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ペレスが鍵を握ったフェラーリとメルセデスのコンストラクターズ争い_アブダビGP観戦記

シーズン最終戦のアブダビGPは、フェルスタッペンがシーズン19勝目を挙げ、彼の強さを示しシーズンを締めくくりました。オープニングラップでシャルル・ルクレールからの挑戦がレースを多少盛り上げたものの、優勝争いはすぐに落ち着きました。しかしフェラーリとメルセデスのコンストラクターズランキング争いがレースを最後まで盛り上げてくれました。今シーズンの最終戦 アブダビGPを振り返ります。

このレースも危なげなく逃げ切りシーズン19勝の大記録を打ち立てたフェルスタッペン

▽ルクレールの優勝以外の目的
先週のラスベガスGPとフロントロウのドライバーは同じでしたが、並びは逆になり、フェルスタッペンがポールポジション、その斜め後ろにライバルであるルクレールが並びました。日曜日の夕焼けの中でライトが消えると、ラスベガスGPとは逆の展開になりました。ルクレールは2番手からベストスタートを切り、素早く加速すると、フェルスタッペンと並びます。ターン1へのルクレールの加速は良く、ブレーキングゾーンに到達するまでに彼のノーズが少し前に出ていました。

ルクレールはイン側の有利なポジションにおり、左カーブのイン側からオーバーテイクするかに思えました。しかしフェルスタッペンはブレーキングを少し遅らせてアウトから高いボトムスピードを活かしてトップを維持しました。

ルクレールはまだ諦めておらず、バックストレートの中間にあるシケインに向かう長いバックストレートでフェルスタッペンに対してもう一度素晴らしい走りを見せました。トウを使ったルクレールは内側に飛び込み、「彼に右に行くつもりだと思わせて、実際は左に行った」と語っています。しかしここでも、フェルスタッペンは再びアウトから高いボトムスピードを活かして、アウトからかぶせて順位を維持します。

次のバトルはすぐに起こりました。ルクレールは「ターン9でもトライした」と述べています。 二つ目のバックストレートの後にある長い左ヘアピン。しかし、今度はアウト側を走ることを余儀なくされ、後退しなければなりませんでした。

メルセデスとのコンストラクターズランキング争いを有利にするべく、あらゆる手を使ったルクレール

「オープニングラップでもタイヤのことを考えるのが重要だったんです」と彼は言います。
そしてルクレールは付け加えました。
「だからこの時点で、私は2位になることに決めたんです」

エキサイティングな序盤のバトルでトップ争いをしましたが、それ以外にルクレールはもう1つの重要な目的がありました。それはラスベガスと同様に、コンストラクターズ・チャンピオンシップの2位を巡るメルセデスとの戦いでした。

「もちろん、私はコンストラクターズ選手権を考えていました」とルクレールは説明します。
「だから、あまりリスクを取ることができませんでした」

▽混乱するタイヤ戦略
「最初のスティントでは、実際にタイヤの状態を予測するのが難しかった。なぜなら、(クラッシュの多いFP2セッションのため)ロングランを行っていなかったからです」とフェルスタッペンは後に説明しました。「だから、最初は少し慎重に入りました。また、ミディアムタイヤは予想より良くなかったと思います」

最終的に、15周目でフェルスタッペンは2秒以上のギャップを広げることができましたが、これは通常より遙かに少ないギャップでした。そして1周後にピットに向かいます。

アンダーカットがここでは非常に有効でだったので、フェルスタッペンが先にタイヤ交換に入ったことにより、ルクレールがアンダーカットでフェルスタッペンを抜くことはありませんでした。

「マックスはミディアムタイヤでかなりセーブしていたと思います。彼はピットインする2、3周前からプッシュし始めました」とルクレールはレース後の記者会見でこの点について述べました。
「そしてすぐに、OK、彼らは最初に考えていたよりもはるかに余裕があるかもしれない」と理解しました。

ルクレールが17周目でハードタイヤに交換するためにピットに入った後、彼とフェルスタッペンの間のリードは2.9秒でした。上位陣がタイヤ交換を終えて、フェルスタッペンとルクレールが再び1-2の位置に戻った時点で、彼らの間のギャップは4.7秒に広がっていました。

ルクレールはのメルセデスとのコンストラクターズ争いを念頭に置いていました。サインツとハミルトンが予選の結果が悪かったためリカバリーしている中で、ルクレールがラッセルとどのように戦い、彼らが他の先頭集団とどのように関わるかが、今回のレースの注目点となりました。

