序盤の三戦を終えて、本格的なシーズンに突入する、バーレーンGP決勝レースは、思いもよらぬ展開が続いた。オスカー・ピアストリは圧倒的なパフォーマンスを見せ、レースを支配したが、その陰でランド・ノリスはペナルティと戦略ミスに苦しむ展開となった。メルセデスは戦略面での歪みが見られ、トップチーム間での競争が一層熾烈になった。今回は、ピアストリの完璧な走り、ノリスの試練、そしてレース戦略の詳細を徹底的に分析していこう。

ピアストリの完璧なレース運び
オスカー・ピアストリは予選でポールポジションを手にした後、その期待に見事に応える走りを見せた。最大のライバルと見られていたチームメイトのノリスが予選で失敗し、6位スタートとなったことは、彼のレースを楽にした。
ラッセルはQ2の赤旗中にメルセデスがピットレーンから、ルールで決められているより早く出てしまったことで1つグリッドを下げたが、スタートでミディアムタイヤを履いたルクレールを交わすと、ターン1でピアストリに並びかけた。しかしピアストリは冷静にイン側のラインを守りきり、リードを守った。さらに、ピアストリはノリスやラッセルのスタート後のバトルを尻目に、安定したペースでトップに立ち続けた。
ピアストリのレース戦略は、2位以下をDRS圏外に抑えてリードを広げることだった。彼は第一スティントでソフトタイヤを履き、素晴らしいペースを維持した後、14周目にミディアムタイヤに交換。ソフトタイヤでは1分38秒台中盤という安定したラップタイムを刻み、その後のタイヤ交換でもペースを大きく崩すことはなかった。特にピットストップ後も再びトップに立ち、2位以下を圧倒する状況を作り出した。
マクラーレンの2台はミディアムタイヤを2セット持っており、ハードタイヤがこのレースに合わなかったこともあり、ソフト-ミディアム-ミディアムという最適なタイヤ選択が可能だったことも、彼らのレースを助けた。
ピアストリは周回を重ねるごとにギャップを広げ、ライバルがどんな手を打ってもその差を保ち続けた。彼が最も注力したのは、タイヤのデグラデーションを最小限に抑えることであり、レース終盤まで安定したパフォーマンスを披露した。2位のラッセルがトラブルに見舞われたこともあり、最終的には余裕を持ってチェッカーフラッグを受けることとなった。

ランド・ノリスの試練とペナルティの影響
一方で、ランド・ノリスは決して楽なレース展開ではなかった。予選では6位に沈み、意気消沈していたが、決勝では好スタートを切り、ターン4でシャルル・ルクレールを外側から抜き去り、3位に浮上。しかし、スタート前にグリッドから動き、グリッドボックスから前にはみ出してしまった。この小さなミスが後々、5秒ペナルティという大きな代償を受ける結果となった。
ラッセルに押さえ込まれていたノリスは、10周目にピットインし、ラッセルに対してアンダーカットを狙う。ただし、5秒ペナルティがあったため、それはやや楽観的すぎた。その後、新品ミディアムで2周、1分37秒台中盤を刻み、ペナルティで失った差の一部は取り戻したが、それでも十分ではなかった。ラッセルは14周目にピットアウトした時点で、約3秒のリードを保っていた。
もし5秒ペナルティがなければ、ノリスはラッセルの前に出られていただろうか。恐らくペナルティがないと仮定すれば、ラッセルはアンダーカットを避けるために、ノリスの次の周にタイヤ交換しただろう。その場合でも、マクラーレンのペースがあればアンダーカットすることは実現可能な作戦だった。
しかし、これによりノリスがタイヤ交換のタイミングでラッセルをアンダーカットすることはできなくなった。ツーストップレースの2回目のタイヤ交換は、SC(セーフティカー)が登場し、そのタイミングで大半のドライバーが2回目のタイヤ交換をしたからだ。
しかし、ノリスにとっても良いことがあった。これでピアストリとの差がなくなり、ラッセルを早々に抜けば、ピアストリへの挑戦が可能になった。
しかし、ノリスは他車とのバトルに苦しみ、最終的にはピアストリに迫るどころか、ラッセルに及ばなかった。鈴鹿に比べて抜けると思われたバーレーンで、ノリスが他車を抜くことは難しかった。それでも、最終的には3位でフィニッシュし、チャンピオンシップのリードを2ポイント広げることに成功したが、今回は小さなミスが大きな代償を払うレースとなった。

