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モンテカルロの頭脳戦:ノリスがルクレールの猛攻を退け初栄冠_モナコGP観戦記

2025年F1世界選手権の第8戦、華やかなモナコ市街地コースを舞台としたモナコGPは、マクラーレンのランド・ノリスが完璧なポール・トゥ・ウィンを飾り、自身初のモナコ制覇という偉業を成し遂げました。この勝利は、今シーズンから導入された「強制2回ピットストップ」ルールが、モナコという特殊なコースに劇的な影響を与え、戦略の妙が問われたレースとなりました。

予選:マクラーレンとフェラーリが最前列を分け合う

今年のモナコGPは、予選からドラマチックな展開を見せました。ランド・ノリスは、Q3の最終アタックで驚異的なラップを叩き出し、ポールポジションを獲得。地元モナコ出身のシャルル・ルクレール(フェラーリ)が、熱狂的な地元ファンの前で僅差の2番手グリッドを獲得し、フロントローを分け合いました。チームメイトのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は3番手となり、マクラーレンがフェラーリを挟み込む形となりました。

このフェラーリの好調は、ここでは高速コーナーがなく、スキッドブロックをすり減らす心配がないので彼らの理想の車高を設定することできたことが最大の要因です。失格となった中国GP以降、車高を上げて、パフォーマンスを落として走らざるを得なかっただけに、このレースでのパフォーマンスは彼ら自身が考える以上に素晴らしいものになりました。

レッドブルのマックス・フェルスタッペンは、モナコ特有の低速コーナーでのマシンの挙動に苦戦し、4番手からのスタートとなりました。

決勝:スタート直後の攻防が勝敗を分ける

日曜の決勝レースは、モンテカルロ市街地コース特有の緊張感の中でスタートしました。ポールシッターのノリスと2番手ルクレールは、スタート直後の蹴り出しこそ同じでした。しかし、そこからノリスはホイールスピンを喫し、加速が鈍ってしまいます。この隙を逃さず、ルクレールは素晴らしい加速を見せ、ターン1への飛び込み時点ではノリスにほぼ並びかけました。

まさに千載一遇のチャンス。地元優勝を狙うルクレールがアウト側から並びかけ、ノリスにプレッシャーをかけます。しかし、ノリスはここで粘り強さを見せました。タイヤをロックさせ白煙を上げながらも、イン側ラインを死守。ルクレールはノリスがそのままコースアウトする可能性も視野に入れ、無理な接触を避けるべく、強くブレーキングを踏み込みました。結果、ノリスは見事にターン1を走り抜け、トップを維持。この瞬間、レースの主導権はノリスの手に握られました。ルクレールにとっては、地元モナコでの優勝へ向けた最初で最大のチャンスを逃す形となりました。

その後、後方ではすぐにアクシデントが発生しました。ポルティエで、ザウバーのガブリエル・ボルトレトがメルセデスのキミ・アントネッリに押し出される形でガードレールに激突。ボルトレトはノーズを損傷しながらもレースを続行しましたが、この接触によりバーチャルセーフティカー(VSC)が導入されました。さらに、9周目にアルピーヌのピエール・ガスリーとレーシングブルズの角田裕毅も接触。ガスリーはリタイアを余儀なくされ、角田は幸いにもレースを続行できました。この序盤の混乱は、各チームの戦略に大きな影響を与え、今後のレース展開を大きく左右することとなりました。

特に今回のモナコGPでは、2025年から導入された「強制2回ピットストップ」ルールが焦点となりました。例年、ワンストップ戦略が主流で、抜きどころの少ないモナコでは、レースが単調になる傾向がありました。しかし、この新ルールにより、各チームは最低2回のタイヤ交換を義務付けられることとなり、ピット戦略の幅が格段に広がったのです。

中団勢のタイヤ戦略とチームプレイ

中団勢では、この新たなルールを最大限に活用しようとするチームが多数見られました。ハースやレーシングブルズは、比較的早い段階で2回のピットストップを消化し、レース後半にプッシュをかける戦略を選択しました。特にレーシングブルズのリアム・ローソンとイサック・ハジャーは、この戦略が功を奏し、ポイント圏内での走行を維持しました。

一方で、メルセデスはピットストップを遅らせ、レース終盤に2回のピットストップを詰め込む戦略を採用。しかし、これは必ずしも成功とは言えませんでした。ジョージ・ラッセルは、前を走るアレクサンダー・アルボン(ウィリアムズ)がチームメイトのカルロス・サインツ・ジュニアのために意図的にペースを落としていると主張し、怒りを露わにしました。ラッセルはシケインをカットしてアルボンを(意図的に)オーバーテイクしましたが、この行為に対しドライブスルーペナルティが課され、結果的に順位を落とすこととなりました。この件は、F1のチームプレイの是非や、新ルールの抜け穴について、大きな議論を巻き起こしました。

トップグループの冷静な戦略:マクラーレンの巧みなピットタイミング

トップグループのノリス、ルクレール、ピアストリは、比較的安定したペースで周回を重ねました。特にマクラーレンは、ノリスのタイヤ交換のタイミングを慎重に計っていました。彼らが目指したのは、ピットアウト後に前方に十分なスペース、つまりクリーンエアを確保し、ノリスが自分のペースで最大限のパフォーマンスを発揮できる状況を作り出すことでした。

