トヨタ撤退の余波
▽トヨタF1撤退発表
噂になっていたトヨタの撤退が現実のものとなった。
夏頃に来年度の予算承認が11月になされると公表されてから、トヨタの将来に暗雲が漂っていた。
それでもライコネンやクビサの獲得を目指していたことを考えると、突然の発表には少なからず驚かされた。
もっとも撤退の兆候がなかったわけではない。
11月15日の取締役会で予算が承認されるという当初のスケジュールより前倒しで、11月8日に来年度以降の発表をすると言われだしたからだ。
来年度も参戦継続するのであれば、わざわざ前倒しで発表する意味がないので、これは悪い兆候であった。
そして実際はそれよりも前の、11月4日に撤退は発表された。
実は夏頃、トヨタ社内ではF1撤退派と継続派で、来年以降の方針を巡り揉めていた。
今年、社長交代があったことも、方針の決定に時間がかる一因となった。
どんな会社も一度始まった大きなプロジェクトを止めることは難しい。
新しい創業家出身の社長でなければ、この決断をすることは難しかっただろう。
▽F1撤退の裏側
トヨタの撤退自体は、それほど驚くべき事ではない。
彼らは3000億円以上と言われる巨額の損失を出しており500億円以上とされる、F1活動を正当化することができなくなった。
トヨタの社内では、1円単位でのコスト削減がなされており、その中での数百億レベルの支出は理解を得られない。
トヨタはこの10年間、世界中に工場を建設し、販売台数を増やそうとしていた。
その矢先に、世界的経済混乱に巻き込まれた。
一般的に自動車会社は、大企業で安全と思われているようだが、実はかなりのギャンブル的要素を持つ会社である。
工場を建設して、維持運用していくのに巨額の資金が必要となる。
さらに車を開発するには、数百億円という巨額の投資と3年という期間が必要である。
この時の流れが早いご時世に、3年後に売れる車を開発するという仕事はかなり困難である。
数百億かけて開発した車が売れるかどうかは、販売を開始してみないとわからない。
恐ろしいほどのギャンブルである。
目論見通りに売れれば、販売単価も大きい自動車は儲かる。
1台100万円以上する単価は、一般消費者向け耐久消費財としては、桁違いに高い単価である。
だから先ほど述べた工場の費用や開発費用を回収できれば、もの凄い利益が上げられる。
だが売れなければ、それらの固定費が自動車会社の経営を圧迫する。
だから、ある時は1兆円以上の利益を上げられて、ある時は数千億円の損出を計上することになる。
そして、トヨタは今、後者の状況に苦しんでいる。
今後の状況がまだ、見通せればまだトヨタもF1活動を継続する道もあっただろう。
だが、先が見通せない状況でのF1撤退は、真っ当な経営者であれば当然の判断である。
しかし、これほどの巨額の費用をかけなくてもF1活動はできた。
一説によると650億円を上回ると言われる、トヨタの活動資金だが、ルノーなどはその半分で戦っている。
ホンダもそうなのだが、巨額の費用をかけて、それが払えなくなると即撤退というのは、あまりももったいない。
最初からもっと少ない費用で、参戦を継続するという手法も考えられたのではないだろうか。
ルノーは二度チャンピオンを取り、ブラウンGPもまた今年チャンピオンになった。
お金があれば勝てるというものではない。
お金があるから参加して、お金がなくなれば止めるというのは、少し寂しい。
現地のオペレーションを任されている人間からすれば、資金は多ければ多いほどいい。
だから彼らは、日本側からできるだけ多くの資金を得ようとする。
だがその豊富な資金を有効に使われているかどうか、日本側はきちんと検証していたのだろうか。
▽撤退により失われたもの
この撤退で失ったものも大きい。
これでF1から日本のチームが消えた。
そして、恐らく日本人ドライバーも消えるだろう。
これでF1からしばらく日本が消える。
日本がいなくても、F1は続けられる。
日本はF1の中心からまた遠ざかってしまった。
継続して参戦することが、日本の存在をF1の中心に近づけることであり、そうすればこそルールの策定などに一定の影響力を行使できる。
ホンダがターボエンジンでF1を席巻していたとき、レギュレーションを改定されてターボを禁止された。
ホンダつぶしなどと言われたが、これはこのスポーツを始めて、育ててきたヨーロッパの人からすれば当然の行為である。
一つのチームが勝ち続ける状況が、そのスポーツにとっていいはずがない。
自分の有利になるように、レギュレーションを変えてしまう。
自分の都合のいいように、レギュレーションを解釈する。
これらは、このスポーツの一部である。
日本がF1に参戦したり、撤退したりする限り、日本はF1の中心に近づくことはできない。
あくまでお客さんとして参加するだけである。
ホンダ、トヨタの撤退で、また日本がF1の中心から離れていく。
それが非常に残念である。
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