マックス・フェルスタッペンは、シンガポールGPでの不調を取り返すために鈴鹿に乗り込んだ。彼はマクラーレンのオープニングラップでのアタックでさえも、ちょっとしたスパイスに変えて独走し、勝利することによってレッドブルのコンストラクターズ・ワールドチャンピオンを決定した。盛況だった鈴鹿で開催された日本GPを振り返ります。
シンガポールで一回お休みしたレッドブルだったが、鈴鹿では通常運行が再開され、レッドブルの6度目のF1コンストラクターズ選手権を確定した。シンガポールでの悪夢を忘れたかのように、マックス・フェルスタッペンがいつものように日曜日の午後にクルージングを楽しみながら勝利を目指すいつもの光景が戻ってきた。(いいか悪いかは別にして)
その1週間前にマリーナ・ベイで苦戦したレッドブルだったが、高速で流れるような鈴鹿サーキットの特徴は、彼らの持つポテンシャルをフルに発揮させた。フェルスタッペンの手にあるのは、週末を前にルイス・ハミルトンも絶賛していたスピード、信頼性、予測可能性などすべてを兼ね備えている理想のF1マシンだった。
オスカー・ピアストリはフェルスタッペンの横に並び、決勝のフロントロウからスタートしたが、マクラーレンはスタート直後、フェルスタッペンに勝負を仕掛けるチャンスはあまりないと考えていた。ランド・ノリスは、1990年に同じコーナーでアラン・プロストと激突したブラジル人ドライバーに敬意を表し、マクラーレンに勝機があるのならピアストリにターン1への進入で 「アイルトン・セナのマネをするべきだ 」と冗談交じりに提案した。
面白いことに、ピアストリはその動きを成功させるためには “完璧な “ポジションにいることに気づいた(実行には移さなかったが)。フェルスタッペンは最初から2番手スタートのピアストリを意識して右側を向けてグリッドについた。彼のスタートはマクラーレンの2台に対してわずかに遅く、しかもイン側にマシンを寄せたので少し失速し、マクラーレンの二台はフェルスタッペンに襲いかかる。
フェルスタッペンはピアストリを意識し、前に行かせないようにするためにイン側にギリギリ一台分のスペースを残し、寄せていく。すると当然アウト側にスペースができる。そのスペースにこちらも抜群のスタートを見せたノリスが走ってくる。
ピアストリがイン側、ノリスがアウト側を走行していたため、フェルスタッペンはどちらのサイドを守るかの選択を迫られたが、気がついたときにはノリスは横に並び掛けていて、さらに前に出ようとしていた。
ノリスはオープニングコーナーの飛び込みで、一時的にフェルスタッペンの前に出ていたが、少し突っ込みすぎてインサイドを空けてしまった。そこを抜け目のないフェルスタッペンが飛び込んできて、ターン2でレーシングラインをキープし、リードするために必要なグリップを得た。
「右のミラーを見ると、オスカーが迫ってくるのが見えたんだけど、同時に左のミラーを見ると、ランドが本当に迫っていた」とフェルスタッペンは振り返った。「僕はオスカーを締めだそうとしたけど、彼はまだそこにいて、そのとき左側からランドがもっとスピードを上げてくるのが見えたんだ。それから彼は少し右に動いて、僕は「これ以上右に行けない!」って思った。だからまっすぐ走ろうとしたんだけど、運良く何も起こらなかった」
「すべてが接近戦になったが、これがレースだし、これがスタートだよね。ターン1とターン2でもいいバトルができた。アウトサイドではなく、通常のレーシングラインを走れたから、ターン2で少しグリップがあったのはラッキーだったと思う」
フェルスタッペンには抜かれたが、ノリスはピアストリの前に出ることに成功した。フェルスタッペンは週末をを通じて発揮してきた第1セクターでの圧倒的なペースを再び見せつけて、すでに逃げ始めていた。しかしスタート直後の中団の混乱でターン1手前にデブリが散乱したので、これを回収するためにセーフティカーが登場して、レース開始直後に仕切り直しになった。
いつものようにフェルスタッペンがSC後のリスタートを成功させ、彼はDRS圏外に逃げ出すためにその後の2ラップでマクラーレンに2秒近い差をつけ、タイヤ交換時のためにさらなるリードを作ろうとしていた。
鈴鹿の週末で高いデグラデーションが見られたのは大きく三つの理由がある。表面が粗くタイヤへの攻撃性が高い路面、高い負荷の掛かる高速コーナー、そして路面温度の高さである。今年の日本GPは開催月が9月に前倒しになったことと、異常な高温が続いていたので、路面は熱を帯びてタイヤのデグラを加速させた。
鈴鹿に来る前は各チームはワンストップでいけるのではないかと楽観視していたが、フリー走行が始まってすぐにそれが無理だということが明らかになった。なのでほとんどのチームが金曜日の時点でハードタイヤをセーブしていた。(ハードタイヤは2セットしか支給されないので、フリー走行で使ってしまうと決勝レースで使えるのが1セットになってしまう)各チームはライバルたちがプラクティスからどのタイヤを節約しているかに注目し、予測をしていた。
フェルスタッペンがレースで2セットのミディアムを履くことは金曜日の時点で明らかになっていた(ハードを1セット使って、決勝前にハードを1セットしか残していなかったから)。マクラーレンとメルセデスはハードを2セット使う戦略を選択した(つまりフリー走行では使わなかった)。しかしながら今年これまで、レッドブルはタイヤライフに関しては、ライバルよりも優れていた。
