日本GPは非常に特異な週末となった。フェルスタッペンが予選・決勝ともに他を寄せ付けず、マクラーレン勢2台を抑えて勝利を収めた。マクラーレンは週末前には有力な優勝候補と目されていたが、レッドブルは土曜日の朝にダウンフォースを抑えたセットアップを選択し、それが最終的にレースで功を奏した。なぜその選択が有効だったのか、詳しく見ていこう。

レッドブルにとって今季初の“小規模な”アップデート
日本GPでは、レッドブルが今シーズン初となる小規模なアップデートを導入した。新しいエンジンカバーに加えて、リアサスペンションカバーやリアブレーキダクトにわずかな変更が加えられていた。
エンジンカバーは小型化され、ビームウイングに直接空気を当てるための後部開口部が高さ・幅ともに狭められている。この設計は、空力効率の向上とリアウイング下の気流の質の改善を目的としている。
さらに鈴鹿では、エンジンカバー側面にあった追加のベンチレーションが撤去されていた。これは週末の非常に低い気温に対応するためであり、RB21全体の効率性向上にもつながった。ボディワークをより密着させることで、気流がクリーンになり、マシン全体の効率も向上している。
この点について、レッドブルのチーフエンジニア、ポール・モナハンは金曜日にこう語っている。
「我々はその部分を少し洗練しようとしている。冷却性能がわずかに向上することで、マシンをより閉じた状態で走らせることができ、リアウイングへの影響も小さくできる。」
さらに、リアサスペンションとブレーキダクトにも小さな変更が加えられていた。図で示されているように、プッシュロッドのタイには新しいフェアリングが装着されており、中央部分の形状がより直線的になっている。
また、ブレーキダクトに空気を取り込む縦のカーボンプレートには、フローディフレクター(整流板)が追加された。これにより、より多くの空気をブレーキダクトに導き、リアリム(タイヤ)の冷却性能が向上している。上部の整流板は以前よりも上向きのカーブを描いており、気流の方向も調整されている。
ただし、これらの変更はあくまで小規模なものであり、エンジンカバーの新設計と組み合わさっても、パフォーマンス面での効果は限定的である可能性が高い。
モナハンは、ドライバーがマシンの性能を引き出しやすくするために、安定性の向上を目指しているとも述べている。「今やるべきことは、このマシンからもう少しスピードを引き出し、安定性を改善して、ドライバーたちがより運転しやすくすることだ。」

金曜から土曜にかけての大逆転
こうした新パーツが投入されたにもかかわらず、金曜日のRB21はバランスに苦しんでいた。特にFP1では低速コーナーの脱出時やセクター1のエス字でリアが大きくスライドし、フェルスタッペンはマシンをコントロールするのに苦労していた。
このリアのグリップ不足は主にアンダーステアが原因だった。レッドブルは“ニュートラル”なバランスのセットアップで週末をスタートさせ、これは角田には合っていたが、フェルスタッペンには全く合わなかった。マシンは高速・低速の両域でアンダーステアに悩まされ、スロットルを踏んだ際にはオーバーステアが発生していた。
一方で角田は、同じセットアップでもFP1でフェルスタッペンに0.1秒差まで迫る好タイムを記録していた。
しかしこのセットアップでは、RB21はソフトタイヤでの予選シミュレーション(FP1のタイム差は0.516秒)でも、ロングランのレースペースでも遅れを取っていた。特にソフトタイヤを履いた状態で、フェルスタッペンの平均タイムはノリスに1秒近く遅れていた。
フェルスタッペンは金曜日の走行後、次のように語っている。
「ラップをまとめるのはかなり難しかった。このサーキットを攻めるには多くの自信と覚悟が必要だけど、今はそれを活かせている気が全くしないんだ。」
これを受けて、レッドブルは金曜の夜に徹底的な解析とシミュレーション作業を行い、原因を追究。ミルトンキーンズのファクトリーでの作業が功を奏し、土曜朝にはマシンが大きく変化した。
RB21はより速くなり、フロントエンドの反応性が改善され、フェルスタッペンが好む特性へと変化。ローダウンフォースのセットアップとの相性も抜群だった。角田はFP3からリアウイングをハイダウンフォース仕様に変更したが、フェルスタッペンは引き続きローダウンフォース仕様で走行を続けた。
この変更の目的は、新舗装による高いグリップと予選時のソフトタイヤの性能を最大限に活かし、前方グリッドを確保することだった。そして、効率的なセットアップと強力なフロントエンドによって、フェルスタッペンは全セクターでタイムを稼ぐことができた。

フェルスタッペンの勝因
レッドブルが予選重視のセットアップを選択したのには明確な理由があった。鈴鹿のようなコースでは、レイアウトの特性上、DRSゾーンが少なく、オーバーテイクが非常に難しい。そのため、予選で前のポジションを取ることが決定的な意味を持つ。
今年に限って言えば、その傾向はさらに強まっていた。セクター1の新舗装、決勝日における非常に低い気温、そして朝方の雨により路面は“グリーン”(ラバーが載っておらず滑りやすい状態)になっていた。しかし、グリップレベル自体は非常に高く、タイヤへの負荷は少なくなっていた。つまり、日曜のレースではタイヤの摩耗がほとんど発生しなかったのだ。
この状況において、フェルスタッペンのマシンに採用されたローダウンフォースのセットアップは、予選だけでなく決勝でも予想以上に効果を発揮した。まず、ポールポジションを獲得したことで、彼はレースをクリーンエアの中でスタートすることができ、タイヤマネジメントの面で大きなアドバンテージを得た。
新舗装による高グリップ、そして低デグラデーションという条件下では、レッドブルの“軽いセットアップ”が有利に働いた。通常ならマクラーレンに劣るはずのRB21のタイヤマネジメント性能も、こうした条件により相殺され、MCL39とほぼ同等のペースを維持することが可能となった。
レース後、マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラも次のように語っている。
「新舗装のおかげで、鈴鹿のキャラクターは完全に変わった。今ではデグラデーションが非常に低くなっていて、同じ戦略でオーバーテイクするのはほぼ不可能だ。前のマシンを抜くには、0.7から0.8秒ものペース差が必要になる。」
RB21の高い空力効率も、マクラーレンとの差を作る要因となった。フェルスタッペンはセクター2と3でマクラーレン勢よりも速く、特に直線区間やターン11およびターン17の立ち上がりでタイムを稼いでいた。
フェルスタッペン自身もレース後のインタビューで、こうした要因が勝利に繋がったことを認めている。
「たぶん、気温が低かったのが助けになった。タイヤのオーバーヒートを防げたからね。でも何よりも大きかったのは、やっぱり昨日ポールからスタートできたこと。鈴鹿では後ろから走るのは本当に大変なんだ。」

完璧な準備が完璧な勝利を導いた
こうしてレッドブルは、予選に向けたセットアップ選択と土曜朝までの調整作業、そしてフェルスタッペンの圧倒的なスキルによって、日本GPを完全に制することとなった。
土曜日の段階でほぼ勝負を決めることができたこの週末、フェルスタッペンはポールを獲得し、そのままレースをリード。誰も前に出させることなくチェッカーフラッグを受けた。
そしてもちろん、4度のワールドチャンピオンであるフェルスタッペン本人にも、最大級の賛辞が送られるべきだろう。彼は改めて、「適切なマシンさえあれば、ドライバーが現代F1においても大きな違いを生み出せる」ことを証明してみせた。
次戦のバーレーンでは、各チームが通常のパフォーマンスレベルに戻ると予想されるが、今回のような“本格的な”アップデートが与える影響が、今後のシーズンにどう表れてくるのか、注目が集まる。