フェラーリは、現在のF1規定において、スプリットターボを採用していない唯一のエンジンサプライヤーです。その選択には特別な技術的利点が見出されていないという理由もありますが、何よりも自社のエンジン哲学を守り続けていることが大きな要因です。
2025年は、2014年に導入されたハイブリッド規定に基づくパワーユニットが使用される最後の年です。この規定に基づいて開発されたパワーユニットは、長い12シーズンを経ましたが、実質的に自由に開発できる期間は、2022年の規定凍結前の9年間だけでした。この技術サイクルは、異なるエンジン哲学を持つ2つのアプローチが並存する形で終了を迎えます。フェラーリはその間、メルセデス、ホンダ、ルノーが採用したスプリットターボの概念に賛同せず、コンパクトな一体型ターボチャージャーを選び続けました。この選択に対して、フェラーリは後悔を感じていないと強調しています。

スプリットターボと一体型ターボ:どちらが優れているか
スプリットターボを採用したメルセデスやホンダの最大の利点は、その低重心化とエアロダイナミクス上の自由度にあります。スプリットターボでは、タービンとコンプレッサーを分離して配置するため、エンジンの重心を下げることができ、その結果、車両の安定性が向上します。
また、この構造によってエアロダイナミクスの設計にも自由度が生まれ、空気抵抗やダウンフォースの調整がしやすくなるというメリットもあります。
一方、フェラーリの一体型ターボは、軽量化と低回転域での優れた反応性を重視する設計です。このアプローチでは、ターボチャージャーを一体型でシリンダーバンクの間に収めることができるため、エンジンの構造が非常にコンパクトになります。その結果、車両全体の重量が軽減され、低速域での加速性やエンジンの応答性が向上します。

スプリットターボとは
メルセデスは、ハイブリッドパワーユニット用としてスプリットターボ構造を最初に提案したメーカーです。このソリューションは、排気ガスによって駆動されるタービンと、エンジンに吸入される空気を圧縮する役割を持つコンプレッサーを分離して配置するものです。この2つの羽はシャフトで接続され、その間にMGU-H(排気ガスで発生したエネルギーを回収する電動モーター)が搭載されています。このMGU-Hはエネルギーを回収するだけでなく、逆にコンプレッサーを加速させる役割も果たします。
ホンダは、メルセデスに続いてスプリットターボの設計を採用し、2022年にはルノーもこの構造を開発しました。同年、フェラーリもこの方式に移行するのではないかと考えられていましたが、結局フェラーリは独自の哲学を貫きました。
「我々の設計では、MGU-Hがターボチャージャーの前面に取り付けられています」と、2023年にフェラーリのエンジン部門責任者エンリコ・グアルティエリは説明しています。「我々は長年にわたり、他の競合他社とは異なるこのユニークなソリューションを維持することを選びました。ターボとMGU-Hを分離するのではなく、コンパクトなユニットとして維持することで、シリンダーバンクの間にすべてを収めることができたのです」。
スプリットターボの利点とその採用理由
スプリットターボの採用に関して、ホンダの元F1プロジェクト技術責任者である田辺豊治氏は、次のように説明しています。「私たちは以前、コンパクトなターボチャージャーを採用していましたが、その後、タービンとコンプレッサーを分離する設計に移行しました。
この構造はホンダにとって多くの利益をもたらしました。以前の設計と現在の設計の両方から多くを学びました。コンパクトなターボにも利点があるかもしれませんが、私たちはそれに戻ることはなく、現在の設計が最適な妥協案であると考えています」。
設計の選択は、重量、サイズ、エンジン性能の間で最適なバランスを見つけることに依存します。たとえば、スプリットターボでは、タービンとコンプレッサーがエンジンブロックの外側に配置されるため、接続シャフトとMGU-Hをシリンダーバンクの間に配置し、ターボチャージャー全体の重心を下げることが可能になります。
スプリットターボの配置は、エアロダイナミクス部門が外装を設計する際の自由度を高める一方で、吸気・排気管の形状や、エアとガスの圧力損失、エンジンから得られる出力、MGU-Hを介して再生可能な電力量などが、パフォーマンスに影響を及ぼします。
田辺氏は、「スプリットターボのパッケージはエアロダイナミクスにも影響を与えますが、パワーユニットの競争力を高める観点からは大きなメリットがある」と述べています。具体的には、エネルギー回収によってパワーを効率的に引き出し、エンジンの性能を向上させることができます。

フェラーリのエンジン設計哲学
一方、マラネロのエンジン部門は長年にわたりスプリットターボの構造を研究してきましたが、他社ほどの利点を見いだせなかったため、自社の方針を維持してきました。これは、フェラーリが採用するコンプレッサーが競合他社よりも小型であることにも関連しています。
この設計は、重量の軽減、高回転域への容易な対応、低回転域での優れた応答性を可能にします。コンパクトなサイズは、ターボチャージャー全体をシリンダーバンクの間に収めることを可能にし、少なくともサイズとエアロダイナミクスの観点からはスプリットターボと同様の利点をもたらしています。
この設計により、低回転域での優れた応答性と高回転域でのパフォーマンスが実現され、F1カーにとって重要な性能を確保することができています。
2026年に向けて:スプリットターボの終焉
2026年から施行される新しいF1規定では、MGU-H(運動エネルギー回生システム)の廃止が決定されると同時に、ターボチャージャーの設計に関する規制も強化されます。特に、タービンとコンプレッサーの最大・最小直径が設定され、その間の距離が175mmに制限されるため、スプリットターボの設計は物理的に不可能となります。これにより、F1におけるスプリットターボの時代は終わりを迎えることになります。
フェラーリは今年も独自のエンジン設計哲学を守り、競争力を維持していく考えを示しています。このような対立は、単なる技術選択の問題にとどまらず、各メーカーがエンジン設計において何を重視するかという、根本的なアプローチの違いを浮き彫りにしてきました。
フェラーリが持つ独自の一体型ターボ設計のノウハウが、競争の中で来年以降どのように進化し続けるのか、また新時代のパワーユニットがどのような形になるのか、注目が集まるところです。
フェラーリにとって、この新たな規定の下で自らの哲学をいかに進化させ、競争力を保ち続けるかが重要な課題となります。特に、MGU-Hの廃止に伴い、エネルギー回収や効率性をどう最大化するかが、新しいエンジン設計において中心的なテーマとなります。
最終的には、フェラーリが長年培ってきたエンジン開発のノウハウと、他メーカーが試みたスプリットターボ設計の経験を取り入れた新しいアプローチが見られる可能性もあります。2026年以降の新しいF1の技術的な風景において、フェラーリがどのような道を選ぶのか、その答えが明らかになる日をファンは待ち望んでいます。