ランド・ノリスが見事な走りでマクラーレンを25年ぶりのコンストラクターズ選手権タイトルへと導いた。一方で、フェラーリは最後まで粘りを見せながらも、タイヤ戦略やパフォーマンスの差を克服することができなかった。アブダビGPのドラマティックな展開とその背景を詳細に分析する。
ターン1の波乱:ピアストリとフェルスタッペンの接触が生んだ混沌
決勝のスタート直後、オスカー・ピアストリとマックス・フェルスタッペンの接触がレースの展開を一変させた。ターン1でフェルスタッペンがイン側から攻め込む中、ピアストリはラインを維持し、結果として両者がスピンに追い込まれた。この接触により、フェルスタッペンには10秒ペナルティが科されたが、ピアストリのスタートポジション2位からの脱落は、マクラーレンの戦略を一気に難しいものにした。
ランド・ノリスはこの瞬間について、「ああ、コンストラクターズの勝利は難しいかもと思ったけど、集中してやるべきことをやれば達成できると分かっていたんだ」と語る。その決断が功を奏し、ノリスはポールポジションからのリードを維持。ターン1の混乱を回避し、1周目終了時点でサインツに1.9秒のリードを築いた。
ピアストリは最後尾からの再スタートを余儀なくされたが、冷静に状況を受け入れ、粘り強くポイント圏内を目指した。後にこの1ポイントが、マクラーレンのコンストラクターズタイトルを確定させる重要な要素になる。
ミディアムタイヤの戦略:第1スティントの攻防
アブダビGPの特徴である低デグラデーションの路面が、タイヤ戦略を大きく左右した。スタート時に装着されたミディアムタイヤは、予想以上に長持ちし、各チームが第1スティントを安定的に進める基盤となった。
ピレリのモータースポーツ責任者マリオ・イゾラはレース後、この段階では「それほど多くのタイヤ管理が行われていなかった」と述べ、「予測よりもデグラデーションが若干少なく、グレイニングもかなり低かった」と話した。
ランド・ノリスは1分28秒台後半から29秒台前半の安定したラップタイムを刻み、サインツを最大3.5秒引き離した。一方で、フェラーリはミディアムタイヤでのパフォーマンスが比較的良好だったため、ギャップを一定に保つことができた。しかし、タイヤの寿命が近づくにつれ、フェラーリSF-24のパフォーマンスは徐々に低下し始めた。
ピレリのモータースポーツ責任者マリオ・イゾラは、「ミディアムタイヤは予測以上に安定していたが、フェラーリのリアタイヤのグレイニングが他チームより早く進行した」と述べている。この差が、第1スティントの終盤にノリスがリードを広げる要因となった。
ピットストップの駆け引き:アンダーカットと対応策
「ダーティエアは辛いものだ――3秒や2秒後方でもね」とノリスは説明した。「それをスティント全体でやり遂げて、あれだけ接近しているなんて、(サインツは)印象的だった」。
事実、サインツはレースの最初の4分の1の間、ノリスから最大3.5秒差で追い続けた。それでもサインツの努力にも関わらず、SF-24のミディアムタイヤは徐々に影響を受けていった。
レース中盤のピット戦略は、タイトル争いの行方を決める重要な局面となった。25周目にギャップが3.8秒に縮まったことで、フェラーリは動いた。サインツがピットインし、2.2秒で作業を完了。その後、サインツはタイヤのサーマルデグラデーションが重要なこのレースで、アンダーカットの強力さを武器に攻めた。
「アウトラップを非常に速く走って、ピットストップ後にランドに追いつけるようDRS圏内、またはオーバーテイクの射程圏内に入ろうとした」とサインツは、この重要な局面について語った。「また、彼らが0.5秒から1秒遅れるピットストップをした場合、それも追い風になるからね」
マクラーレンはこれに対抗するために、次の周回でノリスはピットインを指示された。チーム代表のアンドレア・ステラは「シーズン全体が最後のピットストップにかかっていた」と考えていた。「カルロスにポジションを失えば、選手権も失っていたかもしれない」と彼は付け加えた。マクラーレンの作業は2.0秒で完了した。
レースの行方はまだ分からないまま、ノリスはピット出口トンネルを力強く抜けた。サインツの猛烈なインラップ/アウトラップの組み合わせ――特にインラップで0.7秒のアドバンテージを得た――により、ノリスのリードは2.1秒に縮まった。さらに、フェラーリのハードタイヤはすぐに温まり、機能していた。ノリスにはやるべきことが山積していた――タイヤを過度に負担させないバランスを取ることや、終盤にタイヤが壊れないようにすることだ。
「このタイヤで判断するのは非常に難しい」とサインツは言った。「レース序盤の3周でタイヤのピークを引き出すべきか、それともそれを後半に取っておくべきか。」
