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激突した両雄と理由 サウジアラビアGP観戦記

SCや4回のVSC、そして二度の赤旗再スタート。タイトル争いする二人のドライバーの接触。波乱続きになった初開催のサウジアラビアGPを振り返ります。

激しくぶつかり合うハミルトンとフェルスタッペン

▽特殊なレイアウトのジェダサーキット
初開催のサウジアラビアGP。このサーキットの特徴はエスケープゾーンがほとんどないことです。にもかかわらず高速サーキットです。なのでほんの少しのミスで大きなクラッシュに繋がります。特にターン1の入口は広くて三台同時に入っていけるくらいの幅があるのですが、最初のシケインを超えたターン3から先は急にコース幅が狭くなっていて、とても危険でした。実際ペレスが接触してリタイヤしたのは、そこでした。縦に長いレイアウトに長いストレートに、壁が迫るレイアウトはカナダに似ていると思いました。

初開催となったジェダサーキットのレイアウト

▽予選で自滅したフェルスタッペン
予選Q3でのフェルスタッペンの走りは見事でした。彼の能力の高さを見せつけてくれました。またホンダはこの最後のアタックに向けてフルパワーを使わせました。最終コーナー手前まではハミルトンを大きく上回るタイムで来ます。ポール確実と思われたのですが、最終コーナーの入口でほんの少しだけ左フロントタイヤをロックさせます。普通のサーキットであれば、全く問題がなかったでしょう。立ち上がりの縁石への乗り上げが少し大きくなるくらいです。ただこのサーキットにはエスケープゾーンがありません。モナコのようにすぐに壁です。そんなに強くは当たらなかったのですが、リアサスペンションアームが破損して、その場でフェルスタッペンはストップ。

予選は3位となりました。フロントロウは二台のメルセデス。最終コーナー自体はそんなに難しいコーナーではなく、ポール確実と思われただけに、衝撃の結末となりました。フェルスタッペン自身も何が起こったのかわからないと話していました。彼としてはそれまでと全く同じ位置で、同じ踏力でブレーキを踏んだ感覚だったのでしょう。ホンダのパワーが大きくて、それまでよりもほんの少し速度が出ていたのかもしれません。ただあまりにも痛いミスとなりました。ただ攻めないとタイムは出ないので、フェルスタッペンを責めるのも酷だと思います。ほんの少しの差で結果が大きく異なってしまうF1の厳しさを痛感する出来事となりました。幸い予選後のチェックではギアボックスの交換は不要と判断されました。

二度の赤旗中断で大きく動いたサウジアラビアGP

▽赤旗で幸運を得たフェルスタッペン
最初のスタートはハミルトンがイン側とボッタスがアウト側を抑えてフェルスタッペンに付け入るすきを与えません。これはメキシコGPでの失敗から得た教訓をメルセデスが活かして、事前の打ち合わせ通りの展開です。しかもスタートからターン1までは距離が短いので、フェルスタッペンはトウを使うこともできず、おとなしく3位で走るしかありません。抜きどころの少ないこのサーキットでかなり不利な展開です。

そしてレースが大きく動くのが10周目。ミック・シューマッハがターン22のバリアにクラッシュします。
ルクレールがフリー走行でクラッシュしたのと同じ場所です。これでミディアムでスタートしていたメルセデスは、残りをハードタイヤで走りきれると考えて、二台を同時にピット・インさせます。このとき2位のボッタスが遅く走ります。これは連続でタイヤ交換する時間を作るためと、フェルスタッペンとハミルトンとの差を広げておき、ハミルトンがタイヤ交換でミスがあったとしても抜かれないようにするためです。ただボッタスは数秒遅く走っただけなので、フェルスタッペンが言うようなペナルティの対象ではありません。

ここでフェルスタッペンも入ろうと思えば入れたのですが、それでは順位が3位のままです。そこでレッドブルはギャンブルを指示。フェルスタッペンをステイアウトさせます。これでフェルスタッペンがトップに立ちます。フェルスタッペンはトップに立ち、フリーエアの中で速く走れれば、ハミルトンとの差をつけて、次にまたセーフティカーが登場したときにタイヤ交換すれば、トップをキープできるという作戦です。ところがレッドブルのその作戦は発動されることなく終わりました。なんとメルセデスの二台がタイヤ交換したあとで、レッドフラッグが出されてレースは一時中断となります。

