2025年シーズンが幕を開けて間もなく、早くもレッドブルはドライバーラインナップの見直しに着手し始めた。注目を集めたのは、マックス・フェルスタッペンのある発言だった。彼は、苦戦しているリアム・ローソンに同情的なコメントを残した。
「リアムをレーシングブルズのマシンに乗せたら、もっと速く走ると思うよ。あのマシンの方が、僕らのより運転しやすいからね」
この一言は、ただの励ましではなかった。そこには、レッドブルRB21というマシンが持つ、特異な性格とその“乗りこなしの難しさ”が示唆されていた。

「乗りやすさ」と「速さ」は両立しない
レッドブルのRB21と、姉妹チームレーシングブルズが使用するVCARB 02は、一部のコンポーネントを共有しているとはいえ、設計思想は根本的に異なる。
VCARB 02は、中団争いにおいて安定したパフォーマンスを発揮することを目的としたマシンである。サスペンションやパーツはRB21から譲渡されたものの、空力コンセプトは独自のもので、コーナリング中の再現性とトラクションの立ち上がりやすさが特徴だ。
一方、RB21は「勝つためのマシン」であり、コーナーでのピークスピードを最大化するため、非常に繊細なライドハイト制御と空力効率を要求する。ライドハイトを数ミリ下げることで空力性能を劇的に向上させることができるが、その代償としてマシンは低速域でナーバスになりやすく、ドライバーには極めて高い精度の操作が求められる。
この違いこそが、フェルスタッペンの発言の背景にある「運転しやすさ」の本質である。
RB21は“高い最低速度”が鍵
レッドブルRB21の真の強さは、中高速コーナーでの最低速度の高さにある。これはマシンが十分な速度でコーナーに進入することで、アンダーボディを流れる空気の圧力差によるダウンフォースを最大限に活用することができるためだ。
特にフロアが地面に近づくことで、ベンチュリートンネルを通る気流は加速し、ディフューザーから抜ける際に低圧領域が形成される。この“グラウンドエフェクト”の効率がRB21の大きな武器となる。
しかし、速度が不足すればその恩恵を受けられず、リアが急激に失われるというリスクがある。つまり、RB21に乗るドライバーには「怖さ」を乗り越えて、高い最低速度でコーナーに飛び込む決断力と制御力が必要なのだ。

ローソンの“恐れ”、フェルスタッペンの“確信”
たとえば中国GPの予選Q1。リアム・ローソンとマックス・フェルスタッペンのラップを比較すると、その差は単なる経験値の違いにとどまらない。
ローソンはターン1への進入で積極的に仕掛けようとしたが、速度がやや速すぎてブレーキのタイミングが不安定になり、結果としてリアのグリップを失いスナップを喫した。一方のフェルスタッペンは、ほんのわずかにスロットルを緩めることでリアの荷重を整え、そのうえで滑らかに減速しながら進入。コーナーの中盤で高い速度を維持する走りを見せた。
ローソンは「突っ込む勇気」はあった。しかしRB21に対する“信頼”がまだなく、加速の際にもリアの挙動に神経を使いすぎて、スロットルを踏み込むのをためらってしまう。結果として、ターン8の立ち上がりでは大きなトラクション不足に陥った。
こうした“マシンへの信頼度”の差が、数周のラップだけでなく、シーズン全体にわたって結果を左右するのだ。

角田の挑戦:アグレッシブさと忍耐の両立
RB21のようなマシンに乗るとき、必要なのは単に“速さ”ではなく、“正しく速く”走ることだ。これは言うは易く行うは難しで、たとえそれが角田裕毅のように攻撃的なスタイルを持つドライバーであっても同じことが言える。
キーポイントは、コーナー進入時にリアの限界を見極めつつ、スロットル操作で微妙なバランスを保てるかどうかだ。それができるようになれば、彼はこのマシンの“猛獣”を味方につけることができるだろう。

マクラーレンとの対比:別のアプローチ、別の課題
興味深いことに、RB21のような「攻めて乗るマシン」とは対照的なのがマクラーレンMCL39である。ランド・ノリスは「MCL39は難しい」としながらも、そこには受動的なドライビングスタイルが求められていると語っている。
彼の言う「様子を見てから反撃に転じる」スタイルとは、序盤は無理に攻めず、マシンが落ち着いてから徐々にトラクションを立ち上げていくという“我慢のアプローチ”だ。
これと比べてRB21は、常に主導権を握り、攻め続けなければならないマシン。受け身では速くならない。ドライバーはマシンの不安定さを恐れず、自ら手綱を握り続けなければならない。

勝つためのマシン、乗りこなす勇気
レッドブルがレーシングブルズのような“乗りやすい”マシン作りを目指すことはない。それは勝利を追求する彼らにとって、最適解ではないからだ。
RB21には圧倒的なポテンシャルがある。だがその力を引き出すには、ドライバーが「適応」し、「理解」し、「受け入れる」必要がある。自分のスタイルにマシンを合わせるのではなく、マシンの“性格”に自分をフィットさせなければならない。
フェルスタッペンはそれを完全に理解し、自分のスタイルで最大限に活かしている。角田は今、そのステージへと足を踏み入れつつある。ローソンには、その入口すらまだ霞んで見えているかもしれない。
角田にとって、このマシンにいきなり慣れるのは簡単なことではない。だが、彼が自身の攻撃的なスタイルを損なうことなく、それでいてリアの挙動に対して忍耐強く対応できれば、予想以上の活躍を見せる可能性がある。
いずれにしても、彼は注目を集めるだろう——それが比喩的な意味であれ、実際に皆が振り返るという意味であれ、すべては彼の適応力次第だ。
RB21は“乗りやすいマシン”ではない。だが、“乗りこなせた者だけに勝利を与える”という意味で、これ以上ない挑戦状でもあるのだ。