Formula Passion

新パワーユニット時代の幕開け:F1はどこへ向かうのか

2026年、F1は再び大きな技術的転換点を迎える。新たなパワーユニット規則の導入は、単なるアップデートにとどまらず、スポーツ全体の未来像を左右する大改革となるだろう。エンジニアたちが詳細をほとんど明かさない中、パドック内には「一体どれほどの性能になるのか」という興奮と不安が入り混じっている。

FIAが掲げた「50:50」の理想

FIAの当初の設計思想は明快だった。内燃エンジン(ICE)と電動モーター(MGU-K)の出力を半分ずつ、つまり50:50で分担すること。これにより「持続可能なモータースポーツ」という旗印を、出力面でも象徴的に示す狙いがあった。

規則では、ハイブリッド側の出力は最大350kW(475馬力)に制限される。理論上、ICEが同等の475馬力を発揮すれば、合計950馬力のパッケージとなる計算だ。ところが、現行のPUは最も攻めたモードで1000馬力を超えており、この950馬力という数字は一見すると「後退」に映る。F1が“遅くなる”ことをファンは受け入れるだろうか――そんな懸念も広がった。

「似たようなものになる」メルセデスの余裕

しかし、開発の現場はすでにこの懸念を打ち消している。メルセデスのエンジン部門責任者ハイウェル・トーマスは、将来のパフォーマンスについて問われると「現行と似たようなものになる」とにやりと笑って答えた。トップエンジニアがあえて楽観的なコメントを出すのは珍しい。

あるメディアが伝えたところによれば、ICE単体で既に430kW(585馬力)を超えているとの情報もある。これに電動の475馬力を足せば合計1060馬力。比率はむしろ55:45でICEが優勢だ。つまり、新PUは「環境に配慮しながらも、現行以上の馬力を秘めている」という逆説的な結果になりつつあるのだ。

燃料革命とエネルギーマネジメント

もっとも、馬力の数字だけではF1の未来を語れない。新PUの真価は「燃料」と「エネルギーマネジメント」にある。2026年から導入されるカーボンニュートラル燃料は、従来のガソリンと比べて燃焼特性が異なり、効率性が何よりも重要になる。

ICEは単にパワーを出すだけでなく、バッテリーへの充電にも大きく関与する。ロングストレートの終盤では早めに「リフト&コースト」に入る場面が増えると予想される。これは燃料節約のためであり、同時にバッテリーの回生効率を高める戦略的要素も加わる。つまり、2026年以降のレースは「誰が速いか」だけでなく「誰が最も効率的か」を競う新しいステージに突入する。

ドライバーを待ち受ける新たな課題

新PUがもたらす変化は、ドライバーの運転感覚を大きく揺さぶる。特に低速コーナーの立ち上がりでは、MGU-Kが強烈なトルクを後輪に伝える。現行以上の加速力を体感する一方で、タイヤの摩耗やトラクションコントロールの難易度が跳ね上がるだろう。予選アタックでの爆発的な立ち上がりはドライバーの笑みを誘うかもしれないが、決勝では「扱い切れるか」という別次元の課題に直面する。

さらに、空力レギュレーション変更によってダウンフォースは大幅に削減される。馬力が上がってもコーナリング速度は低下するため、初年度にラップレコードを更新する可能性は低い。パワーがあるのに曲がらない――そんな「矛盾したフィーリング」に、ドライバーたちは順応を迫られるだろう。

初年度は混沌、しかし進化は加速する

F1の歴史を振り返れば、大改革の初年度は必ず混乱が伴う。2014年のハイブリッド導入時、多くのファンが「音が悪い」「遅くなった」と失望を口にした。しかし数年後、エンジニアリングの進化によってマシンはかつてない速さを手にした。今回も同じ道をたどるだろう。

初年度は信頼性トラブルや効率不足で退屈な展開になるかもしれない。だが、それは失敗ではなく学習の過程だ。エンジニアたちは数ヶ月単位で改良を重ね、燃焼効率や回生システムの制御を洗練させていく。気がつけばシーズン後半には、序盤とは別物の速さを見せつける可能性も十分ある。

チーム戦略の新たな焦点

新PU時代のレースでは、戦略面にも大きな変化が訪れる。従来は「タイヤマネジメント」が最優先だったが、今後は「エネルギーマネジメント」がそれと同等か、それ以上に重要になる。

どのタイミングで回生を行うか、どこでセイルモードを使うか。こうした判断が、オーバーテイクの成否や終盤の燃料残量に直結する。エンジニアとドライバーの緊密な連携が今まで以上に要求され、無線での戦術的やり取りはさらに複雑化するだろう。ファンにとっては「見えない駆け引き」を読み解く楽しみが増える。

批判より忍耐を

新PU導入直後、ファンの間には「遅い」「退屈だ」という批判が必ず出るだろう。しかし、ここで大切なのは忍耐だ。F1は常に試行錯誤を繰り返しながら未来を切り拓いてきた。1980年代のターボ時代も、2014年のハイブリッド導入時も、初年度は散々な評価を受けた。それでも最終的にはスポーツを次のレベルへ押し上げてきた。

2026年も同じだ。序盤は混沌としていても、その先には必ず進化がある。我々ファンに求められるのは、短期的な批判ではなく、長期的な視点でこの「学習曲線」を共に歩むことだ。

新しいF1の形を受け入れる

1060馬力、カーボンニュートラル燃料、効率重視のレース戦略――2026年のF1は「パワーと持続可能性の両立」という前人未到の領域に踏み出す。馬力やラップタイム以上に注目すべきは、そこに至るまでのプロセスだ。

新PUは単に速さを競う道具ではなく、モータースポーツが未来社会とどう共存していくかを示す象徴でもある。批判ではなく忍耐、失望ではなく期待。その視点を持つことが、我々ファンにできる最大の貢献だろう。