最終的にサインツは後者を選び、それをノリスはハードタイヤでの2周目にすぐ察知した。「彼がピットアウト直後に相当攻めたのは分かっていた」とノリスは説明した。「僕のインラップは完璧ではなかった。タイヤでかなり苦労し始めていたんだ」
「そしてターン2とターン3――タイヤをセーブする場所――で彼が即座にセーブしているのを見て、それが少し安心になった。同時に自分もセーブを始めることができた。だから難しい判断だった。もし彼が早く攻めすぎていたら、完全にタイヤが崖を越えてしまっただろうし、たぶん僕もそうなっていたかもしれない」
この時点でのマクラーレンの冷静な判断力が、タイトルへの道を大きく切り開いた。
フェラーリの苦闘:サインツとルクレールの対照的なレース
トップの二台が1分28秒台前半で周回する中、その差は2秒付近で推移していた。しかし、ノリスが1分27秒台に突入し、サインツがそれに最初はついていけなかったため、ギャップは広がり始め、36周目の終わりには3.2秒に達した。
「我々はレース終盤でデグラデーションを利用してノリスを追い詰めることをもっと想定していた」とフェラーリのチーム代表フレッド・バスールは説明した。「しかし、それは起きなかった」。
フェラーリは、この2台がこの時点で築いていたギャップのために、サインツでの2ストップ戦略を検討しなかった。ピレリのイゾラによれば、多くのチームがレース開始前に「すでに1ストップにコミットしていた」。実際、上位チームはいずれも使用可能なミディアムタイヤを1セットしか持たず、新しいハードタイヤを「緊急時用、または予想以上のデグラデーションに備えて」2セット温存していたという。「接近戦をしている場合、何が起こるか分からない」とバスールは付け加えた。
一方、シャルル・ルクレールは19番手スタートから驚異的な追い上げを見せた。1周目で11台を抜き去り、8位に浮上。その後も冷静な戦略判断とアグレッシブな走りでポジションを上げ、最終的に3位表彰台を獲得。ルクレールのパフォーマンスは、フェラーリにとってマクラーレンを逆転するための最後の希望だった。
しかしノリスは最後の周回でペースを抑えながらも、5.8秒差で悠々と勝利を収めた。一方、サインツは最後まで「全力でプッシュし続けた」と語った。ノリスは、ハードタイヤでは1周平均で0.184秒のアドバンテージを持ち、最後の周回を余裕を持って走りながら勝利を味わった。
「ハードタイヤでは、マクラーレンとランドがほんの0.1〜0.2秒速かった」とサインツは結論づけた。マクラーレンがインテルラゴスで導入したリアウイングパッケージの高いダウンフォースレベルも、こうしたタイヤ寿命の維持に貢献した。
「ミディアムでは、本当にチャンスがあると強く信じていた。でも、ハードタイヤでは少しずつ難しくなっていった。そこで我々のマシンの弱点が現れ始め、マクラーレンの強みが再び浮き彫りになった。そして、タイトルが我々の手から滑り落ちていった…」とサインツはレース後に振り返った。
ピアストリの奮闘とチームの勝利
オスカー・ピアストリは、ターン1での接触により最後尾に転落しながらも、執念の走りで10位フィニッシュを果たし、1ポイントをチームにもたらした。この1ポイントは、タイトル争いの緊張感を高め、結果的にマクラーレンの優位を確保する要因となった。
1ポイントがどれほど重要か――これは数字の単純な足し算以上の意味を持つ。アブダビGPで、もしサインツがノリスを逆転して優勝していた場合、ピアストリの1ポイントがなければ、コンストラクターズタイトルはフェラーリの手に渡っていた。
マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、「オスカーの1ポイントは、まさにシーズン全体を支える最後のピースだった」と述べている。さらに、この1ポイントがあったことで、チームはノリスのリードを守ることに専念することができた。仮にポイント差がさらに縮まる状況であれば、チームはより保守的な戦略を選ばざるを得なかっただろう。
アンドレア・ステラは「オスカーが諦めずに戦い抜いたことで、チームの士気がさらに高まった」と語り、彼の貢献を称賛した。ノリスとピアストリの二人三脚が、マクラーレンのタイトル獲得を支える原動力となった。
アブダビGPのフィナーレは、マクラーレンの戦略、ドライバーの卓越した技術、そしてチームの結束力が生んだ勝利の瞬間だった。一方、フェラーリは限界を超えた奮闘を見せたものの、タイヤ管理や戦略面での課題を克服できなかった。2024年のシーズンは、両チームの明暗を分ける形で幕を下ろしたが、この戦いの余韻はF1ファンの心に深く刻まれるだろう。