ルノーのCEOルカ・デ・メオがアルピーヌF1のワークスパワーユニットプログラムを2025年以降終了する方針を発表したことは、同社の長年のモータースポーツ戦略における大きな転換点です。しかし、この決定は短期的な利益追求に偏重し、F1における長期的な競争力を犠牲にする可能性が高いことを危惧せざるを得ません。特にデ・メオが「ショートカット」や商業的成功を重視する姿勢は、F1の本質である持続的な技術革新や競争力向上の精神と相反するものです。

アルピーヌブランドを「フランスのフェラーリ」として成長させたいというデ・メオの目標は、夢物語に過ぎなかったのかもしれません。現実的なリソースや支援が不足していたことは事実ですが、そのビジョン自体が短期的な利益に翻弄され、実現可能性を欠いていたと言わざるを得ません。デ・メオは「フランスの企業がチームを十分に支援していない」として他者に責任を押し付ける姿勢を見せていますが、これは自社のマネジメント能力の欠如を隠そうとする典型的な言い訳です。
さらに、彼がF1プロジェクトにおける利益の重要性を強調する一方で、エンジンプログラムの終了を「現実的な判断」として正当化しています。確かに、コストキャップが導入され、エンジン開発の費用対効果が問われる時代ではありますが、独自のエンジン開発を放棄することが本当に正しい選択だったのかは疑問が残ります。メルセデスのカスタマーエンジンを採用する道を選んだことで、アルピーヌは安価に競争力のあるパワーユニットを手に入れられるかもしれませんが、それにより自動車メーカーというアイデンティティーを失います。
また、デ・メオの「ショートカット」という言葉が示唆するのは、短期間で結果を出すために長期的な計画や持続的な努力を犠牲にする姿勢です。F1は「成功のサイクル」を構築するために継続的な技術開発と戦略的な判断が不可欠であり、短期的な成果に焦点を当てることで、その基盤が揺らぐリスクが高まります。過去に同様のアプローチを取ったチームが失敗に終わった事例は枚挙に暇がありません。
ルノーのエンジン開発を終了することで、同社はF1におけるアイデンティティを一部喪失することになります。エンジンプログラムは、ルノーがF1において独自の存在感を示し、技術力をアピールする重要な要素でした。それを放棄することは、単なるコスト削減以上の影響を及ぼし、アルピーヌが独自のブランド価値を持ち続けることが難しくなります。
加えて、デ・メオがF1プロジェクトを見直すと述べる中で、彼が本当にF1の競争力を高める意欲があるのかも疑問です。エンジン開発の停止は短期的なコスト削減にはなるものの、長期的な競争力を犠牲にする危険性があります。特に、メルセデスのカスタマーエンジンを使用することで、独自の技術開発やイノベーションの機会を失うことになるでしょう。これでは、アルピーヌが「フランスのフェラーリ」になるどころか、他チームに依存する中堅チームのまま停滞してしまう可能性が高いです。
F1はビジネスの側面も確かに重要ですが、最終的にはサーキット上での競争力がすべてです。デ・メオの発言には、F1の本質を見誤り、短期的な商業的成功に囚われすぎている印象が拭えません。アルピーヌが今後もF1で成功を収めるためには、短期的な利益ではなく、長期的な競争力向上に焦点を当てた戦略的な判断が不可欠です。
ルノーがエンジン開発を終了し、カスタマーエンジンに頼る道を選んだことで、アルピーヌの未来はより不透明になりました。技術的なイノベーションがF1の生命線である以上、デ・メオの方針は、チームの将来を危うくする可能性があります。短期的な利益を追求するあまり、F1における成功の鍵を見失うことがないよう、ルノーには今一度、長期的な視点に立った戦略を再考する必要があるでしょう。

ただ彼の言い分も理解できる部分はあります。ルノーは市販車メーカーで利益を出す必要があります。正直今のF1は市販車とはかけ離れており、F1で勝ったからといって、自社の車が売れるわけではありません。だからアルピーヌがF1に参戦し続ける理由はありません。唯一の参戦理由はブランド価値向上ですが、それは短期間でなし得ることではありません。フェラーリが何十年掛けて今の地位にたどり着いたのか、彼は理解していないようです。しかもフェラーリはすべてのリソースをF1に注ぎ続け、それにより会社経営が傾き、市販車部門を売却しても、F1参戦を続けています。それは今のルノーの姿勢とは真逆の行動原理です。それでブランド価値を上げることができるのでしょうか。
今のF1チームは分配金もあり、新規参入もなく、予算制限もあるので、運営するだけでよければ、追加の費用は必要ありません。ただパワーユニットの開発メーカーには、お金が入ってこず、開発費の持ち出しだけです。つまりお金の掛かるパワーユニットを外注にすれば、費用も掛からずF1に参戦できて、あとは成功を祈れば、すべてが解決されると思っているのでしょう。
これではアルピーヌで働く人の意欲は下がるばかりなので、彼が考えるフランスのフェラーリという野望が遠のくばかりか、最下位付近を走っているのでは、逆にブランド価値を毀損してしまう可能性もあります。少なくともこの姿勢を続ける限りアルピーヌの低迷は続くでしょう。