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F1空力の「ポイント」とは何か:チーム内だけで通じる“空力の通貨”を読み解く

F1の世界で「ポイント」という言葉が出てきたとき、それは必ずしもレースの順位や年間ランキングの得点を指すわけではありません。チーム内で使われる場合の「ポイント」は、車の空力性能を測るための社内基準の数値を意味し、いわば内部通貨のようなものです。

ニュートンや馬力のように世界共通の単位ではなく、各チームが風洞実験やコンピューターシミュレーション、そして実際のサーキット走行のデータから独自に作り上げた数値であり、他チームとはまったく互換性がありません。

そのため、無線で「20ポイント失った」という声が聞こえても、それはあくまでそのチームの計算基準で深刻な事態を意味しており、他チームの数字と比べることはできません。

「ポイント」は“内部通貨”

このポイントは、まず風洞やCFD(数値流体解析)で車の部品形状を変え、速度や車体姿勢をさまざまに変化させながら空気の流れを数値化することから始まります。フロントウイングや床下、ディフューザーなど、複数のパーツで性能の差を測り、空気の当たり方を細かくマッピングします。次に、その数値が実際の走行でどれだけ使えるのかを評価します。

ダウンフォースが増えるだけでは不十分で、姿勢の変化や路面の凹凸によって性能が乱れにくいか、つまり「扱いやすさ」や「安定性」も重要です。そして最後に、それらの性能差をラップタイムに換算します。コーナーが多いハンガリーのようなコースではダウンフォースが大きく効きますが、直線主体のモンツァではドラッグの少なさのほうが重要になります。こうして、実験室、車両特性、サーキットでの実測という三つの視点を組み合わせ、総合的に算出したものが「ポイント」です。

「20ポイント失う」の本当の意味

では、「20ポイント失った」とはどういう意味でしょうか。F1マシンの空力は非常に複雑で、まるでドミノ倒しのように一か所の不調が全体に波及します。例えばフロントウイングの端が壊れると、床下へ送る空気の質が悪化し、フロア外周を守る縁渦が弱まり、ディフューザーやリアウイングまで性能低下が連鎖します。これにより前後のバランスが崩れ、ドライバーはコーナー進入でハンドル操作をためらい、立ち上がりで加速を我慢せざるを得なくなります。つまり、この言葉は「今のままではまともに戦えない」という緊急信号なのです。

さらにやっかいなのは、同じ「+10ポイント」の性能向上でも、その中身によって意味が異なることです。ダウンフォースだけ効率よく増えた場合もあれば、ドラッグも少し増えてしまう場合、あるいは車の姿勢変化に強く反応する場合や床下の空気の流れが安定する場合もあります。数字が同じでも、走らせてみると速さが大きく違うのはこのためです。そしてポイントの価値は、コース特性や天候によっても変わります。コーナーが多いコースではダウンフォースが、直線主体のコースでは効率が重視され、強風や極端な路面温度のときは安定性がものを言います。

ドライバーとエンジニアの判断

もし走行中に大きくポイントを失った場合、チームは即座に対応策を考えます。フロントウイングの角度を変えて前荷重を増やす、セッティングを調整して回頭性を高める、あるいは縁石を避けて床下を安定させるようドライバーの走り方を変える、といった応急処置です。しかし根本的な解決はパーツ交換しかなく、レース中に完全な復旧を果たすのはほぼ不可能です。

ポイントの価値

結局のところ、F1の「ポイント」とは単なる数値ではありません。空力性能、効率、安定性を束ねた総合的な評価であり、コースや状況によって価値が変わります。そして、その損失はマシンの挙動だけでなく、ドライバーの自信までも削ってしまうのです。だからこそ、「20ポイント失った」という一言は、エンジニアにとって「車が別物になってしまった」という重大な警告として響くのです。