メルセデス 謎のトラブルも2位をキープ
メルセデスは問題を抱えながらレースを戦った。ラッセルは二度目のタイヤ交換で賭けに出たものの、ソフトタイヤで長時間走ることはリスクが大きかった。特に、バーレーンのように路面が荒れたサーキットでソフトタイヤを24周走らせるのは無謀と思われたが、リスタート時にそのグリップの良さを見せ、ピアストリに迫る場面もあった。
しかし、これは最終的に実りの少ないチャレンジとなった。なぜなら、ラッセルのマシンに謎の電子系トラブルが襲いかかったのだ。それは、あるボタンを押すと全く別の動作をしてしまうようなものであった。
「終盤は本当に難しかった」とラッセルは語った。「マシンにあらゆる問題が起きていた。ステアリングホイールのデータが全て消えて、ブレーキペダルもフェイルモードに入ってしまった。何度もリセットを試みるしかなかった。ある瞬間にはブレーキが正常に作動して、次の瞬間には効かなくなる、そんな感じだった。」
ある時、ラッセルがステアリングのラジオボタンを押すと、なぜかDRSが開いてしまった。彼はすぐにそれを閉じ、FIAを刺激しないようにわずかに減速したため、ペナルティは受けなかった。
このトラブルが起きる前、ラッセルはピアストリに約2秒差まで迫っていた。これはソフトタイヤの性能による部分も大きかっただろう。しかし、デグラデーションと電装系トラブルの二重苦に襲われ、ギャップは広がっていった。チェッカーを受けた時には、その差は15.5秒にまで開いていた。

重要な疑問点:ノリスのペナルティがなければ?
レース中、最も気になるポイントは、もしランド・ノリスが5秒のペナルティを受けなかった場合、ピアストリと勝負できたのか、という点であった。最初のピットストップでノリスはラッセルとの差を約0.8秒とし、ペナルティを差し引いた場合には理論的にラッセルよりも2秒ほどリードしていたことになる。この場合、ノリスはラッセルを交わしてピアストリに迫るチャンスを得ていた可能性が高かった。
ただし、レース中にノリスが他車を抜くのに苦労していたことを考えると、ピアストリに追いついたとしても、ピアストリを抜くのは難しかっただろう。またピアストリはタイヤを労りながら走っていたと思われるので、ノリスがピアストリに挑戦できるほど接近するのは非常に難しいと考えられる。そのため、ノリスがどれだけ善戦しても、ピアストリがリードを維持する展開となったのは、戦略的に見ても予想通りの結果であった。

ピアストリの成長とノリスの再挑戦
ピアストリはレースの流れを完全に掌握し、余裕を持って勝利を手にした。昨年までの彼はレースごとの調子の波が大きかった。一方のノリスは、コンスタントに上位でフィニッシュできていて、それがチャンピオンシップポイントの差に繋がっていた。しかしながら、バーレーンでのピアストリの走りは、今後のシーズンにおける新たな時代の到来を予感させるものだった。ピアストリは成長し、コンスタントな走りを披露し、すでにトップドライバーとしての風格を備えており、タイヤマネジメントやレース戦略においても冷静であることを証明した。
一方、ノリスは今回のレースで多くの教訓を得たと言える。ペナルティやミスがなければ、彼はさらに強力な挑戦者となっただろう。次戦以降、彼がどのようにこの経験を活かして戦うのかが楽しみである。
今シーズンのバーレーンGPは、ピアストリの才能とマクラーレンの進化を強く印象付ける結果となった。ピアストリの成長は今後のF1における大きな話題となり、2025年シーズンの行方にさらなる期待がかかる。