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壁とスペースの隙間で:フェラーリ躍動、レッドブル沈黙のモナコ金曜レビュー

華やかで閉鎖的なモナコの街並みは、F1界においてもまた特殊だ。トラックポジションが絶対であり、タイヤ戦略よりも“交通状況”が命運を分ける。フェラーリのルクレールが金曜日に見せた支配と、マクラーレンの追撃、レッドブルの迷走、そして戦略的な波乱の兆し。そのすべては、狭く、曲がりくねったコースの中に凝縮されていた。

フェラーリの復権?ルクレール、モナコで“地元の顔”の面目躍如

金曜日に記録された1分11秒355。この数字は単なるセクタータイムの集積ではなく、フェラーリの今季最も明快な“ポール予告”とも言えるものだった。FP1でルクレールは軽微な接触とトラフィックの懸念を乗り越え、FP2では完全な形で走行プランを消化。驚くべきは、そのラップが“トラフィックなしの最適条件”で計測されたことだ。モナコではクリアラップを得ること自体が戦略の一部であり、それを実行できたフェラーリのセッションマネジメントは特筆に値する。

加えて、ルクレールのラップに表れていたのは、クルマの前後バランスの安定感だ。特にターン3(マッセネ)からカジノ広場への抜けでリアが流れることなく加速できており、C6タイヤの発熱・ピーク合わせに成功していた証でもある。これは、モナコにおいてはセットアップの“地雷回避”に成功したという意味を持つ。つまり、フェラーリがモナコ特有の路面とタイヤの相関性を、少なくとも金曜の段階では読み違えていないことを示している。

マクラーレン:0.038秒差の意味と、見えない課題

ルクレールに続いたピアストリのラップも見事だったが、その背景にはいくつかの技術的な条件が存在する。ひとつはトラックエボリューション、つまりセッション終盤に路面コンディションが向上したことである。ピアストリがベストを記録したのはルクレールより15分後であり、路面にラバーが乗り、グリップレベルが上がった状態だった。

それでもピアストリの修正能力は高く評価されるべきだ。FP2序盤、サント・デボーテでのクラッシュ後、すぐに復帰しノーズ交換、そしてリカバリー。これはメンタル的にも冷静さを欠いていなかったことを証明している。

ただしマクラーレンが土曜日のポール争いに加わるには、フロントエンドのグリップをもう少し見つける必要がある。MCL39はコーナーでのつながりがやや悪く見えた。ピアストリは「クルマにはペースがある」と主張しているが、一晩でエンジニアたちがそれを引き出せるかが鍵だ。

ランド・ノリスの見立てでは、マクラーレンは決して遠くない位置におり、ミーティング後に細かい部分をまとめていければ、モナコのガードレールの中でもう少し自信を持って走れるはずだという。

「ほんの小さな違いの話なんだ。0.01秒単位で争ってるから、小さな積み重ねが結果に響く」とノリスは語った。「ブレーキング、コーナリング、タイヤのグリップ、フィーリング——全部を完璧なゾーンに持っていくのは難しい。単純な答えはないよ。いろんな要素があるんだ」。現時点でMCL39は“理論上速い”が、“100%のパッケージ”としてはやや欠けている。

レッドブル:アンダーステアという最大の敵と向き合う週末

もっとも不安定に見えたのはレッドブルだった。FP2では姉妹チームのレーシングブルズにすら後れを取る場面もあり、これは単なる“いつもの金曜調整不足”とは言い切れないかもしれない。

特に深刻だったのはアンダーステアの症状だ。フェルスタッペンの走行ラインは通常より広く、ターン6(ミラボー)では再加速のためにアウト側の縁石を目一杯使う姿も目立った。

アドバイザーのヘルムート・マルコは、2回目のセッションで行ったセットアップ変更が期待した結果をもたらさなかったと語っている。「いくつか変更を加えたんだが、思ったような効果は出なかった」とマルコは語った。

「アンダーステアが出た。モナコでフェルスタッペンがアンダーステアに苦しむ——これは相性が悪い。明日には持ち直せることを願っているよ。全体的に見てフェラーリは本当に速くて、彼らが本命だと言えるだろう」。

「でも、すべては予選次第だし、2ストップとなればちょっとしたくじ引きみたいなものさ。とはいえ、マクラーレンの前には出られると思っているし、それが我々のやるべきことだ」。

タイヤ選択と2ストップ戦略:静かな火種が燃え上がる予感

今年のモナコGPで導入された義務的な2ストップルールが、レース内容そのものを劇的に面白くするとは思えないが、戦略面での揺さぶりは確実に増す。戦略好きにとってはかなり面白い展開になるだろう。単に「2回止まる」というルールではなく、「いつ、どのタイヤで止まるか」を巡る知的な戦争となる。

予選でも知恵を絞る必要がある。通常は最も柔らかいタイヤを履いて1回のアタックすればいいが、もしトラフィックに巻き込まれれば、すべては水の泡である。なので、金曜の走行では、C6(ソフト)とC5(ミディアム)を比較していたチームが複数あった。ソフトは明らかに1~2周がピークだが、その一発目がトラフィックで潰されるリスクを考えれば、予選で連続アタックする戦略、あるいはQ1でミディアムを用いて変則的に突破を狙う動きも考えられる。

だからこそ、いくつかのチームがC6(ソフト)とC5(ミディアム)の両方で試走していた理由がある。予選セッションでC6が数ラップ持つかどうかを見極めていたのだ。最も比較しやすいのはウィリアムズのケースで、カルロス・サインツはミディアムで1分12秒151、アレックス・アルボンはソフトで1分11秒918を記録している。ソフトで一発でラップをまとめられるなら、明らかにそちらの方が速い。

しかしQ1で混乱が起きれば、燃料多めで連続周回を重ねたドライバーが、意外と上位に残る可能性すらある。

ローソンとハジャー、VCARBの二面性

レーシングブルズは注目の2人を擁している。ローソンはクリーンな走行でトップ5に入り、自身のF1残留に向けたアピールを成功させた。一方のハジャーは2度のクラッシュで赤旗を誘発し、金曜日で最も痛い“修行”を受けたドライバーとなった。彼の走行ラインは若干深すぎ、ターンインのポイントを見誤った印象があった。

ただしこれは、彼がモナコ初走行という“経験値の壁”に直面した結果でもある。問題はこの経験をどう土曜に活かすかだ。

ポールは速さだけでなく、冷静さの産物

モナコでは、速い者が勝つのではなく、ミスしなかった者が勝つ。ルクレールは速さと冷静さを兼ね備えたが、予選では1台のトラフィック、1つの赤旗、1度のタイミングミスがすべてを無に帰す。

フェラーリの地元ヒーローは、土曜午後の予選でその“完全無欠の1周”を再現できるか。あるいは、知恵と戦略でマクラーレンやレッドブルが逆襲をかけてくるか。F1の中でも最も美しく、そして最も危険な舞台に、緊張のベールが覆い始めている。