そしてご存知のように赤旗のときは、タイヤ交換が自由になります。これでフェルスタッペンは労せずしてトップに立ち、そしてハードタイヤに交換することができました。

15周目から再スタートが切られます。ところフォーメーションラップ中に2位を走るハミルトンが遅く走りフェルスタッペンとの距離を大きくとります。そのためポールの位置からスタートするフェルスタッペンは長い時間グリッドで待つことになり、当然タイヤは冷えます。こうしてハミルトンは再スタートでフェルスタッペンを抜くことに成功します。

再スタートでフェルスタッペンを抜くハミルトン

フェルスタッペンはこの時、遅いハミルトンに対して10車身以上離れるのはルール違反だと無線で話していましたが、赤旗再スタート時にセーフティカーが先導するときは、実はセーフティカーランではなくて、フォーメーションラップと同じ扱いになります。なので10車身以上離れてはダメというルールの適用は受けません。なのでハミルトンにはペナルティが出ませんでした。

フェルスタッペンは、ミラーを見てスピードダウンしてハミルトンとの距離を一定に保つ必要がありました。そうすればグリッド上でタイヤが冷えることを防ぐことができたでしょう。

スタートでフェルスタッペンを抜いたハミルトンでしたが、フェルスタッペンはターン1で譲らずにシケインをショートカットしてトップに立ちます。このとき、フェルスタッペンがショートカットして戻ってきた影響でハミルトンはスピードダウンを強いられてオコンに抜かれます。フェルスタッペンがトップになったことは許されるわけもなく、順位を戻さなければならいのですが、すぐにまたペレスとマゼピン、ラッセルが絡んだクラッシュがあり赤旗中断となります。

ここでFIAはレッドブルに対して、再々スタート時にグリッド位置をハミルトンの後ろの3位の位置にすることを提案します。これを拒否すればペナルティになるのは必至だったので、レッドブルは受け入れて、フェルスタッペンは再び3位からスタート強いられます。

ここでまたレッドブルはギャンブルを仕掛けます。なんとミディアムスタートを選択します。蹴り出しの良さに賭けて、ハミルトンを抜くのが目的です。スタートでは抜くことができなかったフェルスタッペンですが、アウト側にいたオコンに気を取られていたハミルトンは、イン側から入ってくるフェルスタッペンを防ぐことができませんでした。ここでミディアムのグリップを生かしてブレーキングを遅らせてインに飛び込んだフェルスタッペンがハミルトンを抜きました。このときオコンはシケインをショートカットしてトップを維持してしまったので、すぐにフェルスタッペンに順位を戻しています。これで目論見通りフェルスタッペンはトップに立つことに成功します。

ただこのタイヤ選択はかなり疑問でした。この日のベストレースタイヤは間違いなくハードタイヤでした。ほとんどデグラもなく長距離を走れます。だから10周目にSCが出たときにメルセデスは躊躇なく二台のタイヤをハードに替えました。当然、そのまま最後まで走る作戦です。ミディアムは1周目からデグラが発生するので、ふたつのタイヤのラップタイムはすぐに入れ替わってしまいます。

そういうわけでフェルスタッペンはハミルトンを引き離すことができません。そして37周目のメインストレートでハミルトンが抜きかけたのですが、いつものようにフェルスタッペンはターン1でブレーキングを遅らせてハミルトンのイン側をキープします。そしてそのままシケインを曲がりきれずにショートカットしてトップを維持します。当然、順位を戻さなければなりません。

二台は激突したが、そのまま走り続けられたのは不幸中の幸い

同じラップに指示されてフェルスタッペンはハミルトンを最終コーナーの手前で前に行かせようと大きく減速しますが、そこにハミルトンが激突します。なぜ二台は接触したのでしょうか。そこにはフェルスタッペンに対するハミルトンの信頼がないという問題が影響していると思います。もしハミルトンがフェルスタッペンを完全に信頼していれば、イン側から抜いていけばよいだけなのですが、このレースでもそれ以前でも何回もフェルスタッペンに押し出されているハミルトンは、彼を信頼していません。だからイン側に飛び込んでいいのかどうか、判断できずに躊躇していたのだと思います。

