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メキシコの支配者ノリス、完璧な週末が再びタイトル戦線を沸騰させた:メキシコGP観戦記

2025年メキシコGP――標高2,200mの薄い空気の中で、ランド・ノリスが圧倒的な速さを見せつけ、4月以来となるチャンピオンシップ首位に返り咲いた。だがその背後では、マックス・フェルスタッペンとオスカー・ピアストリが静かに牙を研ぎ、タイトル争いは再び沸点へと向かっている。

■ 迷いを断ち切ったマクラーレン

ここ数戦、マクラーレンのMCL39は「気まぐれなマシン」と評されてきた。高速サーキットでは強さを発揮しつつも、バンピーな路面や低速区間ではセットアップに神経を使い、ピアストリもノリスもリズムを崩すことが多かった。だが、標高の高いメキシコは、熱管理とグリップ不足という過酷な条件が揃う。マクラーレンにとっては「流れを取り戻すための試金石」でもあった。

金曜のFP2で、その兆しは早くも見えていた。両ドライバーとも序盤は苦戦したが、セッション終盤にノリスが披露したソフトタイヤでのロングランが決定的だった。ミディアムで最速だったラッセルより平均0.8秒速く、その安定感は翌日の戦略を決定づける材料となった。
そして予選。ノリスはQ1から一貫してペースを引き上げ、Q3ではルクレールを0.2秒突き放してポールを奪取。とはいえ、ターン1までの距離が長いメキシコでは、ポールポジションは必ずしも有利とは言えなかった。

■ ターン1の混沌、そして静かな支配

ノリスはスタートでうまく抜け出し、2台のフェラーリを置き去りにしたが、他のマシンたちは混乱し、4ワイド寸前の混戦が展開された。ルクレールとフェルスタッペンが芝生を横切り、ハミルトンが内側へ潜り込む中、ノリスは冷静にラインを死守。彼だけが“理想のスタート”を遂げ、混乱を後方に押し込んだ。そこからの展開は、まさに完璧だった。

ノリスはオープニング10周で2位ルクレールとの差を5秒に広げ、1分22秒前半の安定したペースを刻み続けた。対してオーバーヒートに悩まされたフェラーリ勢は早々に「リフト・アンド・コースト」を強いられ、ブレーキ温度の管理に追われる始末。マクラーレンが持つ高地特有の冷却効率の優位が、レースを決定づけた。

アンドレア・ステラ代表は「ランドは低グリップ環境でタイヤを自然に使えるドライバーだ。彼のスタイルはこのコンディションに完璧に合致していた」と語る。実際、彼のブレーキングは早すぎず遅すぎず、MCL39の後輪荷重を最大限に活かすものだった。ピアストリが「少し無理に合わせている」と感じていたのとは対照的に、ノリスはマシンと一体になっていた。

■ 完璧なペースマネジメント

34周目にピットインしたノリスは、ミディアムタイヤでも驚異的な安定感を見せた。ライバルたちがグレイニングに悩まされる中、彼のペースは1分21秒中盤を維持。フェルスタッペンがソフトタイヤで同等のペースを刻んでいたことを考えると、これは異次元だった。「ランドの週末全体の支配力は、昨年のザントフォールトやシンガポールを思い出させる」とステラは振り返る。実際、この日のノリスには一切の隙がなかった。

フェラーリのルクレールはミディアムタイヤの寿命に苦しみ、終盤には1分22秒台へと後退。仮にスタートでトップに立っていても、レースをコントロールできる余地はなかっただろう。ノリスはマシンの強みとコンディションの両方を完全に掌握していた。

■ フェルスタッペンの「マックス・マジック」

一方、フェルスタッペンは予選での不振を挽回すべく、異なる戦略に賭けた。高ダウンフォース仕様を試したFP3では直線速度を失い、最終的にセットアップの方向性を決めきれず。結果としてレース序盤は苦しい展開となった。

しかし、彼は諦めなかった。ミディアムで消耗した後、ソフトに履き替えた瞬間からペースが一変。1分21秒前半を連発し、残り23周で13秒差を5周で10秒まで縮めた。スタジアムセクションでのステアリング操作はまるで精密機械のようだった。「ソフトタイヤでの彼の走りは純粋なアートだった」とレッドブル関係者は語る。レース中の車高変化で底打ちが減り、空力バランスが安定したことも後押しした。

ただ、運は彼に微笑まなかった。終盤、サインツのリタイアで導入されたVSCが長引き、DRS圏内に入っていたルクレールを攻める機会が失われた。レース後、ルクレールは「もしあれがなければ抜かれていたかもしれない」と正直に語っている。

それでもフェルスタッペンは、クールだった。「勝つ時もあれば、そうでない時もある。今日は後者だ。でも僕らは確実に速さを取り戻している」。2位にはなれなかったが、予選での不調からすれば、3位は「勝利に等しい」リカバリーだった。

■ ピアストリの苦闘と希望

タイトルを争うもう一人、オスカー・ピアストリは週末を通じて苦しんだ。低グリップ路面ではノリスほど自然にトラクションを得られず、マシンを「滑らせながら速く走る」ことが求められた。彼自身も「この条件では、僕のドライビングが自然に機能しない」と認めている。

それでも、冷静な戦略判断が彼を救った。2ストップを選択した結果、終盤にはハースのベアマンを射程圏に捉えていたが、こちらもVSCの影響で仕掛ける機会を失う。5位フィニッシュは物足りなく見えるが、内容的には“最低限のダメージ”に抑えた形だ。
ステラは「ランドの方がこの路面で強いのは確かだが、オスカーはデータを吸収するスピードが非常に速い。次戦ブラジルでは確実に反撃できる」と語った。

■ 勝者の成熟と、迫る最終章

ノリスがタイトルリーダーに返り咲いた今、トップ3の差はわずか36ポイント。ピアストリはわずか1ポイント差で2位、そしてフェルスタッペンが背後に迫る。次戦ブラジル、そしてカタール、ラスベガス、アブダビ――すべてが得意コースである3人の戦いは、まさに「心理戦」となるだろう。

メキシコで見せたノリスの勝利は、再び彼の自信を蘇らせた。そのノリスに対して、ピアストリが若さと速さで追いすがり、フェルスタッペンが経験と冷徹さで圧をかける。残り4戦――この三つ巴は、近年まれに見るチャンピオン争いへと突入した。