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不安定なバランス:角田裕毅とレッドブルの岐路

F1の世界において、レッドブルほど苛烈な競争原理が働くチームはほとんどない。その冷徹なまでの実力主義は、時に非情なドライバー交代劇を引き起こす。今シーズン序盤、レッドブルが断行した角田裕毅とリアム・ローソンのシート交換は、その典型例であった。しかし、日本GP以降のこの大胆な人事は、期待された明確な成果をいまだに生んでおらず、その奇妙な停滞が現在進行形でF1パドックを騒がせている。とりわけ、角田の現状と来シーズンに向けた契約問題は、多くのファンの目にも、非常に複雑かつ不安定な局面に映っている。

不透明なスタートを切った角田の「レッドブル昇格」
レッドブル・レーシングに昇格した角田は、開幕2戦でローソンが残した成績と比べれば改善が見られるものの、F1界の絶対王者マックス・フェルスタッペンを支えるには力不足と言わざるを得ない。予選最高位8位、決勝最高位9位という結果は、5戦およびスプリント1戦でのわずか7ポイントという成績に如実に表れている。この数字は、同時期にレーシングブルズでイザック・ハジャーが稼いだポイントと同じであり、トップチームのセカンドドライバーとしては心許ない。

もちろん、RB21というマシンがフェルスタッペン以外には扱いづらいというチームの見解は考慮に値する。また、角田がアップグレードの導入に遅れをとる「二番手」扱いを受けていることも、彼のパフォーマンスに影響している。イモラでの大クラッシュも自身のミスとはいえ、旧スペックへの戻しを強いられた点からも、不利な立場が浮き彫りとなった。

だが、F1という弱肉強食の舞台では、そうした事情がどこまで情状酌量の対象となるかは疑問だ。レッドブルは今のところ角田の成績を問題視していないようだが、フェルスタッペンのタイトル争いを支えるには、早急な改善が求められるのは間違いない。コンストラクターズタイトルを半ば諦めている現状も、レッドブルにとっては決して理想的ではない。

「受け入れがたい」クラッシュと成長の停滞
角田の「受け入れがたい」クラッシュという表現は、レッドブル内部の懸念を浮き彫りにする。潜在能力の高さには定評があるものの、肝心な場面で結果を出せず、ミスを重ねてしまう点が、彼の成長を停滞させている要因と見られている。イモラでのクラッシュはセーフティカーの恩恵で10位に挽回したものの、毎戦下位ポイント圏での争いに終始している現状は、決して楽観視できるものではない。

一方で、レッドブルが角田に対してある程度の猶予を与えている背景には、RB21が扱いにくいマシンであること、そしてその特性を実戦で習得する必要があることがある。また、短期間で成果を示せなかったローソンと比較しても、角田の方が安定感を見せており、今後の伸びしろを期待されている。フリー走行や予選の一部で垣間見せるポテンシャルは、レッドブルにとって一筋の希望となっている。

レッドブルが抱えるもう一つの火種:リアム・ローソンの苦境
角田が不安定な天秤の片側なら、もう一方にはレーシングブルズに降格されたリアム・ローソンがいる。彼は明らかに苦戦しており、印象的なルーキーであるイザック・ハジャーに後れを取っている。2025年シーズン、ローソンはまだ1ポイントも獲得できておらず、ハジャーのポイントはすべてローソンとのチーム体制下で記録されたものであることから、マシンの性能に原因を求めることは難しい。

さらに、F2ルーキーのアーヴィッド・リンドブラッドがイモラのスプリントレースで初勝利を挙げ、ローソンへの圧力を強めている。彼が18歳の誕生日を迎え、スーパーライセンスの取得資格を得れば、シーズン途中の昇格も現実味を帯びてくるだろう。

レッドブルは、すでにローソンがトップチームではドライブできないとの評価を下しており、一度見限ったドライバーをレッドブル・レーシングに戻した前例はない。ローソンが現チームで結果を出せなければ、次なる有望株の起用は時間の問題である。

将来を左右する「猶予」の期間
結論として、角田にはローソンよりも長い猶予が与えられると見られている。チーム内でより集中力が高く、前向きな姿勢を見せている角田に対し、ローソンは自らの状況に翻弄されつつあると映っている。今回のドライバー交代は、少なくともレッドブルにとって一定の合理性を持つ決断だったのかもしれない。

しかし、その猶予がいつまで続くのかは依然として不透明だ。角田がレッドブル・レーシングの一角として結果を残せない状態が続けば、アレクサンダー・アルボンのように「期待された成長が見られない」と判断され、来シーズン以降の代役が模索される展開も否定できない。

コンストラクターズランキングで低迷し、もしフェルスタッペンがチームを離れた場合、レッドブルは深刻なドライバー問題に直面することになる。そのため、チームメイトの選定は極めて慎重であり、角田に対する猶予が相対的に長くなるのも必然と言える。

今後の3連戦と、カナダGPを挟んだヨーロッパラウンドの展開が、この問題の行方を左右するだろう。まだ数戦を終えただけとはいえ、ここはレッドブル。彼らの中ではすでに明確な傾向が見えており、パフォーマンスの即時改善が求められている。もし改善が見られれば、角田もローソンも自らのキャリアを自らの手で切り拓けるだろう。だが、改善がなければ、レッドブルの首脳陣はさらなる人事の見直しに動く可能性がある――いや、すでにその準備は始まっているのかもしれない。F1の冷酷な現実が、いま、角田裕毅とリアム・ローソンに突きつけられている。