今年のオーストリアGPはタイヤ戦略的にはとても興味深いレースとなった。
金曜日、土曜日と高かった気温が日曜日には急激に下がり、それまでのデータが役に立たなくなったのである。
土曜日のフリー走行や予選の雨前は路面温度50度を超える場面もあったが、日曜日は一転25度程度までに下がった。
これは作戦を担当する人間からすると暗闇の中を歩いている状況である。
そのためタイヤの寿命を正確に予想するのがかなり難しかった。予想よりタイヤウェアが伸びることはわかるのだが、どこまでいけるかは走りながら判断するしかない状況で各車はスタートした。
ウルトラソフトはタイヤのデグラが激しく本来10周前後で交換するのが一番速いと予想されていたが、これは気温が下がったのに関わらず変わらなかった。
ワンストップを予定していたロズベルグはグリップ低下に耐え切れず10周にタイヤ交換して、早々とツーストップに変更した。
ハミルトンはワンストップをするべく、周回距離を伸ばしていったが、タイムが低下してロズベルグに抜かれることが判明。
メルセデスはハミルトンにロズベルグ2人の条件をイコールにするために、ハミルトンもツーストップに変更した。
これが最終ラップの接触へとつながっていく。もしハミルトンがワンストップで、ロズベルグがツーストップだったら、レース終盤にタイヤが厳しいハミルトンをロズベルグがアタックする展開になっていただろう。
メルセデスがワンストップを計画したのは、フェラーリがワンストップでくると予想していたからである。
彼らはスターティング グリッド2位のヒュルケンベルグや3位のバトンについてはまったく相手にしていなかった。
そして実際にフェラーリのベッテルはワンストップ作戦だった。
フェラーリは予選Q2をスーパーソフトで通過。レッドブルを除くライバルがウルトラソフトでスタートするなか、よりタイヤ作戦の柔軟性を手に入れることができた。
だがフェラーリには誤算があった。ワンストップで走っていたベッテルのタイヤがバーストし、リタイアしてしまった。
この26周目のアクシデントによりメルセデスは最大の脅威がなくなり、自分達の勝負-チームメイトバトル-に集中することができることになった。
そしてハミルトンもロズベルグと同じ条件のツーストップに変更した。だが最後のスティントで選択したタイヤは違っていた。
ロズベルグはすでにソフトタイヤの在庫がなくてスーパーソフトに交換。ハミルトンは中古のソフトが残っていたのでソフトに交換した。だが新品のスーパーソフトをはくロズベルグの方が早くタイヤが温まり、ハミルトンは不利な状況に追いやられた。
これに不満を持ったハミルトンは無線で不満を言っていたが、ピットでは最終スティントではソフトタイヤがベストチョイスだと考えていた。
ロズベルグがたまたまソフトタイヤを持っていなかっただけである。
実際、ロズベルグは徐々にハミルトンに追い上げられてくる。ロズベルグにはブレーキのトラブルもあり、最終ラップのターン1で飛びだしたロズベルグは失速。ロズベルグはブレーキバイワイヤーのトラブルで、MGU-Kの回生量とリアブレーキのバランスが上手くとれなかったようである。こうなるとドライバーはリアブレーキに違和感を持ち、思い切ったブレーキングができない。
そしてこの二人は、ターン2で接触するのである。
こうして多くのドラマがあったオーストリアGPはハミルトンの優勝で幕を下ろした。
今回もそうであるが、メルセデスの作戦の柔軟性には、いつも感心させられる。
ワンストップ作戦でスタートしながら、タイヤの状況、ライバルの状況、気温、天候、多くの条件を考えて判断をくだす。
これは本当に簡単なことではない。5秒、10秒で状況がガラッと変わることはよくある。それをほんの数分で作戦を組み立て直し、指示するのは想像以上に困難な仕事である。
それに最初に決めた作戦を変えることは、とても勇気がいる。もし作戦を変更して負けたら、どうして変えたと非難されることは間違いない。人間は失敗することを恐れる生き物である。
そこを組織の上の人が守ってあげないと、チームは保守的になり、思い切った判断ができない。
そこがメルセデスとフェラーリとの違いで、フェラーリが勝てないのはマシンやパワーユニットの性能差だけではないのである?