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止まらぬ進撃、マクラーレンの強さと速さ:バーレーンGP 金曜日レビュー

――バーレーンGP金曜走行から見える週末の構図
例年、風と砂が絡むこの中東の夜は、チームとドライバーにとって最初の実力テストの場だ。そして、その夜の照明の下で最も鮮やかな存在感を放っているのが、他でもないマクラーレンだった。

フリー走行1回目(FP1)では、ランド・ノリスが今季のFP1全戦でトップタイムを記録する好調を維持。一方、より実戦的なコンディションとなる日没後のFP2ではオスカー・ピアストリがマクラーレンの速さを改めて証明した。彼らはドライバーとして慎重な姿勢を崩さず、「まだ本番じゃない」と言わんばかりにトーンを抑えているが、周囲の評価はそうではない。

フェラーリのシャルル・ルクレールは、「彼らは純粋な速さにおいて別次元」と率直に語った。実際、予選シミュレーションではマクラーレンが最も近いライバルのレッドブルに約0.4秒の差をつけており、決勝ペースでも0.2秒の優位を保っている。

技術的な視点から見れば、マクラーレンの強さは、特に低速〜中速コーナーでのメカニカルグリップの高さに支えられている。これは、彼らが昨年から継続的に強化してきたリアエンドの安定性と、前後のバランス制御の熟成が実を結んだ結果だ。また、最終セクターでの一貫したタイヤ温度管理は、長いスティントでもパフォーマンスを落とさないセットアップの完成度を示している。

一度も勝利したことのないバーレーンの地で、マクラーレンが歴史を塗り替える準備を整えている――そう断言しても、今の彼らなら不自然ではない。

レッドブル、苦悩のスタートと見えぬ答え
過去二年、バーレーンGPで連勝してきたレッドブルにとって、この金曜日は「異変」で始まった。FP1ではマックス・フェルスタッペンのマシンを岩佐歩夢が担当。育成ドライバーにとって重要なマイレージ確保の機会だったが、チャンピオン自身にとっては、貴重な走行時間を失うことにもなった。

FP2でようやく登場したフェルスタッペンは、終始マシンのグリップ不足に苦しみ、「とてつもなく大きな差がある」と率直に不満を表明。「ロングランではまだ多くの作業が必要」と語った通り、マシン全体のバランスが噛み合っていない印象だ。

ソフトタイヤでの走行も「まったく楽しくなかった」と振り返っており、特にタイヤのデグラデーション管理においてマクラーレンとの差を感じているようだ。

興味深いのは、角田裕毅とのセットアップの違いがより明確になった点だ。レッドブルは両マシンで異なる仕様をテストしていたが、角田はバランスを掴み切れず、無線でのやり取りも混乱する場面が目立った。まだチームに移籍して間もない角田にとって、開幕戦のこの金曜は「学びの時間」になったと言えるだろう。

メルセデスとフェラーリ:復活への確かな一歩
中団から抜け出し、再び頂点に迫ろうとしているのがメルセデスだ。昨年まで続いたセットアップの迷走は過去のものとなり、金曜のパフォーマンスはポジティブな材料が多い。

特筆すべきはストレートスピードの向上で、トップスピードにおいては全チーム中で最速を記録。これは、今季の空力パッケージの効率性が向上している証左であり、低ドラッグ仕様と新しいディフューザーの相乗効果が機能していると見られる。

ルイス・ハミルトンは理想ラップでは0.68秒の改善余地があり、データ上ではトップ4に割って入る可能性もあった。ジョージ・ラッセルもコンスタントなロングランペースを見せており、マクラーレンには届かずとも、レッドブルやフェラーリとの争いにおいては好位置につけている。

フェラーリもまた、前進を見せたチームのひとつだ。金曜には新型フロアを導入し、シャルル・ルクレールは4番手のタイムを記録。空力パッケージの改善により、これまで苦手としていた中高速域の安定性が向上し、より攻めたセットアップが可能になっている。

ただし、マクラーレンやメルセデスに比べると、まだわずかながらも差が残っている。週末を通じてセッティングの詰めと、タイヤマネジメントの強化が鍵を握る。

ミッドフィールド:若手の台頭とQ3争いの行方
今季の中団勢も非常にタイトなパフォーマンス差の中にあり、わずか0.1〜0.2秒がQ2突破とQ3進出を分ける状況だ。

特に注目されるのは、ルーキーのイサック・ハジャー。FP2で6番手タイムを記録した彼は、シーズン序盤からその速さを証明し続けており、バーレーンでもQ3進出の有力候補となっている。

レーシングブルズのマシンは引き続き予選に強く、特に短いスティントでのタイヤウォームアップの速さが際立っている。一方で、決勝ペースではウィリアムズがやや上回っており、日曜に向けたロングランデータではほぼ互角。アレックス・アルボンとカルロス・サインツの両者がポイント争いに絡んでくることも十分に考えられる。

特にサインツは、金曜日に手堅い滑り出しを見せており、Q3進出に加え、上位フィニッシュへの意欲も隠していない。

この金曜日は、単なる“データ取り”ではない。むしろ、この1日だけで勢力図の一部が再構築されるほど、内容は濃密だった。
その中で際立っていたのは、紛れもなくマクラーレンの完成度と自信だ。過度なアピールを避ける一方で、パフォーマンスがすべてを物語っている。

このままマクラーレンが開幕戦を制するのか?
あるいは、チャンピオンたちが土壇場で逆襲するのか?

答えは、サヒールのナイトレースで明かされる。