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雷鳴のごとく:ノリスが制した嵐のインテルラゴス:ブラジルGP観戦記

ブラジル・サンパウロ。その空模様は、まるで今季タイトル争いの縮図だった。予測不能、そして一瞬で情勢が変わる。だが、そんな混沌の中でひとり、ランド・ノリスだけが“静寂”を保っていた。

嵐を切り裂くポール・トゥ・ウィン

インテルラゴスほど、運と判断が試されるサーキットは少ない。標高800mの薄い空気、丘陵地のアップダウン、そして突如として訪れるスコール。予選では路面コンディションが刻々と変わり、Q3で完璧な一発を決めることは至難の業だった。それでもノリスは、1本目のアタックを失敗した後、2本目で完璧なラップをまとめ上げた。最も難しい条件下で、マシンから最高の性能を引き出してみせたのだ。

チーム代表アンドレア・ステラはこう語る。「ランドはグリップが低い路面でのトラクションを感じ取る能力が非常に向上している。それは彼にとって大きな成長ポイントだ」。

確かにオースティン、メキシコと連戦を重ねる中で、ノリスのドライビングは安定感を増していた。対照的に、オスカー・ピアストリは“滑る”サーキットで苦戦していた。彼のスタイルは高いグリップの中でフロントを積極的に入れていくタイプ。しかし、ブラジルの路面はそれを許さず、タイヤ温度のウィンドウにも悩まされた。その差が、0.3秒以上の予選タイム差となって現れた。

勝敗を分けた6周目のクラッシュ

週末の流れを決定づけたのは、スプリントでのピアストリのアクシデントだった。濡れた縁石を踏んでコントロールを失い、マシンは無情にも壁に吸い込まれた。タイトル争いは、1ポイント差から一気に9ポイントへ。この“6周目の悲劇”は、シーズン後半を象徴する一幕となった。

日曜決勝では、ピアストリはリベンジを期して挑んだ。しかし、再スタートでの混乱が彼を再び襲う。メルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリ、そしてフェラーリのシャルル・ルクレールとの三つ巴。ピアストリがインを突こうとしてロックアップし、アントネッリと接触。進路を変えたアントネッリがルクレールに接触し、フェラーリの左フロントタイヤはパンクし、ホイールから外れ、アップライトはサスペンションアームから今にも外れそうだった。

この接触でピアストリはアントネッリの前に出たが、この接触による10秒ペナルティを受け、優勝争いから脱落。終盤にジョージ・ラッセルを4位争いで追い詰めたが5位にとどまり、ノリスにさらに15ポイント差をつけられ、タイトル争いは24ポイント差に広がった。

レース後、彼は冷静にこう語った。「間違いなく自分の週末ではなかった。グリップを感じられないと、リズムも失ってしまう」。この瞬間、タイトル争いの流れは完全にノリスへと傾いた。

フェルスタッペンの逆襲

その一方で、マックス・フェルスタッペンの走りは驚異的だった。Q1敗退というレッドブルにとって2006年以来の悪夢から始まった週末。セットアップを外し、インフィールドセクターでバウンシングに悩まされたRB21はまったく別のマシンのようだった。だが、フェルスタッペンは諦めなかった。パーツを交換、マシンのセッティングをほぼ全面的に見直し、パワーユニットも交換して、決勝レースに臨んだ。

「スプリントでは4位だったが、我々の狙った最適なウィンドウには入っていなかった」とロラン・メキーズは振り返る。「だからリスクを取って変更したが、それは失敗だった。ただ、それが我々のやり方なんだ。我々はリスクを取ることで勝ちに行く。今回それがうまくいかなかった。ただ、それだけのことだ」。

サスペンションの調整に加え、フェルスタッペンはフロアも旧仕様に変更していたが、それも裏目に出た。結局、再び変更され、ようやく“ちょうどいい”セットアップが見つかった。その賭けは結果的に的中した。

フェルスタッペンは、序盤に起きたアントネッリ、ルクレール、ピアストリの接触で出たデブリによるタイヤのパンクを疑い、ハードタイヤでのスティントを早めに終えた。だが、これがむしろ幸いし、性能が乏しかったハードタイヤから脱することができた。中団を蹴散らした後は、マクラーレン勢やメルセデス勢と同じ戦略になり、ミディアムで怒涛の追い上げを見せる。

