ランド・ノリスがアメリカGPのポールポジションを獲得した瞬間、サーキット・オブ・ジ・アメリカズの観客席は歓声に包まれた。マクラーレンのノリスが繰り広げたラップはまさに彼のキャリア最高と言えるものであり、最終コーナーに向かう途中でジョージ・ラッセルがアクシデントを起こしたことも幸運となり、彼はレッドブルのマックス・フェルスタッペンからの挑戦をしのぎ切った。しかし、このポールポジションを単なる「ラッキーなもの」と片付けることはできない。それは技術と集中力の結晶であり、ノリスの完璧な走りがもたらした栄光だった。

ノリスが記録したラップは現代F1において非常に稀なもので、トラックの限界をミリ単位で利用しつつ、車を全く失速させない巧みさを見せた。彼はこのラップを「キャリア最高のラップ」と称しており、それは決して誇張ではない。特にマクラーレンのマシンは、凹凸が激しいサーキット・オブ・ジ・アメリカズでは十分に速さを発揮できるとは限らなかった。実際、タイヤの空気圧が適正に上がるかどうかでマシンのパフォーマンスが大きく変わり、Q1ではノリスとチームメイトのオスカー・ピアストリがP10とP12という厳しい位置にいたことからも、その難しさがうかがえる。
マクラーレンはサーキットに合わせて車高を低く設定し、非常に硬いサスペンションセッティングを施すことで、なんとかパフォーマンスを引き出そうとしていた。しかし、その結果セクター1のS字区間では非常に扱いにくい車となり、再舗装されていないバンピーなセクションで苦戦を強いられた。一方、レッドブルはその区間で圧倒的なパフォーマンスを発揮した。特にフェルスタッペンのマシンにはシンガポールGP以降の改良が施され、彼はこのS字区間をほぼ完璧に攻略することで他車を凌駕していた。

フェルスタッペンはターン19でタイムを失うまでは非常に強力なラップを展開していた。しかし、そのコーナーでのミスによって勢いを失い、追加のシフトダウンを余儀なくされた結果、ノリスとの差はわずか数百分の1秒という僅差で最速タイムを逃した。「ポールを取れるラップがあるのは分かっていたから、それほど心配していなかった」とフェルスタッペンは語ったが、その後のラッセルのクラッシュにより、再度のアタックチャンスを失ったのは痛手だった。
ラッセルのクラッシュがなければ、フェルスタッペンがポールを奪っていた可能性はあったが、確証はない。彼の2セクター終了時点のタイムはノリスの最初のランよりわずかに遅れており、最終セクターでのタイム回復がどこまで成功したかは計り知れない。それでも、フェルスタッペンが予選終了後に見せた悔しさは、彼の中に残ったポールへの執着を物語っていた。

カルロス・サインツもまた、予選での不運に直面したドライバーの一人だった。フェラーリの彼はQ3の2回目のランで劇的に良いパフォーマンスを見せる予定だったが、ラッセルのアクシデントにより、その可能性を奪われてしまった。「トラック温度が下がったのかどうかは分からないが、理由はともかく、車が急に良くなった」と語るサインツの言葉からも、最終アタックが中止されたことへの無念さが伝わってくる。彼はフェルスタッペンに比べてセクター1で0.15秒遅れを取っていたが、3番手のポジションをより接近したものにできた可能性は十分にあった。
フェラーリは低速コーナーで非常に速く、特にモンツァでのアップグレード以降、その性能が向上していることは明らかだった。しかし、ソフトタイヤではバランスが完璧ではなく、最終ランの中止により、そのペースが完全に発揮されることはなかった。シャルル・ルクレールもまた、約0.1秒遅れのタイムでピアストリのマクラーレンを上回ったものの、ノリスには遠く及ばなかった。
ノリス自身、Q3に入るまではマシンに自信を持てていなかったという。Q2ではフェルスタッペンに0.3秒遅れを取っていたが、エンジニアのウィル・ジョセフから「車が自分に近づくのを待て。あまり無理に攻めないで」というアドバイスを受け、その通りに走行スタイルを調整した結果、最終的には見事なラップを完成させたのだ。このアプローチにより、ノリスはコーナー進入でブレーキングと横方向の力を同時にかけすぎないようにし、フロントタイヤの限界を超えないように保った。
その結果、ノリスは超高速のS字区間を駆け抜け、車がフロアを叩き、リアがスライドしながらもグリップを保ち続ける走りを見せた。ラッセルがクラッシュしていなければ、フェルスタッペンがノリスを抜いてポールを取っていたかもしれない。しかし、ノリスが見せたラップは「美しいラップ」と形容されるにふさわしいものであり、ノリス自身も「もう一度あれを再現できるとは思わない」と語っている。

ノリスはその後、2回目のアタックを試みたが、セクター2終了時点で既に0.23秒遅れていた。彼は「もっとリスクを取った。あらゆるところでね。高速セクターでのレッドブルとの戦いに苦しんでいた部分を少しでも抑えようとした」と語っており、その意気込みは感じられたが、イエローフラッグが出ていなくてもタイムの更新は難しかった。
今回の予選結果は、マクラーレンが必ずしもレッドブルやフェラーリと同等の速さを持っているわけではないことを示している。ノリス自身も、「ここでは僕たちはレッドブルやフェラーリの後ろだった」と冷静に振り返っている。しかし、ノリスの圧倒的な走りと集中力、そしてラッセルのアクシデントという偶然が重なり、彼はアメリカGPのポールポジションを手にしたのだ。
レッドブルは依然としてシーズン序盤の圧倒的な優位性を取り戻してはいないが、それでも高速コーナーでのパフォーマンスを再発見し、低速コーナーでのバランスを失うことなく、その力を発揮している。このパフォーマンスのおかげで、フェルスタッペンは十分に戦える位置にいることは間違いない。それは他のドライバーたちにとって、手ごわい挑戦となるだろう。
アメリカGPの予選は、ランド・ノリスにとってキャリア最高のラップを記録し、彼がF1でトップドライバーの一人であることを証明するものとなった。一方で、フェルスタッペンやサインツといった他の強豪ドライバーたちにとっては、悔しさが残る結果であり、彼らが決勝レースでどのように挽回してくるのか、ますます注目が集まる。予選でのドラマチックな展開は、F1の魅力を再確認させるものであり、ファンにとっても見逃せない瞬間の連続だった。