ルクレールにとって、ラッセルがノリスよりも直接的な脅威になりました。理由は2つあり、まずラッセルが3番手に上がったことです。これは、ノリスの最初のピットストップが左リアの交換が遅れて5.1秒もかかったためです。トラックに戻った後、ノリスはラッセルから1.7秒離れて走行していました。

コンストラクターズランキング2位を守るべく、全力を尽くし表彰台を獲得したラッセル

「ハードタイヤでは、主に後ろのジョージとのギャップを管理することに集中していました」とルクレールは説明します。「私はマックスと戦うことはできないことを理解していたので、最初の数周でタイヤを使わないようにしてからプッシュしました。そして、その時点ではまだワンストップも考えていたので、レース終了まで走るかもしれませんでした」

しかしノリスはフェラーリの作戦を決める上で重要な存在でした。この時点で順調にワンストップが展開されるように見えた33周目に、マクラーレンはノリスをピットインさせ、2回目のピットストップバトルが始まりました。

予想以上にタイヤに厳しかったので、アンダーカットの効果は大きく、メルセデスは続く周回でラッセルをピットインさせノリスをカバーし、フェラーリもその1周後にルクレールを同様にピットインさせました 。3人のドライバー全員が2セット目の新品ハードタイヤを履きました。

これらはピレリのモータースポーツボス、マリオ・イゾラによると、オーバーヒートを避けるために「繊細に管理する必要がありました。また、スティントの最初にプッシュした際に発生する可能性のあるグレーニングも注意する必要がありました。

「レース前、我々はワンストップを予定していた」
とレッドブルチームボスのクリスチャン・ホーナーは述べました。
「しかし、ミディアムタイヤのデグレが予想以上に進んでいることを見て、2ストップに変更しました。実際、マックスはワンストップでもやっていけたでしょう。彼はペースとタイヤを管理することができていましたから」

36周目、フェルスタッペンはレッドブルに対してチームメイトに2回目のピットストップを優先させることを検討するよう伝えていました。最初は、これはレッドブルにとってシーズン10回目のダブル表彰台を獲得するためのものと思われました。しかし、フェルスタッペンには具体的な目標がありました。

スタートで出遅れたものの、ターン1でアウトから被せてポジションを維持したフェルスタッペン

「年間1000周リードすることを試みたかったんです」とフェルスタッペンは語ります。「それができる可能性があることを知っていました。GP(レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼの頭文字)に言ったんです。彼ももちろんそれを認識していました。だから自分を早めにピットインさせないようにするために言ったんです。タイヤはまだOKでした。素晴らしいとは言えませんでしたが、その時点ではまだOKだったので、少し走り続けました」

したがって、レッドブルは42周目にペレスを新品のハードタイヤに交換し、その次のラップでフェルスタッペンをピットインさせました。これにより、フェルスタッペンのアウトラップの最後には、リクレールに対するリードは5.6秒に減少しました。しかし、彼は8周のタイヤライフのオフセットを持っていたため、ラップ48の終わりまでにその差は8.2秒に戻りました。
最終的に、フェルスタッペンは2023年のラストラップで年間のリードラップを1003周に伸ばしました。

▽ペレスが鍵を握るコンストラクターズ争い
その後は、ペレスは注目される存在となりました。レッドブルにとっては、彼を再び表彰台に戻すことがすべてでしたが、ルクレールとフェラーリにとっては、彼の順位が上がると、メルセデスのポイントを減らし、レース前にあった2チーム間の4ポイント差を逆転できる可能性がありました。

2度目のピットストップ後の4周で、ペレスは角田を抜き、その後ノリスに接近しました。そして47周目、ターン6に向けてノリスにアタックしました。ノリスは「彼を抜かせようとしました… エイペックスから4台分離れていたんだけど」と述べましたが、ペレスは突っ込みすぎてターンインできず、彼らはシケインで接触し、ノリスは二つ目のシケインをショートカットして順位を維持しました。

二人が全く違う主張を繰り広げた後、ペレスは次の周回の同じ場所でノリスを抜きました。しかし、ペレスが前方のラッセルに向けて差を詰めていたところ、スチュワードは彼にノリスとの接触のための5秒ペナルティを科しました。その理由は、「ペレスが遅くらせて飛び込み、コーナーのエイペックスを逃し、外側に向かって押し出した」というものでした。