ノリスがソフトに履き替えるとき、フェルスタッペンはその前に出た。しかしノリスはすぐにオーバーテイクし、フェルスタッペンも5周後に再度ピットインしてリスタート。再び中団を蹴散らし、表彰台圏内へ。

理論上、フェルスタッペンは再度ピットする必要はなかった。ソフトを履くノリスは確実にもう1回ストップが必要だった。フェルスタッペンは1分13秒台のラップを連発し、ノリスのファイナルスティントに向けた20秒のマージンを削り取っていった。オリバー・ベアマンを抜いて4位に浮上したとき、実質的にレッドブルが優位に立っていた。だがフェルスタッペンの履くミディアムタイヤも確実にデグラデーションが進みつつあった。

だからマクラーレンは、両者ともに再ピットが必要と見ており、それほど焦っていなかった。ミディアムが35周ももつかは疑問で、仮に持ったとしても著しいデグラデーションで大きくタイムを落とすことが予測されていた。

ソフトで20周を走ったノリスは最後のピットストップで新品ではないミディアムに履き替えた。このミディアムはスタート時に使った新品セットほど良くなかったが、それでもソフトよりは確実に良いタイヤだった。このピットストップでノリスはフェルスタッペンに8秒差を与えたが、同じコンパウンドでのスティントに16周の差があった。数周でノリスは6.5秒差まで詰め寄り、レッドブルは勝利は無理と判断し、フェルスタッペンをピットインさせてソフトで最後のプッシュに賭けた。

「勝てる状況ではなかったと思う」とメキーズは後に説明。「最終的な順位は分からないが、ピットウォールで判断した。そして表彰台に挑むチャンスを得た。我々はそれを手に入れた。あと1周あれば2位も狙えたかもしれないが、1位はタイヤのデグラデーションを考えると無理だった」。

ステラもレッドブルのピットを予測していたとし、「彼らがストップしてくれて少し楽になった」と冗談を交えながら、「今日のデグラデーションは非常に激しく、タイヤは完全にゴムがなくなってしまった。レッドブルもそのリスクを理解していたし、新品のソフトがあった以上、あの判断は正解だった」と語った。

戦略と冷静さの勝利

マクラーレンの戦略は、決して派手ではなかった。だが、状況判断の正確さでは群を抜いていた。ミディアム→ソフト→ミディアムという2ストップ。“理論上の最速”ではなく、“確実に勝つ”ための選択。タイヤデグラデーションが激しいコンディションでは、リスクを取らない勇気が必要だ。

ノリスはミディアムでの終盤スティントに自信を持っていた。「新品じゃなかったけど、十分に持たせられると思ってた。フェルスタッペンが追ってきたけど、焦りはなかった」。その言葉の通り、彼のペースマネジメントは完璧だった。残り10周、ギャップは6.5秒。だがその差は縮まらず、むしろ安定していた。デグラデーションを見極め、必要以上にプッシュしない。それは昨年の彼にはなかった落ち着きだ。

若き挑戦者の夜明け

ブラジルGPのもうひとつの主役は、アンドレア・キミ・アントネッリだった。わずか18歳のルーキーが、あのフェルスタッペンを最後まで抑えきった。最後、フェルスタッペンがDRS圏内に入ったが、アントネッリは非常に巧みに彼を抑えた。セクター2ではRB21がついてくるのが難しいことを知っていた彼は、上り坂が続く部分でバッテリーを使ってギャップを広げ、ターン12の脱出で0.7〜0.8秒以上の差を作ることを意識した。

そのためDRSが有効になっても、ブレーキングポイントの手前で差が0.4秒未満になることはほとんどなかった。最終ラップでは特に強烈なプレッシャーがフェルスタッペンからかけられたが、アントネッリはそれに耐えて見事に2位を守り切った。

嵐のあとに残ったもの

ノリスは勝利を重ねながらも、決して慢心しない。「フェルスタッペンの追い上げを見て、まだ自分たちにはやるべきことがあると痛感した」。そう語る声には、チャンピオン争いをリードする者の警戒感が見て取れる。チャンピオン間違いなしと思われていたピアストリを見ると、タイトルが決まるまで油断は許されない。

かつて天候が支配していたインテルラゴスを、いま支配しているのは冷静さと的確な判断。ブラジルGPの“嵐”は、予報通りには訪れなかった。しかし確かに、F1の勢力図を揺るがすほどの“新しい風”が吹いた。ランド・ノリスが巻き起こしたその風は、まだ誰にも止められそうにない。