無線制限はF1を退屈にしているのか? ヨーロッパGPでにわかに表面化した無線通信内容の制限。この無線通信内容の制限はドライバーにとても不評である。 ヨーロッパGPでハミルトンとライコネンがトラブルと格闘しているにも関わらず、ピットからの助言を得られなくて不満を募らせている状況がテレビで公開された。 無線内容制限は昨年の途中から導入されて、今年更に厳しくなった。 チームは安全に関する情報やタイヤ交換の時期、トラブルでマシンを止める指示、黄旗や赤旗、レースコントロールからの指示に関する内容は伝えて良いことになっている。 実は作戦面に関する指示も全面的に禁止する動きもあった。だがそれは開幕戦オーストラリアGPの前日に緩和され、チームはタイヤ交換の指示や交換の時期についてや、他のドライバーがどのタイヤを何周はいているのかについては伝えてもOKになった。 だがそれ以上の作戦面での指示は違反となり、ハミルトンやライコネンのような状況になってしまう。 ではこのルールはF1をおもしろくしているのであろうか。それともドライバーが速く走ることに集中できない状況を生み出し、レースの面白さを阻害しているのであろうか。 Großer Preis von Europa 2016, Sonntag ハミルトンはヨーロッパGPの27周目にフルパワーが出なくなったとピットに報告した。その一周後、彼のエンジニアのピート・ボニントンから「その問題は今キミが選択しているモードによるものだと思われる」と返信が来た。 ハミルトンはそれがどういう意味なのかがわからないと言い、その後何回も無線で問題が解決しないと訴え続けた。そして43周目にトラブルが直った時には、前を走るペレスに10秒以上の差をつけられていたので、その後はエンジンを労りながら走りきった。 ライコネンも自分のエンジニアのデーブ・グリーンがパワーユニットのトラブルに関して「はい」とも「いいえ」とも伝えられない状況に不満を表していた。 レース後ハミルトンは無線通信内容の制限に疑問を呈し、彼の問題はヨーロッパGPの盛り上がりに影響を及ぼしたと述べた。 「自分は無線の禁止はドライバーを助けることを禁止することだと理解している。無線でのコミュニケーションはドライバーを助けることではなく、技術的な問題だ。FIAは今のF1がとても技術的に複雑だし、実際人間が扱える複雑さを超えていることを知っている」 「たくさんのスイッチがあるけど、それを修正できるのは何が起こっているのか理解しているピットの中の人間だけだ」 「今日はレースを盛りあげることができなかった。もし僕にフルパワーがあれば、もっとレースができたし、前を走るドライバーとバトルできたよ」 メルセデスのチーム代表を務めるトト・ウルフも現在の無線ルールにも疑問を呈しており、ルールを緩和してレース中に問題が大きくなればドライバーを助けることができるように提案している。 「ドライバーがレースをしているのを見たいから、ルールを見直す必要がある。文句を言っているわけではないよ。ルールは全てのドライバーに平等だからね。フェラーリも同じ問題を抱えていたよね」 「私たちは二つの選択肢がある。ひとつはテクノロジーをシンプルにすること。これが正しい方向性だとは思わないけどね。もうひとつはレギュレーションを修正し、ドライバーとコミュニケーションができるようにすることだ」 アロンソも無線通信の制限に不満を表し、宇宙船みたいに複雑なF1をドライブするときに、ピットがドライバーを助けられないことに疑問を呈している。 「このルールはまったくナンセンスだ。今のF1はとても複雑で宇宙船を操っているようなものだ。でも僕たちは情報を得られないし、マシンに何が起こっているのかすら理解できないし、解決方法もわからない」 これに関しては賛成と反対の意見が錯綜している。無線通信した方がドライバーがレースに集中してレースがおもしろくなるという人もいる。ハミルトンはレース中にボタン操作をしなければならなくて危険だったと話している。 ドライバーは技術的な問題は彼ら自身の問題でないと考えている。F1マシンはとても複雑になっていて、ドライバーがそれを完全に理解することは難しい。 それに今年のF1のテレビ中継は昨年までに比べて無線を公開することが少なくなっていて、エンターテイメントとして見た場合、おもしろみが少なくっている面は少なからずある。 皆さんの意見はどうだろうか。 私はこの無線通信内容の制限をとても気に入っている。今年のレースは昨年までと違いとても面白くなっている。 これはシングルクラッチパドルの導入も寄与しているのだが、ドライバーを助けないほうが、レースは確実に面白くなる。 それはドライバーのミスが増えるからである。今のF1の運転が簡単だという気はまったくない。速く走らせるのは今も昔も同じように難しい。 だがミスをしにくくなっているのは事実である。今のF1マシンのオーバーテイクが難しいのは、前のマシンに接近するとダウンフォースを失うこともあるのだが、ミスが少ないことも大きな影響を与えている。 昔は細かいミスがたくさんあった。ブレーキ、クラッチ、シフトチェンジ。みんな自力で操作していた。だからオーバーテイクが頻繁に見られた。 でも今はシフトミスするドライバーはいない。ブレーキングも制動距離が短縮されミスが減っている。昨年までのスタートでは大きなミスは少なかった。 それらが複雑に絡み合って、今年の面白いレースを生み出している。もしロスベルグのトラブルが、ルイスほど長引いいていれば、さらにレースは盛り上がったことだろう。 そう考えればこれらの制限を再び緩和することには反対したい。もちろんドライバーが心拍数200近くで走りながら考えて、スイッチを操作するのが難しいのはよるわかる。 だが難しいことをやるから、レースは面白くなるのである。例えばサッカー選手はボールを蹴るのが仕事ではない。彼らの仕事はプレーの判断をすることである。頭の中の方が重要なのである。 そう考えるとF1ドライバーが考えて走ることは歓迎されるべきなのではないだろう。もちろん前回で走ることのできないドライバーにとって不満があることは理解している。 だがアロンソが言うように、今のマシンが複雑すぎると言うのであれば、よりシンプルにしてドライバー同士が戦いやすくすればいいと思う。デフの効きなどはコーナーごとに変える必要などないし、ルールで禁止すれば良い。エンジンのマップモードも変えなくても走ることができる。ものごとをシンプルにすればするほど、ドライバーも本来の仕事であるドライビングに集中できるのである。 私はF1とは究極のドライバー勝負の場であると思うから、マシンはできるだけシンプルにしたい。F1はモーター「スポーツ」なのである。だからF1はおもしろいのだし、ハイテクノロジーはルマンに行けばたくさん見られると思うのである。 共有:TweetTumblr で共有メールアドレス 関連記事 FIAがもたらした規則変更の真実:非対称ブレーキシステム禁止の背景 勝利を掴んだ若き才能:ピアストリの決断とルクレールの苦戦 Tagged on: F1, 無線制限 By sentaroh | 2016年6月30日 | F-1, F1コラム | ← ベッテルの素晴らしい判断 メルセデス 激突 再び →