Formula Passion

「50対50の革命」: 2026年、F1は電動化の新時代へ

エンジン音が戻り、戦略は複雑化する。ハイブリッド強化と燃料削減で生まれ変わるF1マシンは、ドライバーにもチームにも、そしてファンにも新たな挑戦を突きつける。

2026年、F1は大きな転換点を迎える。カーボンボディの下に隠された新型パワーユニットは、見た目以上に革新的だ。最高出力は変わらず1000馬力超を維持するが、その中身は劇的に変わる。電気と燃焼が50対50――これが新時代のキーワードだ。

実際には電動側が469馬力に制限されるため、内燃エンジンからの出力が依然として大きな割合を占める。しかし、このバランスの変化が、レースの戦い方そのものを変えようとしている。単純化して言えば、パワーの半分を電気が、半分を燃焼が担う時代が到来するのだ。

MGU-H廃止で蘇る「F1サウンド」と技術的トレードオフ

最も象徴的な変更は、ERS-H(熱エネルギー回生システム)の廃止だろう。ターボチャージャーに接続されていたこのモーター・ジェネレーター・ユニットがなくなることで、長年ファンが待ち望んでいた「排気音」が戻ってくる。

2014年以降、ハイブリッド時代のF1は「静かすぎる」との批判を受け続けてきた。MGU-Hの効果で抑えられていたエンジンサウンドが解放され、オーバーラン時のポップ音やバンという爆発音も増える見込みだ。サーキットに響き渡る迫力あるサウンドは、モータースポーツの醍醐味そのものであり、ファンにとっては大きなボーナスとなる。

しかし、エンジニアリングの観点では、これは大きな挑戦でもある。MGU-Hはストレートで廃熱エネルギーを回収し、同時にモーター機能でターボを回し続けることでターボラグを低減していた。この両方の機能を失うことで、エンジンマネジメントとハイブリッド制御の難易度は格段に上がる。

ターボを回し続けるために、従来型のアンチラグ技術の活用も検討されているが、排気側で燃料を燃やしてターボを回す方式は、燃料制限の厳しい新規則下ではレースでは魅力的でない。ただし予選では可能性がある。スロットルオフ時に開度を保つコールドブロー方式や、コンプレッサーとタービンの小型化も有効な解決策だ。

興味深いのは、強力な電動モーターの存在がこの問題を緩和する点だ。低回転域ではERSが補助し、その間にターボが回転を上げて高回転域のパワーを生み出す。ハイブリッドシステムの強化が、MGU-H廃止のデメリットを相殺する設計思想となっている。

469馬力のモーターがもたらす戦術革命

ERS-Kと呼ばれるエンジン直結型のモーターは、従来の120キロワット(160馬力)から350キロワット(469馬力)へと大幅に強化される。この300馬力を超える増加は、単なるパワーアップではない。トルクの大幅向上により、コーナー立ち上がりの加速性能が飛躍的に高まり、ドライビングスタイルにも影響を及ぼすだろう。

さらに革新的なのは、エネルギー展開の自由度が増すことだ。1周あたり最大4メガジュール(MJ)のバースト展開が可能で、これはフルパワーで11.5秒間に相当する。しかも従来規則と異なり、バッテリー容量さえあれば、この4MJ展開を1周のうちに何度でも使用できる。従来のように1回限りではないのだ。

ここで鍵となるのが「回生」、つまりエネルギーの回収だ。2009年の初代KERSシステムに近い形で、減速時にMGU-Kが「リチャージ」モードに入り、実質的にリアアクスルをブレーキする。規則では1周あたり最大9MJの回収が認められており、継続的にはフルハイブリッド出力を25秒間使用できる計算だ。

しかし、サーキットによってはブレーキングポイントが少なく、リア側の制動だけでは十分なエネルギーを回収できないケースもある。F1サーキットでの全開率は48パーセントから84パーセントと幅があるため、チームはエネルギー使用を極めて慎重に検討する必要がある。

そこで注目されるのが、パーシャルスロットル時のエネルギー回収だ。全開ではない状態でアクセルを踏んでいるとき、エンジンが余分なトルクを発生させ、それをERS-Kが吸収する。ドライバーの要求トルクは満たしつつ、同時にバッテリーが充電される仕組みだ。ただしこれは通常より多くの燃料を消費するため、長時間のレース使用には不向きだが、予選や戦術的使用には大きなメリットがある。

チームは何百万通りものシミュレーションを重ね、各サーキット、各ラップで最適なエネルギー戦略を導き出す必要がある。例えばバクーの最長ストレートは約15秒に及ぶが、4MJのバースト展開は11.5秒分しかない。チームは11.5秒時点でリフト&コーストを選ぶのか、それとも出力を抑えて4MJをストレート全体に持たせるのか。この区間ではストレート用アクティブエアロモードが作動するため、必要出力は低減するが、それでも複雑な判断を迫られる。

予選やレース中の戦術的使用では、前周で9MJ(あるいはそれ以上)まで充電し、その周で展開しつつ、さらに同一ラップ中に9MJを回収することも理論上可能だ。ただしそれは、バッテリー容量が十分であり、かつラップの一部で9MJを回収できる能力がある場合に限られる。

この結果、チームごとに異なる考え方が生まれ、ラップごとにドライバーが使えるオプションも変わる。非常に興味深い戦術的バトルになるはずだ。

燃料40キロ減が生む軽快なバトルと効率の追求

内燃エンジン側にも大きな変化がある。燃料搭載量が110キロから70キロへと40キロも削減されるのだ。これにより、スタート時のマシンは大幅に軽量化され(車体重量自体も30キロ削減され、合計70キロの軽量化)、序盤のバトルやタイヤマネジメントに好影響が期待される。2014年にも同様の大幅削減があったが、当時はあまり注目されなかった。しかし今回は、ハイブリッドシステムの強化と相まって、よりドラマチックな変化をもたらすだろう。

