モンツァの森を赤く染めるティフォシの熱狂――。
その轟音と熱気に包まれたイタリアGPの金曜フリー走行は、F1というスポーツが持つ象徴性を改めて印象づけた。モンツァは75年の歴史が醸し出すと雰囲気と伝統を力に変え、今も選手権の核心に居続ける稀有な存在である。

モンツァが持つ特異性
「スピードの殿堂」と称されるこのサーキットは、単なるストレートとシケインの連続ではない。レズモ、アスカリ、そしてパラボリカ。どのコーナーも全開の覚悟とマシンの安定性を試す場所だ。
ドラッグを削ればストレートでは伸びるが、コーナーでの旋回性を失う。逆にダウンフォースを厚くすれば、直線で速度が頭打ちになる。この二律背反を解消するため、各チームはここ専用の空力パッケージを持ち込む。シーズン唯一の“特注”が求められる舞台だ。

マクラーレン:速さの裏に漂う慎重さ
FP2でランド・ノリスが1分19秒878を記録しトップに立った。FP1でハミルトンが刻んだタイムを0.25秒上回り、現時点で週末最速だ。マクラーレンは専用設計のリアウイングを比較テスト。従来型の直線仕様と、スプーン形状のメインプレーンを持つバージョンを走らせ、データを積み上げた。
ノリスは「フェラーリが少し近すぎる」と口にしたが、それは強さの裏返しでもある。GPSデータによれば、彼のストレートスピードはルクレールより劣っていたが、それはエンジン出力を抑えていた可能性が高い。ノリスのPU使用数は限界に近く、残りを慎重に管理する必要がある。つまり「まだ余力を残している」ことは明らかだ。
ピアストリはFP1を若手アレックス・ダンに譲った影響でリズムを掴むのに時間を要した。FP2のロングランではややノリスに劣ったが、過去のレースでもFP3以降に巻き返してきた経緯を考えれば、依然として週末全体の脅威である。

フェラーリ:攻める姿勢と観客の期待
ティフォシの前でフェラーリは確かな存在感を示した。
ルクレールはFP2でノリスに0.083秒差と肉薄。昨年のモンツァ仕様を改良したリアウイングを持ち込み、ダウンフォースと直線スピードのバランスを調整した。FP2終盤にはアスカリで派手にグラベルに飛び込むシーンもあったが、それは「限界を試す姿勢」の表れだ。観客席を埋め尽くすティフォシは、むしろその攻める姿を歓迎したに違いない。
新加入のハミルトンもハードタイヤで堅実なロングランを披露。長いキャリアの中で幾度もモンツァを経験してきた彼は、コース特性を把握しつつ「まだ改善の余地がある」と冷静に振り返った。フェラーリは予選での1周ペースこそ課題だが、レースではトップ争いに絡む可能性を十分に秘めている。

レッドブル:苦戦と復調の兆し
フェルスタッペンは「ジャンピー」で「ナーバス」とRB21を評し、バンピーな路面に苦しんだ。だが、それでも1分20秒077で6番手につけ、致命的な遅れではない。
ヘルムート・マルコは「あと0.2秒は取り返せる」と珍しく楽観的な表情を見せ、「昨年とは異なる哲学が機能している」と強調した。
ロングランではマクラーレンとの差は0.2秒に縮まり、日曜の決勝を見据えれば十分に射程圏内だ。フェルスタッペン自身も「かなり良い金曜だった」と述べ、タイヤデグラデーションの低さに満足していた。普段は辛辣な言葉を選ぶ彼がそう評するなら、チーム内の手応えは確かだろう。

ウィリアムズ:直線番長の逆襲
FW47は、ストレートスピードで突出した性能を発揮した。FP2のミディアムロングランではサインツが1分23秒987で3番手に入り、レッドブルとマクラーレンに肉薄。
ここ数年、グローブのチームは「直線速いがコーナーで失う」という図式を脱却するために開発を進めてきた。その結果、今年はトラクションと安定性を改善しつつ、従来の強みも失わなかった。練習走行でエンジンモードを上げる傾向はあるが、それを差し引いても存在感は十分だ。

