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偶然ではない勝利:RB21の進化と実力_エミリア・ロマーニャGP観戦記

2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP(イモラ)は、レッドブルとマックス・フェルスタッペンの巻き返しが光った週末となった。金曜のフリー走行では、マクラーレン勢のレースシミュレーション中に次々と抜かれるフェルスタッペンの無線が話題となり、レッドブルの劣勢を予感させたが、決勝ではその流れを完全に逆転。スタートから主導権を握り、戦略・マシン性能・タイヤマネジメントのすべてにおいてマクラーレンを凌駕した。

スタートで決した主導権争い
ポールポジションはオスカー・ピアストリ、2番手にフェルスタッペン、ノリスは4位からのスタートだった。フェルスタッペンは2番手からのスタートだったが、加速は伸びず、スタート直後の勝負は決まったかと思われたが、タンブレロの飛び込みで、巧みにアウト側からのブレーキングで一気にトップに浮上した。ピアストリはオーバーテイクを防ぐために、イン側を抑えたことで、やや慎重すぎるブレーキングを強いられ、これがフェルスタッペンの大胆な仕掛けを許す結果となった。

この1周目の攻防が、レースの構図を決定づけた。以降、フェルスタッペンはすぐにDRS圏外にまでギャップを広げ、マクラーレン勢にリードを許す隙を与えなかった。

戦略面での分岐:VSCが生んだ差
マクラーレンは早めの戦略変更に動き、13周目にピアストリをピットインさせた。この時点はまだ1ストップになるか2ストップになるかの判断が難しい状態だった。ピアストリはタイヤが厳しくなっていることを無線で訴えたので、チームはタイヤ交換をして2ストップを選択した。だが復帰後はトラフィックに阻まれ、アンダーカットは成功せず。ノリスもジョージ・ラッセル(メルセデス)を抜くのに手間取り、レッドブルとの差は拡大していった。

一方フェルスタッペンは、29周目までミディアムタイヤで引っ張ることに成功。直前の28周目にエステバン・オコンがコース上でマシントラブルに見舞われたことでバーチャル・セーフティカー(VSC)が導入され、レッドブルはこのタイミングでピットストップを敢行。フェルスタッペンは「安価なストップ」でコースに復帰し、ノリスとのギャップを一気に倍以上に広げた。

しかしこれは単なる幸運ではなかった。これまでタイヤに厳しいと言われていたレッドブルがマクラーレンよりも長くタイヤを持たせて走ることができたから、訪れた幸運であり、実力でもぎ取った幸運と行っても間違いではなかった。実際、ノリスはこの1周前にタイヤ交換をしており、このセーフティーカーの幸運を受け取ることができなかった。

この戦略的優位性はフェルスタッペンにとっては大きかったが、それだけが勝利の要因ではない。その理由は、この最初のタイヤ交換で得た大きなギャップを、レース終盤のセーフティーカー登場で吐き出したからである。

セーフティカー後の“意外な展開”
レース終盤、アントネッリのマシン停止によりセーフティカーが導入され、トップ3(フェルスタッペン、ピアストリ、ノリス)のギャップは再びリセットされた。この瞬間、多くのファンや解説者が「最後は3台による接近戦が展開される」と予想したはずだ。しかし、その期待は裏切られる。

再スタート直後、フェルスタッペンは圧倒的な再加速でリードを再構築。新品のハードタイヤを装着していたフェルスタッペンに対し、ノリスはすでに使用済みのハード、ピアストリは新品ながら18周走行済み。タイヤ状態の差は明らかだった。

ノリスがピアストリを抜くのに4周を要し、その間にフェルスタッペンは4秒以上のリードを築いた。だが注目すべきはその後。ノリスがクリアエアを得て単独走行となった後も、フェルスタッペンとの差はほとんど縮まらず、むしろ最大6秒近くまで広がった。

この展開は、フェルスタッペンがレース終盤でもタイヤを的確に管理しながら高いペースを維持していたことを意味する。余力を残したまま逃げ切ったその走りからは、単なる偶然や戦略だけではない「実力の差」が浮かび上がった。

RB21の進化──空力とセットアップの最適化
今回の勝利を語る上で外せないのが、レッドブルRB21の改善だ。マイアミで導入された新型フロアに加えて、サイドポッド、エンジンカバーといった空力アップグレードが投入されたイモラで、RB21は金曜と日曜でまるで別のマシンのような挙動を見せた。

今季のレッドブルは「進入時にアンダーステア、脱出時にオーバーステア」という不安定なバランスに悩まされていたが、今回のアップデートとセットアップ変更によって、この傾向は大きく改善。とくにリアタイヤへの負担が軽減され、タイヤの温度上昇を抑えることに成功した。

レッドブルのテクニカルディレクター、ピエール・ワシェは「金曜と比べて明らかにタイヤの摩耗が違っていた。まだ完全に理解はしていないが、パッケージ全体として正しい方向に進んでいる」とコメントしており、RB21は明確な一歩を踏み出したようだ。

マクラーレンの評価と課題
マクラーレン側も、イモラでの敗因を冷静に分析している。アンドレア・ステラ代表は「イモラは高速サーキットではあるが、マイアミとは異なる路面特性と温度条件だった。レッドブルのペースには正直驚かされた」と認め、ハードタイヤの競争力不足が戦略的柔軟性を欠いたと振り返る。

「2ストップ戦略を採用したが、ピアストリのハードタイヤはミディアム勢と比べてもアドバンテージがなかった。これは我々の想定とは異なる挙動だった」と語り、今後のデータ分析とタイヤ特性の理解が必要だとしている。

勝利の本質:レッドブルは“実力”で上回ったのか?
結果的にフェルスタッペンの勝利は、スタートでの好判断、VSCとSCのタイミング、ライバル同士のバトルという要因が重なったとはいえ、それだけでは説明がつかない。むしろ、RB21のマシンパフォーマンスとフェルスタッペンの冷静かつ的確なドライビングによって、マクラーレンを“実力で”凌いだという事実が強く浮かび上がる。

とはいえ、今後このパフォーマンスが他のサーキットでも再現可能かは依然として不透明だ。レッドブル内部でも、なぜ日曜に急激にペースが向上したのかを完全に理解しきれているわけではないという。イモラという特殊なサーキット特性が、この勝利を後押しした可能性も否定できない。

RB21の真の進化が確認されるのは、次戦以降の多様なコンディション下においてである。そして、再び主導権を奪おうとするマクラーレンとの戦いが、2025年シーズンのタイトル争いをさらに熱くするのは間違いない。


このエミリア・ロマーニャGPは、2025年シーズンを振り返るときに「分岐点」として語られる可能性がある。ちょうど2024年マイアミGPが、マクラーレンが流れを変えたレースとして記憶されるように。

「我々にとって大きな意味のある週末だった。まだ完全には掴めていないが、もしこのアップデートが他のサーキットでも機能するなら、面白くなる」とホーナーは語った。

次戦モナコは、全く異なる特性のコース。ここでまた勢力図は一変するかもしれない。

だが少なくとも、イモラにおいては──レッドブルとフェルスタッペンは、あらゆる面でマクラーレンを上回っていた。そしてそれは、偶然ではなく、確かな“実力”だった。