瞬間燃料流量の測定方法も変更される。従来のキログラム毎時ではなく、メガジュール毎時で測定されるエネルギーベース方式に変わり、100キロ/時から約70キロ/時(3000MJ/時)への削減に相当する。さらに最大燃料圧も500バールから350バールへ引き下げられる。

これらの制約の中で、各メーカーは効率の限界に挑むことになる。FIAは燃焼に焦点を当てており、エンジン下部構造には多くの制限がある。1.6リッター90度V6エンジン自体のアーキテクチャは継続され、基本的な搭載容積やマウントポイント、クランクシャフト中心線も変わらない。

しかし、スプリットターボの禁止、可変長インレットの廃止、そして持続可能な合成燃料への切り替えなど、細部の変更が設計に大きな影響を与える。圧縮比の上限も新しい文言で再規定され、上死点での容積比は16対1となる。ターボエンジンとしては高い数値だ。

予燃焼室や圧縮着火技術は高圧ほど効率が高いため、各チームは可能な限り高圧で運転したい。規則では室温での幾何学的圧縮比を規定するが、実際のエンジンは高温で作動し、金属は熱膨張するため、実運転時の圧縮比はさらに高くなる可能性がある。一部チームがさらに高い比率で走らせているとの噂もあり、材料変更、製造技術、あるいは別の機械的工夫がある可能性も指摘されている。

安全性を重視した電装系レイアウトの変更

機械的・レイアウト面でも重要な変更がある。これまで同様、バッテリー(ES)と制御電子機器(CE)はサバイバルセル内に配置されなければならないが、2026年からはMGU-Kもそこに収める必要がある。これは重大事故時に高電圧系統をマーシャルや観客から遠ざけるための安全対策だ。

MGU-Kは大型化し、最低重量は7キロから16キロへ増加する。エンジンとのギア接続部には別途4キロが割り当てられる。興味深いことに、MGU-Kの性能は現在のフォーミュラEと同程度に達する。バッテリーも大型化し、最低重量規定がある。これはメーカーが重量削減に過度に集中するのを防ぐためで、PUメーカーにもチーム同様に予算制限があることを考慮した措置だ。

これらの電装系は冷却が必要だ。バッテリーは誘電流体(オイル)で、制御電子機器とMGUは一般的に水系冷却を使用する。大型化によりラジエーターも大型化するが、これらは低温ラジエーター(LTR)で、流体温度は約50度と、内燃エンジンの120度超よりはるかに低い。この冷却系統の配置は、サイドポッドやセンターライン冷却のレイアウトに影響を与える。

パッケージングの進化が空力を変える

パワーユニット全体はよりコンパクトになる。特にエンジン上部のインレットプレナムが小型化し、MGU-Hと可変インレットの廃止でVバンク内にスペースが生まれる。密結合型の従来ターボへの回帰は、メルセデスとホンダにとって変化だが、フェラーリはもともとスプリットターボを採用していなかった。

今年はレッドブル・パワートレインズとアウディも含め、全メーカーがターボをエンジン後方、ギアボックスベルハウジング内に配置する可能性が高い。一次排気からターボ、そしてチャージエア配管からインタークーラーまでのレイアウトは各社で異なる。

特に興味深いのは、3Dプリント金属製インタークーラーの活用だ。2022年以降、この技術が使用可能になった。従来の空冷式がサイドポッド全体を占有していたのに対し、マイクロチューブ式水冷は作業場の青いペーパータオルロールほど、最新の3Dプリント版はトイレットペーパー程度の大きさで済む。

MGU-Hと可変インレットの廃止でVバンク内にスペースが生まれ、インレット間にクーラーを配置できる。非常にコンパクトな設置が可能だ。水冷式クーラーには別途ラジエーターが必要だが、小型の低温ユニットであり、エンジン上部の他のLTRとともに容易にパッケージできる。

こうした機械的な変更は、結果的に空力設計にも影響を及ぼす。冷却系統の配置が変われば、サイドポッドの形状も変わり、気流のマネジメントも変わる。パワーユニットの革新は、マシン全体の設計思想を変える起爆剤となるのだ。

ファンにとっての「分かりやすさ」が最大の課題

この複雑な新システムが成功するかどうかは、ファンがどれだけ理解し、楽しめるかにかかっている。エネルギーマネジメントの戦術的バトルは非常に興味深いが、テレビ中継でどう伝えるかが大きな課題だ。

4MJ展開のタイミング、回生ブレーキの使い方、パーシャルスロットルでの充電戦略――こうした目に見えない戦いを可視化し、解説していく工夫が求められる。ファンがこれらの戦術をどう理解し、観戦体験としてどう伝えられるかが、規則成功とテレビ放送の鍵になる。

グラフィックやテレメトリーデータの活用、解説者による分かりやすい説明、そしてチーム無線の効果的な使用など、放送側の創意工夫が試される。エネルギーフローを可視化するインフォグラフィックや、バッテリー残量をリアルタイムで表示する技術など、新しい放送手法の開発も期待される。

2026年シーズン開幕まで、各チームの技術開発競争はさらに激しさを増すだろう。電動化と効率化を両立させながら、いかに速く、いかに戦略的にレースを戦うか。新時代のF1は、エンジニアリングの粋を集めた知的格闘技としての魅力をさらに深めようとしている。

轟音が戻り、戦略は複雑化し、技術は新たな高みへ――。F1の「50対50革命」が、モータースポーツの未来を切り拓く。持続可能性と競技性を両立させる挑戦は、まさに現代のモータースポーツが直面する最大のテーマであり、2026年規則はその一つの解答となるはずだ。