ロングラン分析:0.2秒差の拮抗
マルコの珍しく楽観的なコメントは、日曜の勝利を狙えるという主張にまで及んだ。「去年と比べて信じられない進歩だ。ロングランでは競争力があったと思うし、今のところ非常に満足している。我々は今、昨年とは異なる哲学でやっていて、それがうまく機能している」とFP2後に語った。
フェルスタッペンもマルコに同調し、「かなり良い金曜だった」と述べた。普段、大げさな言葉を使わない彼がそう言うなら、レッドブルの上層部は本当に満足しているようだ。
「これまで見た限り、タイヤのデグラデーションはとても良好だった。ソフトタイヤでのトラクションだけが少し足りないけど、それはウイングのポジションを変えずとも改善できると思う。もしマクラーレンが明日何か新しいものを出してこなければ、他のチームと優勝争いできると期待している。」
■ FP2・ミディアムタイヤでの平均ロングランタイム
| 順位 | チーム(ドライバー) | 平均タイム | 周回数 |
|---|---|---|---|
| 1 | マクラーレン(ノリス) | 1分23秒697 | 12周 |
| 2 | レッドブル(フェルスタッペン) | 1分23秒922 | 11周 |
| 3 | ウィリアムズ(サインツ) | 1分23秒987 | 9周 |
| 4 | ザウバー(ボルトレート) | 1分24秒058 | 7周 |
| 5 | レーシング・ブルズ(ハジャー) | 1分24秒479 | 9周 |
| 6 | アルピーヌ(ガスリー) | 1分24秒654 | 14周 |
| 7 | アストンマーティン(アロンソ) | 1分24秒723 | 7周 |
ミディアムタイヤでのロングランではマクラーレンがレッドブルに対してまだわずかにリードしているが、それは絶対的な差ではない。ノリスはマシンに馴染んでからは安定してレースペースを出しており、フェルスタッペンも長いスティントではナーバスな挙動が和らぎ、むしろグラベルがコース上に散らばることに悩まされていた。
一方、ピアストリのロングランはチームメイトに比べてやや劣っていた。彼はFP1をアレックス・ダンに譲っていたため、リズムを掴むのに時間がかかったようだ。だがFP3では改善されるはず。前戦ザントフォールトでも、FP1ではノリスが速かったが、重要なセッションではピアストリが巻き返していた。
■ FP2・ハードタイヤでの平均ロングランタイム
| 1 | メルセデス(ラッセル) | 1分24秒015 | 10周 |
| 2 | フェラーリ(ハミルトン) | 1分24秒167 | 10周 |
| 3 | ザウバー(ヒュルケンベルグ) | 1分24秒272 | 9周 |
| 4 | ハース(オコン) | 1分24秒325 | 9周 |
一方、ハードタイヤの比較ではメルセデス(ラッセル)が1分24秒015で最速。フェラーリ(ハミルトン)が続き、両者はロングランでは一定の手応えを掴んでいる。ただし総合的には、ウィリアムズやザウバーとも大差なく、決して安泰ではない。
この数字を見ると、メルセデスとフェラーリはノリスとフェルスタッペンの間に位置することになる。ただし、両者の走りはやや不安定で、タイムをいじらずに比較しても、ウィリアムズと同じグループに入ってくる。エンジン出力の調整を踏まえれば、最終的には彼らが上回ると見るのが妥当だ。
とはいえ、ウィリアムズは少なくとも予選で好結果を狙うべきだ。イサック・ハジャーはザントフォールトでトップ4チーム以外のマシンでも土曜に割って入り、日曜には結果に結びつけた。直線スピードは強力な武器であり、ウィリアムズはそれを使いこなす準備を整えなければならない。

メルセデス:不安定さと懸念
ラッセルは「正直、いい感触はなかった」と振り返り、レスモ2でのコースオフも重ねた。クルマを安定してコントロールできず、「明日状況が改善することを願う」と慎重なコメントを残した。
モンツァは高温かつソフト寄りのタイヤ配分で、ブレーキに厳しい。こうした条件はメルセデスにとって不利に働く可能性が高い。トップ4の中で脱落候補を挙げるなら、シルバーアローの名が真っ先に出てくるだろう。
三つ巴に割って入る“青い挑戦者”
金曜走行を終えて見えてきたのは、マクラーレンとフェラーリの接近戦、レッドブルの復調、そしてウィリアムズの台頭だ。
マクラーレンが優位を保ってはいるが、その差は0.2秒前後。決して盤石ではない。フェラーリは攻める姿勢で観客の期待を煽り、レッドブルは手応えを掴み、ウィリアムズは直線番長として牙を研ぐ。
「モンツァはストレートとシケインだけ」という先入観を裏切るように、各チームの哲学とセットアップが明暗を分けている。明日の予選では、その哲学の完成度が順位表に赤裸々に刻まれることになるだろう。
ティフォシの熱狂に包まれたモンツァ。赤い森で繰り広げられる予選は、まさに混戦必至である。

