Formula Passion

2026年F1革命、その成否を握るのは「タイヤ理解力」

2026年のF1レギュレーションは、しばしば「過去30年で最大の技術的転換点」と形容される。電動化比率50%に達する新パワーユニット、アクティブ・エアロの全面導入、車体寸法と重量の見直し。だが、この革命の成否を左右する“最後のピース”は、実のところピレリタイヤにある。

なぜなら2026年マシンは、ダウンフォース、重量、エネルギー消費のすべてが流動的であり、タイヤはそれらを受動的に受け止める存在ではなく、「成立条件そのもの」になっているからだ。タイヤが適切な温度と荷重で機能しなければ、どれほど優れた空力やパワーユニットも意味をなさない。

小径・細幅タイヤが変える「空力の前提」

2026年仕様のピレリタイヤは18インチを維持しつつ、前輪で25mm、後輪で30mm幅が狭くなり、外径も約10mm小型化された。これは単純な軽量化策ではない。タイヤ形状の変化は、空力の成立条件そのものを変える。

タイヤのサイドウォールは走行中に変形し、その際に生じる渦流はフロア前縁やベンチュリ入口の流れに直接影響を与える。現行車でもこの影響は無視できないが、2026年はフロアのダウンフォース依存度が下がり、効率重視の設計へ移行するため、タイヤ由来の乱流が相対的に大きな意味を持つ。

そのため各チームの風洞解析では、従来以上に「接地面近傍の流れ」が重視されている。タイヤを単なるブラックボックスとして扱う設計は、2026年には通用しない。

Image

アクティブ・エアロと「冷えすぎるフロント」

2026年の最大の新要素であるアクティブ・エアロは、ストレートでのドラッグを劇的に減らす。その効果は旧DRSの約3倍とも言われ、最高速向上と引き換えに、ストレート中のダウンフォースは大幅に削減される。

ここで問題になるのがタイヤの発熱量だ。ダウンフォースが減れば、タイヤが路面から受ける荷重も減る。さらに速度上昇によって走行風による冷却効果は強まり、小径・軽量化されたタイヤは熱容量も小さい。

結果として浮上したのが、「フロントタイヤが作動温度に到達しない」という懸念である。特に長いストレートを持つラスベガスやバクーでは、従来型タイヤでもストレート中に40℃以上温度が下がっていた。2026年にはその傾向がさらに顕著になる可能性がある。

これは単なるグリップ不足にとどまらない。ブレーキング初期の安定性、ABS的な制御領域、フロントロックのリスクなど、ドライバーの信頼感に直結する問題となる。

ホイールリム──再び始まる「見えない技術戦争」

こうした課題に対する最大の武器が、2026年から自由設計が復活するホイールリムである。
グラウンドエフェクト規定下では共通部品だったが、新レギュレーションでは各チームが独自設計を行える。

ブレーキディスクやキャリパーから発生する熱を、どの程度タイヤへ伝えるのか。
内部の空気流をどう設計し、どこで溜め、どこで抜くのか。

これは2019年にメルセデスが採用し物議を醸した「通気穴付きホイールハブ」を想起させる分野であり、再び熱マネジメントが性能差を生む時代が戻ってくる。

重要なのは、この領域が空力・ブレーキ・タイヤの境界に位置している点だ。2026年F1では、部門間の連携が取れていないチームほど苦戦する可能性が高い。

Image

5種類のコンパウンドに込められた「不確実性」

ピレリは当初6種類のドライコンパウンドを開発したが、最終的に5種類に絞った。その判断の背景には、2026年マシンの不確実性がある。

モータースポーツディレクターのマリオ・イゾラが語るように、新規定下ではチーム側の荷重見積もりが過大にも過小にも振れやすい。つまり、「適切な硬さ」が事前には定義できない。

そのためピレリは、作動温度ウィンドウを広げる方向で開発を進めているが、その効果はマシン特性に大きく依存する。同じタイヤでも、あるチームでは万能に機能し、別のチームでは扱いづらい存在になる可能性が高い。

新構造タイヤが突きつける「設計思想の差」

サイズとコンパウンドだけでなく、構造も刷新される。小型化に伴い、荷重を支えるためには高い内圧が必要になるが、ピレリは新素材と新構造により、現行に近い内圧を維持できる設計を目指した。

しかし、ここで問われるのはその変形特性を前提に、どんなサスペンション・空力を組み合わせるかだ。タイヤの縦・横剛性、変形速度、復元挙動をどう使うかによって、マシンの性格は大きく変わる。

2026年のF1では、「最もダウンフォースを生むマシン」よりも、「タイヤを最も安定して使えるマシン」が強い可能性がある。

Image

急峻な学習曲線がシーズンを揺さぶる

2026年シーズンは、開幕戦と中盤で勢力図が大きく変わっても不思議ではない。
理由は単純で、学習曲線が極めて急だからだ。

誰も正解を知らない中で、
・タイヤをどう暖め
・どう冷やし
・どう空力と整合させるか

この問いに最初に答えを出したチームが、序盤戦を支配するだろう。

2026年F1において、最初に理解すべき対象はエンジンでもアクティブ・エアロでもない。
それはタイヤだ。

この事実にどれだけ早く気づけるか──そこに、次世代F1の勝者と敗者を分ける境界線がある。