マックス・フェルスタッペンがブラジルGPで見せた勝利は、まさにF1の歴史に残る名レースとなった。予選Q2で敗退しエンジン交換のペナルティもあり、17番手からスタートしたフェルスタッペンが最終的にトップでチェッカーを受けるまでの道のりには、数々の見えない要因が存在していた。その中で、フェルスタッペンとレッドブルチームが築き上げた戦略とドライビング技術、そして強靱なメンタルが光った。
「間違いなく、これは最高のレースだ」フェルスタッペンはブラジルGPでの勝利を振り返り、今シーズン8勝目を飾り、4連覇に王手をかけた。まず注目すべきは、予選での敗北を経てもなお崩れなかったフェルスタッペンのメンタル面だ。彼は「ガレージを壊しそうだった」と語るほど予選での結果に苛立ちを見せたが、その感情をレースでのパフォーマンスに変える能力が、彼の強さを象徴している。
「こんな後方から勝つなんて信じられない」と語った彼のコメントは、その強靭なメンタリティを象徴している。スタートの混乱や天候の変化、そして競り合うドライバーたちとの駆け引きなど、あらゆる要素が絡み合う中で、彼は冷静さを保ちながら追い上げていった。
とはいえ、彼と熟練のレッドブルチームにとっては、驚くべきことでもなかった。2024年の中盤戦は、マクラーレン、フェラーリ、時折メルセデスに苦戦する場面もあったが、それでもフェルスタッペンと彼の名門チームが築き上げた強さは健在だった。
インテルラゴスでの天候の変化は、フェルスタッペンのレースをさらに興味深いものにした。雨が降りしきる中、彼はブレーキポイントやグリップの変化を瞬時に察知し、最適なラインを選びながら他のドライバーを追い抜いていった。その中で特に印象的だったのは、ターン1で多くのドライバーを抜いたシーンだ。エスドセナでのオーバーテイクは、彼の技術と勇気が試される場面であり、観客を魅了した瞬間であった。「あの瞬間は自分でも驚いた。ブレーキに対する自信があったからこそ仕掛けることができた」とフェルスタッペンは振り返っている。
また、フェルスタッペンがレースを通じて見せたタイヤ戦略も見逃せない。予選Q2敗退によって新品のインターミディエイトタイヤを残していたことが、レース中盤の追い上げに大きく貢献した。他のトップドライバーたちが使用済みタイヤで苦しむ中、フェルスタッペンは新しいインターミディエイトを装着することで安定したペースを維持し、さらにはリードを広げることができた。
レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーが「1993年のドニントンでのセナに匹敵するパフォーマンスだった」と語ったように、フェルスタッペンのウェットコンディションでのパフォーマンスは、まさに伝説的なものであった。「我々はフェルスタッペンの才能を信じていたが、あの状況でここまでの走りを見せるとは思わなかった」とホーナーは感嘆している。
さらにVSC(バーチャルセーフティーカー)の間にピットに入らないという判断が、その直後に赤旗が出たことでピットレーンでロスなくタイヤ交換することにつながった。ただこの状況も単なる幸運では、なかった。雨が強くなることが予想されていて、その場合ブラジルでは豪雨になることが多く、そうなれば赤旗が出る可能性があることは予想できた。ただ問題は強くなる雨の中で、摩耗してグリップの落ちたインターミディエイトで、コースアウトすることなく走り続けるという困難があった。そしてフェルスタッペンはそれを成し遂げ、ギャンブルを成功させた。
それに加えて再スタート直後に、オコンをターン1でズバッとインを付き抜き去ったことは、お見事としか言い様がなく、まさにワールドチャンピオンの風格を感じさせる別格の走りを見せました。