ピレリのピットストップリスト

54周目、ペレスはDRSを活用しターン9のインからラッセルを抜き、3位に浮上しました。この時点で、ラッセルは表彰台を逃し、ルクレールが2位をキープできれば6ポイント多く獲得でき、コンストラクターズランキング逆転できます。ただしペレスには5秒のペナルティがあります。

そのため、ルクレールは何かを試さなければなりませんでした。シンガポールでサインツがノリスにDRSを提供してメルセデス勢を抑えた思い出を呼び起こす賢明な作戦で、彼はペレスにそのアシストを与え、彼をラッセルから離し、ゴールまで引き離す計画を練りました。もし成功していれば、メルセデスのコンストラクターズのリードを逆転することができたでしょう。

「5秒のペナルティについて意識した瞬間から、基本的には」とルクレールは説明します。「その後は、常にジョージとチェコの間のギャップを聞いていました。彼らがチェコがジョージを抜いたと伝えてくれたとき、チェコが私の後ろにいて、私からDRSをもらってジョージからできるだけ離れることが私たちの最後の望みでした」

ルクレールは述べています。
「私とエンジニアの間でかなりの議論があり、彼にもこの計画を伝えました」

結局、ルクレールは最終ラップのターン5のヘアピン手前でサイドに寄せ、ペレスに2位を譲りました。そして、ペレスの後ろについて行くことで、レース後にペナルティが適用されたときに、ルクレールは2位に返り咲き、同様のことをラッセルが行えないように期待しました。しかし、結局、メルセデスはゴール時にペレスから3.9秒しか離れておらず、あと1.1秒足りませんでした。

「フェラーリの立場からは論理的な選択でしたが、彼らは仕事の半分しかやらなかった」とホーナーは述べています。最終的に、フェルスタッペンは18秒のリードでフィニッシュしました。
「彼らはペレスを先に行かすことはしたけれども、それからスローダウンしてラッセルを遅らせることはしなかった」

ヤスマリーナ・サーキット・レイアウト図

「ペレスが(2021年、有名なハミルトン対決で)そのセクターで示したように、そこでかなりの時間をかけることができます。チャールズはジョージをもう少し遅らせて、その1秒を取り戻すだけでした」

レッドブルは、「FP3で抱えていた高速と低速コーナーでの間で挙動が異なるセットアップの問題」を解決しました。コース上のバンプに配慮し、FP3と予選の間にライドハイトの調整を行いました。ホーナーは、レッドブルが「その方向で微調整を行った」と述べました。これにより、「マシンを通常のウィンドウに戻す」ことに成功し、最終的にはフェルスタッペンの週末全体の走りに大きな影響を与えました。

これでレッドブルとフェルスタッペンが圧倒的な強さを見せたシーズンは終わりました。しかし彼らが見せた強さは、ほんの小さなことの積み重ねだったのかもしれません。

作戦のミスはあったものの、終始入賞圏内を走行し8位になった角田

▽角田の8位入賞
いつもは10位より下から走り出し、最後は入賞するというケースが多かった角田ですが、この日は常に入賞圏内で走れていました。ラップタイムもライバルに比べて遜色もなかったので、ワンストップではなくて、ライバルと同じツーストップでも良かったと思います。

ライバルに比べて遅いなら逆の作戦をとる意味もありますが、ワンストップにしたことで角田はラップタイムを失っており、もしツーストップならアロンソの前でフィニッシュできていた可能性は高かったです。

彼より上位は実力的にアルファタウリより上のマシンばかりなので、8位でもある程度は満足しないといけないかもしれません。

ただレース序盤に、リカルドがバイザーをブレーキダクトに詰まらせてしまい、7周目でのタイヤ交換を余儀なくされ、変則的なツーストップになる不運がなければ、彼も入賞は十分に可能で、もし角田が7位でリカルドが10位の場合、レース前にあったウイリアムズとのポイント差7に追いつき、コンストラクターズランキングで逆転することは可能でした。

とはいえシーズン序盤、苦戦しただけに最後右肩上がりでマシンの戦闘力が向上し、素晴らしいレースができたことは喜ばしいことですよね。

2023年アブダビGP 最終結果
ドライバーズランキング アブダビGP終了後
コンストラクターズランキング アブダビGP終了後