2025年F1バーレーンGPの予選は、マクラーレンの支配力とともに、ミッドフィールドの台頭、そして王者レッドブルの低迷という、三層構造のドラマを描いた。オスカー・ピアストリの圧巻ポール、ランド・ノリスの不運、そしてラッセルの一発。加えて、アルピーヌの大躍進と、依然迷路を彷徨うレッドブル。ドライバーと首脳陣の言葉から、現場のリアルを深く掘り下げる。

マクラーレン:ピアストリが完璧な流れを演出、ノリスは痛恨のミス
バーレーンの夕日が落ちたあと、予選最大の主役は間違いなくオスカー・ピアストリだった。FP3でのマクラーレンの支配力から、ポール争いは2台の一騎打ちになるかと思われたが、実際にはピアストリの独壇場だった。
ピアストリは「週末を通してずっと感触が良かったし、ペースもある。マシンのフィーリングが素晴らしくて、それが一番大事なこと」と語った。特筆すべきは、Q3最初のアタックで中古タイヤを選んだ判断だ。2セットの新品を温存しつつもリズムを崩さず、「マシンを完璧に操れていた」と自信をにじませた。
一方、ノリスは「がっかりな一日だった。マシンは最高だったし、チームの努力には本当に感謝してる。でも、肝心なところでラップをまとめるのに苦しんでしまった」とコメント。Q3最後のアタックではターン1でロックアップし、以降のセクターでタイムを取り戻すことはできなかった。
アンドレア・ステラ代表は、「(バーレーンGPでの)ポールはチームにとって初めての快挙。オスカーは冷静に状況を読み、最大限に引き出した。ランドも素晴らしい走りをしていたが、最終局面でのミスが響いた」と述べた。高いデグラデーションと風向きの変化が予選の鍵だったと補足し、「このサーキットではそれが数グリッド分の差を生む」と語った。

メルセデス:セットアップの見直しが実を結ぶ、ラッセルが光る
メルセデス陣営にとって、予選はポジティブなサプライズだった。ジョージ・ラッセルがマクラーレンに肉薄するタイムで2番手(のちのペナルティで3番グリッド)を獲得。アントネッリもキャリア最高の予選結果となる4番手(スタートは5番手)を記録した。
ラッセルは、「Q3は本当に良かった。Q1とQ2は自信が持てなかったけど、最後のラップですべてが噛み合った。ポールにこれだけ近づけるとは思ってなかった」と語る。特にセクター2の中速コーナーでの安定感が目立ち、ダウンフォースとブレーキバランスの改善が効いた。
キミ・アントネッリは、「Q3の1回目でミスしてしまい、2回目はかなりプレッシャーがかかった。だけど落ち着いてまとめられたのが良かった。週末を通して一貫して進歩を感じている」とコメント。まだ19歳ながら、堂々たるパフォーマンスを披露した。
トト・ヴォルフは「フリー走行でマクラーレンに大きく離されていたことを思えば、この結果は大健闘だ。ラッセルは冷静にラップを構築したし、アントネッリは若さを感じさせない成熟した走りだった」と称賛した。アンドリュー・ショヴリンも「FP3は気温と風の影響で難しかった。だがセットアップを昨日の方向に戻し、夜にはクルマが見違えるほど安定した」と裏側を語った。

アルピーヌ:ガスリーが輝き、ドゥーハンは惜敗の中にも手応え
アルピーヌにとっては、今季最も明るい週末になった。ピエール・ガスリーが5番手を獲得し、トップ3と僅差のタイムで予選の“ベスト・オブ・ザ・レスト”の位置を固めた。
「素晴らしい予選だった。セッションが進むにつれてタイヤの扱い方が良くなって、Q3の最終ラップでは“これは来た”と感じた」とガスリーは手応えを語った。低速コーナーでのトラクション性能と、冷却された空気の中でのパワーユニットの応答性が噛み合った形だ。
ドゥーハンは、「タイヤのウォームアップを少し急ぎすぎた」と反省しつつ、「Q3に手が届く位置だったことは大きな自信になる」と前向きなコメントを残した。
レースディレクターのグリーンウッドは、「昨年のバーレーンでは最後尾だった。それを思えば、今回の進歩は劇的だ。ピエールのラップは本当に見事だった。ジャックも同等の速さを見せていた」と振り返る。アルピーヌが2025年において中団トップの座を狙えるだけの武器を持ち始めていることが確かとなった。

レッドブル:迷走は続く、窮地を救ったのは経験値と粘り
かつての「予選最速」は見る影もなく、フェルスタッペンは7番手、角田裕毅は10番手と、レッドブルにとっては厳しい土曜となった。
フェルスタッペンは「この週末はずっと厳しかった。クルマのバランスが悪くて、どんなセットアップでもしっくり来なかった。特にブレーキングで安定せず、自信を持ってアタックできなかった」と語った。Q1では赤旗の影響もあり、集中力の維持が困難だったとも言う。
角田は「最低限の結果は出せたが、満足はできない。Q3に進めたのは良かったけど、ラップを通して安定感がなかった。まだこのマシンの扱いには時間がかかりそうだ」と語る。「このマシンはパフォーマンスを出すウィンドウがとても狭くて、それを逃すと一気に乗りにくくなる」とも指摘し、非常に神経質なマシン特性が明らかになった。
ホーナー代表は、「ポジティブに見れば、2台ともQ3に進出できたことは評価できる。だが、マックスのようなドライバーが予選で苦しんでいることは、チームにとって大きな警鐘だ」と語る。RB21は、ピークの性能は高いが、その領域に到達するための操作範囲が極めて限定的であるという致命的な問題を抱えている。
このグリッド順は“偶然”か、それとも“必然”か
マクラーレンのポールは驚きではない。ただし、ランド・ノリスが6番手に沈んだことで、明日の作戦面での不安を露呈した。一方、メルセデスは夏の改良に向けた方向性に希望を見出し、アルピーヌは新体制で一気に中団の主役へと返り咲いた。
レッドブルは、フェルスタッペンという異次元のドライバーがいてもなお、セットアップの難しすぎるマシンに苦しむ。かつて「どこからでも勝てたマシン」は、いまや「狭い条件下でのみ機能するマシン」に変わってしまっているのかもしれない。
明日の決勝では、暑さと風、そしてタイヤの摩耗が大きなファクターとなる。ポールスタートのピアストリは“予選最速”の証を“勝利”に変えられるのか。あるいはラッセルやガスリーが、その均衡を崩すのか。バーレーンの夜は、まだ結末を見せていない。