2026年から導入予定の新エンジンレギュレーションに関する議論は、F1界において依然として熱を帯びている。バーレーンGP開催時には、2030年まで適用されるとされる現行のハイブリッドパワーユニット規定に対して、構成の見直しやエネルギーマネジメント戦略の変更が提案されたが、既存のハイブリッド構造から大きく逸脱する案については合意には至らなかった。

中でも注目されたのは、自然吸気エンジン(NA)の復活提案が正式に却下された点である。しかし一部の反対グループは、現行および次期ハイブリッドユニットにおけるエネルギー比率の厳格な制限が、技術革新やレースのダイナミクスを妨げると主張し、電動出力比の調整などを求めている。
現状のレギュレーションでは、内燃機関(ICE)と電動モーター(主にMGU-K)の出力比を55:45(ICE 400kW:電動 350kW)とする構成が基本となっている。これに対して、フェラーリとRBパワートレインズは、レース中に限りこの比率をICE優位(たとえばICE 500kW:電動 200kW)へと再配分する提案を提示している。これは、電動出力の過剰な使用が引き起こすエネルギー回収(ERS)バランスの不均衡や、バッテリーの熱管理課題に対応する意図がある。
レース中の電動出力制限とその影響
F1コミッションでは、次回の会合(4月24日)において、特にレースディスタンス全体を通じたエネルギーフロー制御の観点から、この出力比の再構成案が協議される予定だ。具体的には、MGU-Kからの最大出力を350kWから200kWに引き下げる方向が検討されており、これによりバッテリーパックの充電/放電サイクルがより持続可能となる。内燃エンジン側の出力増加により、総合的なパフォーマンスは維持される見通しだ。
技術的には、ERS構成要素(MGU-K, エネルギーストア(ES), コントロールエレクトロニクス(CE))の耐久性と熱制御がカギとなっており、高温環境下での出力制御と電力供給安定性の両立が各メーカーにとって喫緊の課題である。
一方で、こうした変更案には批判の声もある。変更を望む勢力は、レースのエンターテインメント性やドライバビリティの改善を理由に挙げているが、それ以外のメーカーからは「開発の遅れているメーカーの都合に合わせたレギュレーション変更」ではないかとの疑念も出ている。ただし、現時点で具体的な技術開発状況が公開されていないため、実態は2026年の実戦投入まで明らかにならないだろう。

ホモロゲーション制度の再検討
さらに、F1コミッションでは、パワーユニットのホモロゲーション(型式認証)制度に関しても、一部の緩和案が浮上している。現行制度では、シーズン前の特定期間にパワーユニット仕様を固定し、その後の変更が大幅に制限されるため、新規参入メーカーや開発に遅れが生じているチームにとっては不利な構造となっている。
今回議論されているのは、認証後の限定的なアップデートウィンドウの拡張であり、たとえば冷却系統やERSモジュールに関して、年内1回限りの仕様更新を許容する案などが俎上に載せられている。これにより、性能格差の極端な拡大を抑制し、技術競争の健全性を維持する狙いがある。
メルセデスのトト・ウルフ代表は、こうした動きに対し慎重な姿勢を崩していない。「本当はこの話題には触れたくなかったし、自分たちの立場を守るつもりだった。でも、これは本当に冗談のようだ。つい一週間前にエンジンについてのミーティングをしたばかりなのに、もうこの件がまた議題に上がっているなんて」。
アウディやホンダも、当初の合意内容に忠実であるべきだとの立場を共有しているものの、公に他陣営を非難することは控えており、今後の交渉の行方が注目される。