再びメルセデスのチーム名同士の接触があった。だがそこに至るまでには多くのドラマがあった。
まずポールポジションからスタートしたハミルトンは今年初めてターン1をトップで抜けることに成功した。
ロズベルグの方は、フリー走行でクラッシュしギアボックスを交換。5グリッド降格の7位からスタートした。
ここまでの展開見るとハミルトンの楽勝パターンかと思いきや、ここからレースが動く。
まずウルトラソフトでスタートしたロズベルグはレース前の予想通り10周で最終タイヤ交換をした。通常ならすぐにハミルトンもタイヤ交換するのであるが、ハミルトンは走り続ける。
実はメルセデスはこのレースで最大の脅威になると考えていたフェラーリがワンストップ作戦でくると予想していたので、彼らもフェラーリに合わせて、ワンストップ作戦を採用していた。
だがロズベルグのタイヤは予想よりも早くタイムが落ちてきて11周にタイヤ交換せざるをえなかった。だが何が幸いするかわからないものである。これがロズベルグに幸運をもたらした。
ハミルトンはタイヤ交換を21周まで引っ張ったがタイムは伸びずにタイムを大きくロス。ハミルトンはタイヤ交換後にロズベルグの後ろを走ることになった。
これはスタートを決め、タイヤをもたせながら走ったハミルトンにはまったく予想外の展開である。
ハミルトンのレースペース自体はよかったので、すぐにロズベルグに追いついたが、同じマシン、同じパワーユニットのテームメイトを抜くのは難しい。
ハミルトンの方がタイヤは11周若いので有利な状況ではあったが、抜くことはできない。
そして最後のピットストップのタイミングが54周目にやってくる。先にタイヤ交換するハミルトンはソフトからソフトへ。次の周にタイヤ交換したロズベルグはスーパーソフトへ交換した。
本来アンダーカットしたかったハミルトンはアウトラップのタイムがロズベルグより1秒以上遅くアンダーカットができなかった。
この時ハミルトンはなぜロズベルグは自分より柔らかいタイヤを履いているのかをピットに質問している。
だがこの2人は持ちタイヤの状況が違っていた。ロズベルグはレーススタート前、1セットの新品のソフトしか持っていなくて、それは第二スティントで使っていたので、もうソフトタイヤが残っていなかった。
ハミルトンはレーススタート前に新品と中古のソフトを1セットづつ持っていたので第三スティントでも中古のソフトを装着することができた。
メルセデスは第三スティントもソフトの選択がベストと考えていたが、ロズベルグにはそのソフトタイヤがなかったのである。
だがこれもロズベルグには不利に働かなかった。タイヤの持ちも悪くはなく、最後までペースが落ちることはなかった。
全ての歯車がロズベルグに有利に動いていた最終ラップにドラマが待っていた。
レース終盤、ロズベルグはブレーキの具合が悪く苦労していた。これはこのサーキットでは珍しくない状況である。長い直線と低速コーナーを組み合わせたレイアウトなのでブレーキには厳しい。
レース終盤にリタイアしたペレスもブレーキトラブルがその原因である。
そしてついに我慢しきれなかったロズベルグは最終ラップのターン1で減速しきれず、立ち上がりで大きく膨らみ加速が鈍ってしまった。
このチャンスを逃すハミルトンではない。ハミルトンがすごい勢いでロズベルグに迫る。明らかにスピード差のある状態で2台はターン2へ突入していく。
抜かれたくないロズベルグがインを抑える。だがスピードのあるハミルトンはアウトから抜きにかかる。
ロズベルグはギリギリまでブレーキングを我慢したが、イン側につきすぎたのと、ブレーキの効きがあまいので、十分減速できずにターンインできない。
ターンインするハミルトンと曲がれないロズベルグは必然的に接触。ハミルトンはクラッシュを避けるためにアウト側からコース外に出て、コースに復帰。フロントウイングを失ったロズベルグにはもはや対抗すべき手段は残されていなかった。
ロズベルグは完全にスピードを失い、フェルスタッペンとライコネンにも抜かれて4位。ハミルトンとのポイント差は再び11ポイント差まで縮まった。
この接触はレース後審議されて、ロズベルグに10秒加算のペナルティが加えられたが、レースの順位に変動はなかった。
アウト側から曲がろうとしているハミルトンに曲がれないロズベルグが接触していて、ハミルトンはさらなる接触を避けようとアウト側からコース外に出ているし、コースに戻ろうとするときも接触を避けているので、この判断は妥当であろう。
ただロズベルグは自身のミスで順位を失っているので、レーシングアクシデントでペナルティなしでもよかったとも思う。
実はオーストリアGPは今シーズンメルセデスの2人が順位を争った初めてのレースである。これまでハミルトンやロズベルグのどちらがトラブルに見舞われて直接対決することはなかった。
そしてそのレースで逆転負けしたロズベルグの精神的なダメージは大きい。もともと精神的な部分の弱さを指摘されていたロズベルグは早い時期にハミルトンを今回のような直接対決で負かさない限り、チャンピオンへの道は遠いとか言わざるをえない。