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ホンダの死角 なぜメルセデスはサイズゼロを採用しないのか

sne10311-s ホンダは今年もサイズゼロのコンセプトを堅持すると明言している。だが本当にサイズゼロコンセプトは優れたパッケージなのだろうか? ホンダがいうように、サイズゼロがそこまで素晴らしいのであれば、どうしてメルセデスや他のライバルは採用しないのであろうか。 その問いに関してメルセデスのPU開発責任者であるアンディ・コーウェルが興味深い発言をしている。 F1のPUメーカーは2016年用のPUに関して違うアプローチをしている。ではどの方法が一番優れているのであろうか。 2014年から新しいPUが導入されてから、このPUの重要性は増すばかりである。各メーカー同士の開発競争も激しくなってきている。 一番驚くのは、各メーカーのPUが違うコンセプトで設計されていることである。メルセデス、フェラーリ、ルノーそしてホンダは100kgの燃料からパワーを最大限に抽出すべく取り組んでいる。 その中で一番興味深いのはメルセデスのやり方である。彼らはタービンとコンプレッサーを分離し、その中にMGU-Hをサンドイッチにしている。 それと同じ方法をホンダも採用した。ただしホンダのやり方はメルセデスとは少し違う。ホンダはタービンもコンプレッサーも小型化し、エンジンのVバンク間に設置したのである。これによりマクラーレンのシャシー後半部分は小さくまとめられ、空力的なメリットが期待できる。 ルノーとフェラーリはまた違ったアプローチを採用していて、彼らはタービンとコンプレッサーを一体化し、エンジンの後部に搭載している。 性能だけで比較すれば、メルセデスのやり方が圧倒的なアドバンテージを持っていることは明らかである。だがホンダは昨年コンプレッサーを小型化した為に、思うような結果を残すことができなかった。 だが今年のホンダはサイズゼロのコンセプトを維持しながらも、タービンとコンプレッサーを少し大きくすることを明言している。 これを見るように分離式のターボだけが、メルセデスの優位性でないことは明らかである。コーウェルはデザインがパワーユニットの性能に関して重要であることを認めながらも次のように発言した。 「分離式のターボが大きく取り扱われすぎていると感じる。それが秘密の鍵ではない。他にも多くのことが性能のアップに貢献している」 「一つだけの理由ではない。多くの理由が統合されて、とてもうまくいっているんだ」 「すんなりいったわけでない。多くの議論があったし、それをする理由は1つではなかった。こんなことして大丈夫かと言われたこともある」 2014年が開幕するとメルセデスの秘密はすぐに明らかになった。そしてライバルがそれをすぐに模倣するだろうと誰もが思った。 でもそれは驚きではなかったとコーウェルは話す。違うやり方を試すのは、各メーカーが違う考えを持っているからである。 「僕たちは同じレースを走るけど、性能や効率は各チームで違うし、異なるものの見方をして、違うパッケージで、違うサプライヤーから供給を受けている」 そして決定的なのは各パーツのサイズは各メーカーが、どれほどのエネルギーを回生するのかにより決まってくる。 ターボのサイズに関してコーウェルは次のように話している。 「チャンピオンシップ・ポイントのことを考えないとね。チャンピオンシップ・ポイントは日曜日のレースで獲得できる。予選じゃないよね。だからその2つの重要性を秤にのせて分析する必要がある」 「最前列にいても、2周目からERSが使えないんじゃ、レースで戦えないだろ?だから全てのメーカーはバランスを取らなきゃいけない。それがターボのサイズを決めるんだ」 「まだまだ改善できる部分はある。今では熱効率45%まできている。まだまだ獲得できるエネルギーはある」 テクノロジーは進歩している。2007年にはじめてkERSが登場したとき、その重量は107kgもあり、効率はたったの39%だった。 2014年の最初のテストの時、ERSの重量はたったの24kgで80%の効率を実現している。 そして今や20kgで95%の効率である。 この進歩を考えると、まだまだ進化の余地はある。 これらのことを総合するとパワーを取り出そうとするとタービンとコンプレッサーは大型化していくのではないかと問われたコーウェルは次のように回答した。 「エンジンとターボは改善が見込まれる部分だ。エンジンの効率は毎年向上していて、ターボの効率もアップしている」 「これが意味するのはエンジンの効率を損ねない範囲で、ターボのサイズも大きくなっているということだ」 彼はメルセデスの場合、よりパワーを取り出す為に、毎年ターボのサイズが大きくなっていることを認めた。 ホンダのようにターボをVバンクの中にとどめておこうとするとサイズに制限がかかる。そうするとサイズゼロのメリット以上にデメリットが出てくる可能性もある。 PU全体からパワーを出そうとするとターボのサイズアップは欠かせない。 メルセデスはサイズゼロのメリットとデメリットを理解した上で、それを採用しなかった。 これはホンダにとっては不吉な予言のように思える。 メルセデスの考えるコンセプトとホンダの考えるコンセプトは大きく異なっている。 どちらが正しいのかは、メルボルンでレースがスタートするまで誰もわからない。