一方で、ランド・ノリスとジョージ・ラッセルは、メルセデスとマクラーレンの戦略ミスによって苦戦を強いられた。特に、メルセデスがラッセルに強制的にピットインを命じた場面は、彼のレース展開に大きな影響を与えた。「あのピットインの指示は正直納得がいかなかった。もっと別の選択肢があったはずだ」とラッセルはレース後に語っている。この判断により、ラッセルはトップに立つことができず、フェルスタッペンの追い上げを妨げることもできなかった。
また、ノリスに関しては、マクラーレンのブレーキの問題が影響し、再スタート後のターン1でのミスが重なり、最終的には6位でレースを終える結果となった。「ブレーキが全く安定しなかった。特にウェットでの挙動が予測不能で、本当に難しかった」とノリスは悔しさを滲ませた。「我々は週末を通じて、ウェットコンディションで両ドライバーがブレーキのロックアップに苦しんでいた」とステラは語り、「これはマシンに原因があると考えられ、この困難な状況下でドライバーにとって扱いやすいマシンを提供できなかった」と認めた。
マクラーレンはスプリントレースで1-2フィニッシュを果たしたものの、ノリスは日曜日のレースで新しいミディアムダウンフォースのリアウィングを外して臨んでいた。このウィングはMCL38をドライコンディションで最速にしたが、ウェットでの安定性を重視し、ダウンフォースが大きいウィングに戻したのである。実際、ノリスは「このウィングが助けになった」と感じた。
しかし、これにより追加のダウンフォースが加わったことで安定はしたが、序盤にメルセデスのラッセルを追い抜くのが難しくなった。ステラによれば「ラッセルより速いものの、追い抜くのは不可能だった」と述べている。
フェラーリに関しても、このレースでは寒冷な天候条件での新たな弱点が露呈した。シャルル・ルクレールは「タイヤマネジメントの向上が逆に寒冷条件でのパフォーマンスに影響した」と述べており、ウェットコンディションでのセットアップの方向性に問題があったことが明らかになった。この傾向は次戦ラスベガスの寒冷な夜間レースでも、同様の問題に直面する可能性がある。
ルクレールはピットインのタイミングで、「フリーエアを見つけてほしい」と要請し、ベアマンとハミルトンが11位を争っている前に戻そうとした。しかしながらピットからコースに戻る際に、慎重に走ったルクレールはタイムロスし、ハミルトンの後ろで戻ることになった。フェラーリのチーム代表フレデリック・バスールも「ピットアウトでの損失を過小評価していた。タイミングが悪く、その後の展開に大きく影響してしまった」と認めている。「この寒さでは我々のマシンはどうしても苦戦を強いられる」とルクレールも語り、フェラーリは他のトップチームに対して劣勢に立たされることとなり、レース中盤では追い上げに苦しんだ。
最終的に、フェルスタッペンはエステバン・オコンやピエール・ガスリーとの競り合いを制し、リードを広げてチェッカーを受けた。その圧倒的なペースは、最後の26周で毎周約0.7秒ずつリードを広げ、最終的には19.5秒の大差で勝利を収めたことからも明らかだ。「マシンのバランスがとても良くなっていた」とフェルスタッペンは振り返り、その自信が圧倒的なペースにつながった。彼のファステストラップの記録は、レース中に17回も更新され、そのうち14回はリードを奪った後に達成したものであった。「レース中、どんどんマシンが良くなっていくのを感じた。特に最後のセクターでは圧倒的だった」と彼は述べている。
この勝利により、フェルスタッペンは2024年シーズンのワールドタイトルに向けて大きな一歩を踏み出した。残り3戦で86ポイントが争われる中、62ポイントのリードを持つフェルスタッペンにとって、タイトル獲得はほぼ確実と言える。
「この勝利でタイトルがほぼ確定したと思う」とホーナーも語り、「彼の強さはまさにF1の歴史に残るものだ」と続けた。ブラジルGPで見せた彼のパフォーマンスは、単なる一勝に留まらず、彼がF1の歴史に名を刻む存在であることを改めて証明した瞬間であった。「今日の勝利は、全ての努力が報われた瞬間だ。チーム全員に感謝したい」とフェルスタッペンはチームへの感謝も忘れずに述べている。