もし前を走っているのがベッテルやライコネンであれば躊躇することなくイン側から抜いていったと思いますが、相手がフェルスタッペンではイン側に飛び込んだ瞬間にコースを変えられたら避けようがありません。

そしてハミルトンはピットからフェルスタッペンが順位を入れ替えると伝えられていませんでした。FIAとメルセデスはこの件について話をしていましたが、バックストレートまでに伝える時間的余裕がなくハミルトンは何も知らされていなかったのです。

この時、フェルスタッペンはバックストレート終わりのDRS検知ポイントの前でハミルトンに抜かれたかったと思います。そうすれば、ホームストレートでDRSを使えます。なので最初はアクセルを戻して減速するのですが、ハミルトンがなかなか抜かないので最終的にブレーキを掛けて更に減速します。一方のハミルトンはフェルスタッペンが減速している理由がわからずに様子を見ていましたが、どうも抜けそうだと判断しアクセルを開けて左側から抜こうとしたのですが、その瞬間にフェルスタッペンもブレーキを踏んでしまったので、二台の間のスペースが消えてしまいました。そのため、二台は接触してしまいました。

ハミルトンが抜きにかかるタイミングで接触したので、ハミルトンのダメージはフロントウィングのエンドプレートだけですみましたし、フェルスタッペンのリヤタイヤもパンクすることが避けられたのは幸運でした。このダメージでハミルトンはラップあたり約0.35秒のロスを強いられましたが、彼はファステストラップを記録しているので、この日の彼がどれほど速かったかわかります。

接触した後でフェルスタッペンは加速したので、結局順位は変わらないままでした。そこで再度、フェルスタッペンはハミルトンを42周目に抜かせます。ただフェルスタッペンはバックストレートでスピードダウンしてハミルトンに抜かれたのですが、その直後の最終コーナーでハミルトンのイン側に飛び込み、また抜き返します。ハミルトンも驚いたと思いますが、実はハミルトンも2008年のベルギーGPでフェラーリのライコネンに対して、全く同じことをしているのは皮肉としか言いようがありません。

ともあれこれでフェルスタッペンはもらう必要のない5秒加算のペナルティを受けます。なのでフェルスタッペンがハミルトンを5秒以上引き離せば優勝できたのですが、もうフェルスタッペンのミディアムタイヤにはその余力を残されていませんでした。結局、その翌周の43周目のバックストレート終わりでフェルスタッペンはハミルトンに抜かれてしまいます。

フェルスタッペンを激しく追い立てるハミルトン

そしてその後、この5秒ペナルティがフェルスタッペンに重くのしかかります。ミディアムタイヤは終わりを迎えつつあったので、できればタイヤ交換して最終ラップにファステストラップを狙いに行きたかったのですが、この5秒加算のペナルティがあるせいで、フェルスタッペンがタイヤ交換すれば、この時3位を走っていたオコンに逆転されていまいます。これでフェルスタッペンはタイヤ交換をすることができずに、結果的にハミルトンがファステストラップの1ポイントを獲得。史上初めて二人のチャンピオン候補がまったくの同点で最終戦に臨みます。

今回は予選から決勝レースの最後まで、フェルスタッペンの若さがでたレースでした。その点、ハミルトンは経験からくる的確な判断が随所に光っていました。接触して止まってはダメだと言うことがわかっているし、そこが接触覚悟で飛び込んでいくフェルスタッペンとは大きく違います。またチームとしても、メルセデスはルールを熟知し的確に対応しています。とても落ち着いた対応をしていて、そこもレッドブルとの差を感じます。

泣いても笑っても最終戦。そしてホンダのラストランとなります。この長い戦いの終わりは素晴らしいレースで終わって欲しいと願います。

最後は接触やペナルティなしでの戦いを望みたいですが、多分無理だろうな。せめて両者接触リタイヤなんて結末だけは避けて欲しいですね。