オスカー・ピアストリがザントフォールトで勝利を飾った今回のオランダGPは、単なる1勝にとどまらない。ランド・ノリスとの激しいチーム内対決、フェルスタッペンの挑戦、そして変わりやすい天候とセーフティカーが交錯する中で、彼は「まとめる力」でライバルを上回った。2025年シーズンのタイトル争いを占う上で、非常に示唆的な一戦だったと言える。

Q3の逆転劇と「流れ」の転換
ピアストリがザントフォールトでの計時セッションで最速だったのは2回だけだった――Q1、そして最も重要なQ3だ。フリー走行から予選Q2まで、優位に立っていたのは明らかにノリスだった。FP2ではわずか0.089秒差、他のセッションでも僅差だったが安定した速さを見せていた。ステラ代表も「ランドは週末の序盤、非常に完成度の高い仕事をしていた」と振り返る。
だが、Q3の一瞬がすべてを変えた。ピアストリがアイザック・ハジャーから短いトウの恩恵を得たことが決定的な要因となり、僅差でノリスを逆転。ポールポジションを掴んだ。ノリスは「あと少しで前に出られた」と悔しさを隠さなかったが、ザントフォールトのようなオーバーテイク困難なサーキットでは、この差がそのまま勝敗に直結する。
スタート直後の攻防:マックスの仕掛けを封じる
このレースは当初からワンストップが濃厚と見られていた。より柔らかいタイヤが用意され、ピットレーン速度制限も60km/hから標準の80km/hに引き上げられ、ピットロスが22秒から19秒に縮まったとはいえ、この狭くてツイスティなオールドスクールのサーキットではオーバーテイクが難しく、理論的にツーストップの方が速くても、実際にはトラックポジションが王様なのだ。
レッドブルはマクラーレンの優位を認め、予選でフェルスタッペンに新品ソフトを温存させる“決勝勝負”の構えを取った。マックス自身も「とにかくスタートで前に出なければ勝負にならなかった」と語る。
上位陣ではミディアムスタートが多かったが、フェルスタッペンはスタートタイヤにソフトを選択。勝利のためには、できることは全部試すというチャレンジ精神のあるレッドブルらしい作戦選択だった。普通は、ソフト選択することで、今の順位を失うことを恐れて、これだけ攻めた作戦をとるのは難しい。
スタート直後、ノリスの加速に一瞬乱れが生じ、フェルスタッペンがターン1外側から前に出かけた。ピアストリがインをブロックし、ノリスは前を塞がれて勢いを失うもイン側をキープし、ターン2で持ち直して前に戻る。マックスは外から強引に突っ込んだが、路面の砂に乗り(ザントフォールトは海に近いので砂が多い)グリップを失いバランスを崩すも、ノリスを抑えて2位を奪取し、ひとまず目的を達成した。
しかしソフトを履くフェルスタッペンは早々にタイヤが厳しくなり、マクラーレンの圧倒的速さの前に、9周目為す術なく抜かれてしまう。このあとはノリスがフェルスタッペンをあっという間に引き離し、勝負は(予想通り)マクラーレン二台の争いとなる。
ノリスはフェルスタッペンを抜くまでに、ピアストリに4秒以上のリードを築かれた。ノリスがフェルスタッペンを抜き去るまでのラップが、この日の勝敗を決めたといっても過言ではないはずだった。しかしセーフティーカーがそれをゼロにする。

セーフティカーと戦略の駆け引き
23周目、ルイス・ハミルトンが濡れた白線に乗ってクラッシュ。ここでセーフティカーが導入され、各車が一斉にピットへ向かった。マクラーレンは難しいダブルストップを成功させ、1-2体制を維持する。ステラ代表は「チームとして最もリスクの高い瞬間だった」と認めつつも、「メカニックは冷静にやり切った」と称賛した。
ここで注目すべきは、過去にマクラーレンが試した戦略分断をあえて行わなかったことだ。ステラは「今回はワンストップが濃厚で、どちらかを不利にする必要はなかった。勝負はサーキット上で決めさせたかった」と語る。つまり、両者に平等な条件で戦わせたのだ。これによりノリスはコース上でピアストリを抜くしかなくなった。
ノリスの追撃と「シンクロする」ラップタイム
セカンドスティント、ノリスは徐々にピアストリとの差を詰めていった。37周目には1分14秒389と、この日の自己ベストを更新。だが、その直後にピアストリが1分14秒185を記録し、差を帳消しにする。
その後、両者はまるで示し合わせたかのように、連続で1分14秒前半を刻み続けた。「チームオーダーでは?」との疑念も出たが、実際には両者が互いに限界で走り続けた結果の“シンクロ”だった。ノリスは「速さは感じていたが、オスカーは必要なところで必ず応えてきた」と振り返る。
ここで重要なのは、ピアストリがプレッシャーを受けても冷静さを崩さなかったことだ。これは若いドライバーにありがちな焦りとは無縁で、むしろベテランらしい落ち着きだった。

勝敗を分けた“運命のリタイア”
この時点でマクラーレンのペースは圧倒的で、1分12秒台で連続周回していた。だが突然、ノリスが「コックピットから煙の匂いがする」と訴え、オイル漏れによって残り8周で無念のリタイヤ。ノリスは「悔しいが、これがモータースポーツだ」と短くコメントしたが、その表情には明らかな落胆がにじんでいた。
再度セーフティカーが導入され、ピアストリは冷静に再スタートを制してフェルスタッペンを抑え切った。最終的にトップチェッカーを受けたとき、差はわずか1.271秒。しかしその内容は、タイム差以上に圧倒的だった。
フェラーリとメルセデスは、レース後マクラーレンのハードタイヤでのペースについて諦めとも取れるコメントをしている。フェラーリのフレデリック・バスールは「最後のスティントだけじゃない。第2スティントの中盤、彼らがプッシュし始めたときのギャップは絶望的だった。予選で先行してるのは明らかだが、決勝ではそれ以上。屈辱的とまでは言わないが…」と吐露。メルセデスのトト・ウルフも「ハードタイヤでのマクラーレンのペースは、他チームにとって侮辱的なレベルだった」と語った。
「オスカーらしさ」の本質
「オスカーの週末は、まさに彼らしいものだった」とマクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは語る。「フリー走行で学びを重ね、その成果を予選で形にする。そして雨が来れば、彼は常に落ち着いて状況をコントロールし、シャープに対応する」。
「しかもその間、彼は常に冷静で明晰だ。これは、F1ドライバーとしての成熟とレースクラフトの高さを証明する、まさに“オスカーらしい”週末だった」。
ピアストリの強みは「まとめる力」にある。ノリスの方が速く見える週末はこれまでも何度かあった。しかし、勝利という結果を確実に手にする力は、今のところピアストリが一枚上手だ。

この勝利の意味
このオランダGPは、ピアストリの「タイトル獲得に必要な要素」がすべて揃っていることを証明した。ピアストリは、速さで負けても、勝負所を逃さないし、セーフティカーや天候といった外乱要因に動じない。そしてプレッシャーの中でも冷静にタイヤを使い切る。
ノリスが逆転するには、残りの全戦で完璧なパフォーマンスを示し、かつピアストリがミスや不運に見舞われる必要がある。しかし今回のザントフォールトで示された完成度を見る限り、その可能性は極めて低い。
2025年シーズンのチャンピオン争いは、いよいよ「ピアストリが失うか否か」という段階に入ったようだ。


