヤ劣化レベルを和らげる可能性がある場合、ペレスはその22秒の空白を他の挑戦者が埋めることを防ぐためにステップアップする必要があります。

フェルスタッペンの圧倒的な差をどうするか。これにはバーレーンの特異性によって彼に有利に働いたかもしれません。しかしそれはライバルにはほとんど慰めになりません。

2024年の開幕戦バーレーンGPでマックス・フェルスタッペンが二位以下につけた22秒の差は、レッドブルが持つ現時点での優位性を物語っています。フェルスタッペンが圧勝したことで、2023年よりも接戦となるとライバルとファンの期待はたった1レースで消え去りました。

(おそらくアルピーヌを除いて)ほとんどのチームはシーズンオフに新車を開発する過程で大きな進化を遂げています。問題は、レッドブルがライバルと同じくらいか、それ以上に進歩していることです。

新しいシーズンが始まりましたが、残念ながら我々は昨年の再放送を見せつけられそうな予感しかありません。