F1メキシコGPは、高地特有の冷却問題がレース展開に大きな影響を与えた一戦となった。アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは海抜2,200メートルに位置し、その希薄な空気は車両の冷却に対する課題を常に突きつける。特にブレーキ、エンジン、電子機器の冷却が通常以上に求められ、各チームが最大限の対策を施して臨むこととなった。

メキシコの薄い空気は、通常のサーキットに比べて冷却能力を約25%も低下させ、エンジン、ディスクやキャリパーの温度管理を保つことが、しばしばレースペースに大きな影響を与える要因となる。ただし、PUやブレーキ冷却能力を増強すると、当然空力的なデメリットを被ることになる。
今年のメキシコGPでは、各チームが冷却性能を確保するために特別なボディワークを持ち込み、その多くが通常のサーキットとは異なる構成を採用した。例えば、レッドブル、マクラーレン、フェラーリ、ウィリアムズの各チームは、冷却ルーバーの拡大やエンジンカバーのリア冷却出口の変更を行った。これにより、PUの温度を低く保つことができ、レース全体のパフォーマンスを向上させる狙いがあった。
特に注目すべきは、冷却と空力のトレードオフがチーム間で異なるアプローチを生んだことです。通常メキシコGPでは、空気が薄くダウンフォースが少なく、ドラッグも少ないので車両は通常、最大のダウンフォース設定にされ、チームはモナコ、ハンガリー、シンガポールのような低速サーキットで用いられる高ダウンフォースのパッケージを採用します。
しかし、今年はその傾向が崩れ、トップチームの多くが効率と直線速度を向上させるため、リアウイングをダウンフォースの少ないパッケージに変更するケースが見られました。例えばレッドブルのマックス・フェルスタッペンはミドルダウンフォースのリアウィングを採用し、セルジオ・ペレスは高ダウンフォースのリアウィングを選びました。これは、各ドライバーのスタイルやレース戦略に合わせた設定であり、冷却性能を確保しつつも、空力効率を最大化することを目指していた。

一方、マクラーレンとフェラーリのブレーキ冷却に対するアプローチの違いも、レース結果に大きな影響を及ぼした。ランド・ノリスがシャルル・ルクレールに対して2位を争った際、その鍵となったのは両チームのブレーキ冷却性能の差だった。メキシコの薄い空気はブレーキの冷却能力を著しく低下させる。フェラーリはクリーンエアでの走行を想定し、冷却レベルを大胆に設定したが、ルクレールはレース中盤でキャリパーの温度上昇に苦しみ、リフト&コーストを余儀なくされた。
一方のノリスは、マクラーレンがメキシコGPに向けて特別に準備した冷却対策のおかげで、ルクレールに対して終始プレッシャーをかけ続けることができた。マクラーレンのブレーキダクトは、フェラーリと異なり、熱伝導性が低いカーボンファイバー製(フェラーリはアルミニウム製)で、冷却空気がディスクの外側から内側へと流れる2ルートの仕組みを採用している。この設計により、ノリスは冷却の限界に達することなく高いペースを維持し続けた。
フェラーリのシャルル・ルクレールは、レース後に「僕が防御を続ければノリスのブレーキがオーバーヒートすることを期待していたが、そうはならなかった」と語った。これは、マクラーレンの冷却対策が功を奏し、空力効率を犠牲にせずにブレーキの温度をコントロールできたことを示している。アンドレア・ステラも「今年のメキシコで『冷却』という単語をホットトピックとして聞かなかったのは初めてだ」と述べ、技術部門と生産部門の働きを称賛した。

今回のメキシコGPでは、各チームが異なる冷却戦略を採用し、その成果がレース結果に反映された。特にマクラーレンの冷却システムは、ルクレールに対するノリスの追い上げを可能にし、フェラーリとの差を生んだ。一方で、フェラーリはカルロス・サインツがマックス・フェルスタッペンからリードを奪ったものの、チーム全体での冷却問題がルクレールにとって足かせとなった。
メキシコGPは、高地での冷却問題がいかにチーム戦略やレース結果に影響を与えるかを如実に示した一戦だった。希薄な空気による冷却性能の低下と空力のトレードオフは、チームにとって大きな課題であり、それぞれのアプローチが明暗を分けたと言える。来年のメキシコGPでも、各チームがどのような冷却対策を講じ、どのように空力とのバランスを取るかが注目されるだろう。今回の結果は、冷却性能がレースの成否を分ける重要な要素であることを改めて浮き彫りにした。