その機会は、4位を走行していたルイス・ハミルトンが18周目にタイヤ交換のためにピットインした後に訪れました。ハミルトンがピットに入った次の周に、マクラーレンはノリスをピットに呼び込みました。この時点で、ノリスはピットイン前のマックス・フェルスタッペンと約11秒の差を確保しており、ピットアウト後もクリーンエアの中で走行することが可能となりました。この完璧なタイミングにより、ノリスはトップを維持しつつ、後続とのギャップをさらに広げることに成功しました。

一方、2位を走行していたルクレールは、できれば走り続けてオーバーカットを目指したいと考えていました。しかし、ルクレールから約3秒後方を走行していたピアストリがノリスの次の周、20周目にタイヤ交換を行ったため、フェラーリはルクレールがピアストリからのアンダーカットで順位を奪われるのを防ぐために、タイヤ交換をせざるを得ませんでした。上位3台が一度目のタイヤ交換を終えた時点で、再びスタート時の順位に戻り、ノリス、ルクレール、ピアストリの順でレースが展開されました。

マックス・フェルスタッペンは、モナコでは依然としてレッドブルのマシン特性に苦戦。しかし、彼はレース終盤まで2回目のピットストップを敢行せず、レッドフラッグが出る可能性に賭けるという大胆な戦略を見せました。しかし、それは実現せず、結局最終ラップ近くでピットイン。それでも、堅実に4位でフィニッシュし、最低限のポイントを獲得しました。

日本人ドライバー、角田裕毅の戦略と苦闘

日本のファンが注目する角田裕毅(レーシングブルズ)は、予選12位からソフトタイヤでスタートしました。レーシングブルズは、1周目終了時にピットインしてタイヤ交換を行うという大胆な戦略を選択していました。これは、前方に多くのマシンが連なっていてペースを上げにくいモナコで、最初にタイヤ交換を済ませ、クリーンエアで自分のペースで走り、前方の集団に追いつき、ライバルがタイヤ交換する際にポジションを上げることを狙ったものでした。

この作戦は、奇しくもオープニングラップでのボルトレトのクラッシュとVSC導入とタイミングが一致し、約10秒の貴重な時間を稼ぐことができました。これにより、角田はすぐに前方の集団に追いつくことに成功しました。しかし、ここからはモナコ特有のオーバーテイクの難しさが立ちはだかります。集団の中でペースを上げることができず、膠着状態に陥ってしまいました。

チームはその後、赤旗が出る可能性に期待し、2度目のタイヤ交換を可能な限り引き延ばしました。しかし、最後まで赤旗が出ることはなく、結局ゴール2周前に2度目のタイヤ交換を行うこととなり、17位まで順位を落としてフィニッシュしました。結果論ではありますが、最初のタイヤ交換後、集団に追いつた時点で2度目のタイヤ交換をしておけば、ライバルがピットストップする間にポジションを上げて入賞を狙えた可能性も考えられます。

とはいえ、モナコという特殊なコースでQ2脱落という予選結果だった時点で、難しいレースになることは明らかでした。特に、モナコのように予選順位が大きく影響するコースでは、Q2を突破し、より良いグリッドを獲得することの重要性が改めて浮き彫りになりました。そこを改善しない限り、今後の同様のコースでのレースでも苦戦が続くのは間違いないでしょう。

最終結果とチャンピオンシップ争いへの影響

その後、二度目のタイヤ交換も最初にピアストリがタイヤ交換。アンダーカットを防ぐためにルクレールがその次の49周にタイヤ交換。そしてその次の周にはノリスがタイヤ交換して、トップを維持するはずでしたが、まだ二度目のタイヤ交換をしていないフェルスタッペンがいてトップを走っていました。これでレッドフラッグが出れば、まさかのフェルスタッペン逆転優勝となるはずでしたが、レース序盤にVSCが出た以外は、ガスリーのクラッシュやアロンソのリタイヤでも赤旗が出る展開にはならず、フェルスタッペンも最終ラップ前にタイヤ交換を強いられて、4位に順位を落とします。

これでランド・ノリスは、モナコでの初の栄冠を勝ち取り、キャリアの大きな節目を迎えました。2位には地元出身のシャルル・ルクレールが入り、3位にはオスカー・ピアストリが続き、マクラーレンはシーズン序盤から続く好調を維持し、コンストラクターズランキングでもトップを維持しています。

ノリスは、開幕戦のオーストラリアGP以降、勝てておらず、その間ピアストリが好調を維持して、チャンピオンシップでもリードを広げていただけに、この勝利は大きな意味を持ちます。

ドライバーズ選手権では、この優勝によりノリスがチャンピオンシップリーダーのピアストリとの差をわずか3ポイントにまで縮め、タイトル争いはさらに激しさを増すこととなりました。マックス・フェルスタッペンは3位を維持していますが、マクラーレンの勢いは止まらず、今年のタイトル争いは最終戦まで目が離せない展開となることが予想されます。

また、今シーズンのモナコGPで導入された「強制2回ピットストップ」ルールは、賛否両論を巻き起こしました。一部からは「戦略の幅が広がり、レースが面白くなった」との声がある一方で、「意図的なペースダウンによるチームプレイなど、新たな問題を生んだ」という批判の声も上がっています。F1の統括団体は、今回のモナコGPの結果を踏まえ、今後のレースにおけるルール運用について再検討を行う必要があるでしょう。

結局、狭いモナコの道路に巨大化した現在のF1マシンでは、どのようなルールを指定したとして、追い抜きも順位の変動も起こりにくいという事実だけが残りました。

次戦は、戦略的なレース展開が期待されるスペインGPが開催されます。モナコでの勢いをそのままに、マクラーレンがさらなる快進撃を見せるのか、それともレッドブルやフェラーリが巻き返しを図るのか、F1ファンは目が離せません。