レース後の記者会見でフェルスタッペンは、「デグラデーションもコントロールできたし、タイヤのケアもうまくできた」と語った。「もちろん、ミディアムタイヤを履くことで、他の何人かが2回ハードで走るのとは少し違った戦略になることはわかっていた。でも、それでも大丈夫だった。スティントを通してトラクションのバランスはとても良かったと思う。正直なところ、レースを通して特に問題はなかった」
セーフティカー退場後のフェルスタッペンのリードは1周あたり約0.5秒のペースで拡大し、ノリスとの差をコントロールしていた。1周目にハミルトンと接触したセルジオ・ペレスは、フロントウイングを修復するために早めのピットストップを行い、順位を下げていた。
12周目のヘアピンで、後方からマグヌッセンのインに飛び込んだペレスはマグヌッセンのリアタイヤに接触し、ハースをスピンさせた。これはアレックス・アルボンに対するシンガポールでの攻撃とほぼ同じもので、無謀としか言いようがない。
14周目、この破片回収のためにVSCが導入されたが、偶然ピアストリはハードタイヤへの最初のピットストップを行ったので、ロスタイムを軽減することができた。VSCはすぐに解除されたので、他のトップランナーは恩恵を受けられなかった。
ダメージを負ったペレスはスロー走行し、ノリスがそれに捕まっていた。VSC提示中に遅いとはいえ、スチュワードの許可を得ずに、抜いていいのかどうかノリスは確信が持てなかった。実はフェルスタッペンはVSCが表示される直前にペレスをパスしており、ノリスはVSCが出てすぐにペレスに追いつく不運があった。
「何が起こったのかわからない、つまりペレスはトラブルを抱えていただろう?」ノリスはスピードダウンしたペレスに引っかかったことを振り返った。「でも、VSCの下ではオーバーテイクはできないんだ。彼が問題を抱えていたのか、それとも僕を抑えようとしていただけなのかは、わからない。でもVSCの下ではオーバーテイクはできない」
「彼はすごくゆっくり走っていて、VSCが終わると彼があまりに遅いので、右サイドにいて(スプーンで)抜こうとしたんだけど、彼がぶつかってくるのでちょっと混乱してしまった。自分に何ができるのかわからなくて……」
このことで、ノリスはフェルスタッペンに10秒の差をつけられたと見ているが、バーチャルセーフティカーが導入された時点での二人の差は、少なくともその半分強だった。VSC前の5.3秒差からVSC後には9.9秒差まで広がっていたのだ。彼はこのことがなくても、レース結果に大きな違いがないことを認めているが、少なくとももう少しフェルスタッペンにプレッシャーを掛けられたとは思っていた。
フェルスタッペンが17周目に2セット目のミディアムタイヤを履くために、ピットストップを行うまでにリードを大きく広げていた。このギャップと先にピットインしたことで、ノリスがアンダーカットでギャップを縮める可能性はなくなった。
ピットストップの後、フェルスタッペンの執拗なまでの一貫性には驚かされた。アウトラップから第2スティントのインラップまでのラップタイムはすべて0.602秒以内。まるで、世界有数の難関サーキットを走るたびに同じラップを繰り返すことができるような状態になったかのようだった。チームから与えられた目標は、タイヤを十分に温存してスティントをこなすことで、彼は難なくそれをやり遂げた。
フェルスタッペンの最後のハードタイヤでのスティントは、最終的にファステストラップとなるタイムを出したことや、終盤にトラフィックと戦わなければならなかったこともあり、ばらつきが大きかった。しかし、レースの残り3分の1でリードを徐々に広げていった。フェルスタッペンは目標としていた優勝マージンを逃したことを、ほんのわずかな失敗と考えるかもしれない。
「水曜にマックスとパデル(テニスに似た球技)をやったんだけど、彼はすごく燃えていたよ」とレッドブルのボス、クリスチャン・ホーナーは明かす。「彼ははっきりと、”20秒差でレースに勝ちたい “と言っていた。だから、最後のトラフィックがなかったら……」
「FP1の1周目、ハードタイヤを履いた時点で、ミディアムやソフトタイヤを履いた他のライバルより1.8秒も速かった。彼はこのレースに完全に集中していた。彼が大好きで、楽しんでいるサーキットだ。そして、ここは究極のドライバー・サーキットのひとつだと思う。素晴らしいパフォーマンスだった」
また、ファステストラップも記録し、レッドブルの6度目のコンストラクターズタイトル獲得も決定した。ホーナーはチームに賛辞を送り、今回の栄冠は「これほど競争力のあるマシンを作るために、たゆまぬ努力を続けてきたチーム全員の力の証」と語った。
これでフェルスタッペンのポイントは400点の大台にのった。彼がドライバーズランキングで追い抜かれる可能性はほとんどなくなっている。日本GP以降獲得できる最大のポイント数は180なので、フェルスタッペンはペレスに177ポイント差をつけている今、カタールGPでたったの3ポイントを獲得すればタイトルを獲得できる。
カタールではスプリントレースがあるので、そこで決まる可能性すらありますが、誰がそれを望むのでしょうか。これこそアンチクライマックスですね。
かといって意図してスプリントレースをリタイヤするというのも、ないですよね。
あと2週間もすれば、フェルスタッペンはジャック・ブラバム、ジャッキー・スチュワート、ニキ・ラウダ、ネルソン・ピケ、アイルトン・セナに続く6人目の3回目王者となるだろう。新たなタイトルは彼になのをもたらすのだろう。