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フェルスタッペンだけが速い理由:特定のドライバー向けのマシンは存在するのか?

「ドライバーに合ったマシン」という幻想

F1では定期的に、同じ議論が蒸し返される。「このマシンは、あのドライバー向けに作られているのではないか?」

マックス・フェルスタッペンとレッドブル、あるいはミハエル・シューマッハとベネトンの関係性は、その典型例として語られてきた。だが、この問い自体が、設計とセットアップ、さらには「才能」という異なる概念を混同している。

設計者の視点に立てば、答えは驚くほど単純だ。「ドライバーに合うかどうか」より先に、「物理的に最も速いかどうか」がすべてである。

設計とは“性格”を作る行為ではない

F1マシンは、性格を持たせるために設計されるわけではない。重量、剛性、空力効率──これらを極限まで突き詰めた結果として、結果的に“癖”が生まれるにすぎない。

とりわけ空力性能は、単一のピーク値では評価できない。重要なのは、速度域や姿勢変化に応じて、ダウンフォースやバランスがどう変化するか、すなわち「空力マップ」だ。設計者はこのマップの中で、ラップタイムを最大化する軌道を描こうとする。

しかし、その軌道は往々にして「不安定」であり、「神経質」であり、「扱いにくい」。ここで初めて、ドライバーの問題が立ち上がる。

サスペンションは“空力を制御する装置”である

現代F1において、サスペンションはもはや路面追従性だけの装置ではない。
上下方向の剛性はライドハイトを決定し、ライドハイトはそのまま空力マップ上の位置を決める。つまり、サスペンション設定とは「マシンを空力マップのどこに置くか」を決める作業だ。

一方、ロール剛性はタイヤへの荷重配分を支配し、コーナリング中のグリップ感覚を大きく変える。これらはすべて、ドライバーがステアリングを切った瞬間に、どれだけ鋭く、どれだけ予測可能にマシンが反応するかに直結する。一般論として、反応が鋭いマシンほど速い。だが同時に、反応が鋭いマシンほど、破綻の入口も近い。

戦闘機の比喩が示す本質

F1マシンが戦闘機に例えられる理由は明確だ。どちらも「安定性を削って性能を得る」乗り物だからである。

ただし、ここに決定的な差がある。戦闘機は、意図的に空力的に不安定に設計され、その不安定さをコンピューターが常時補正している。パイロットの入力は抽象化され、「どう動きたいか」を伝えるだけで済む。

F1マシンには、その逃げ道がない。不安定さを最終的に制御するのは、人間の感覚と反射神経だ。重要なのは、最大Gそのものではなく、Gが変化する速度である。その変化を察知し、修正操作を入れるまでの時間こそが、ドライバーの資質を露呈させる。

「限界の位置」はドライバーごとに違う

ここでようやく、「ドライバーに合ったマシン」という言葉の正体が見えてくる。設計者が特定のドライバーを想定してマシンを作ることは、基本的に不可能だ。しかし、完成したマシンをどこまで不安定な領域に持ち込めるかは、ドライバーによって明確に異なる。

パフォーマンスエンジニアの仕事は、その境界線を見極めることにある。ある空力マップ上の軌道が、ドライバーAには成立するが、ドライバーBには成立しない──そうした差は、実際の走行データとドライバーのフィードバックから浮かび上がる。

もしドライバーAが速く走れるなら、チームはさらに踏み込み、攻めたセットアップで走らせる。そうするとドライバーAは更に速く走れるが、ドライバーBは遅くなる。それが結果的に、「ドライバーA向けのマシン」に見えるだけの話だ。シューマッハがベネトンで示したのも、フェルスタッペンがレッドブルで示しているのも、この構造に他ならない。

硬さ、低さ、そして代償

グラウンドエフェクト時代のF1では、この傾向がさらに極端になった。
マシンは低く、硬いほど速い。しかしそれは、ポーポイズという激しい上下動を引き起こす。

昨季、フェラーリのドライバーが高速域で激しく揺さぶられていた光景は、妥協なき選択の結果だった。快適性を犠牲にしてでも、ラップタイムを取りに行く──それがF1だ。

耐えられるドライバーがいる限り、エンジニアはその方向へ進む。

才能とは「不安定さを成立させる能力」

結局のところ、トップドライバーの才能とは何か。それは、安定したマシンを速く走らせる能力ではない。不安定なマシンを、不安定なまま成立させられる能力である。

最速のマシンは、いつだって“嫌な性格”をしている。その嫌な部分を感じ取り、恐れず、制御し、なおかつラップタイムに変えてしまう──そこにしか、時代を代表するドライバーは存在しない。

だからこの議論は、これからも繰り返されるだろう。そしてそのたびに、答えは同じ場所に戻ってくる。問題はマシンではなく、それを成立させるドライバーの側にある。