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完勝したレッドブルと苦戦するメルセデス シュタイアーマルクGP観戦記

昨年に引き続き二連戦となるレッドブルリンクでの最初のレースとなるシュタイアーマルクGP。結果としてレッドブルの完勝でした。ただこれでメルセデスとのタイトル争いが終わったわけではありません。波乱がない優勝争いでしたが、なぜハミルトンはフェルスタッペンに対抗できなかったのでしょうか。レースを振り返ってみましょう。

予選・レースともメルセデスを圧勝したフェルスタッペン

優勝争いだけに絞れば、波乱のないシュタイアーマルクGPでした。タイヤ交換があるにも関わらずフェルスタッペン一度もトップの座を失うこともなく、ハミルトンに大差をつけて勝利しました。これは最近では珍しい現象でしたね。

ポールポジションから順調にスタートきったフェルスタッペンですが、オープニングラップですでに1秒近い差を2位のハミルトンにつけました。これはハミルトンがターン3の入り口で突っ込み過ぎてしまい、抜かれはしなかったものの立ち上がりで失速したことが原因です。3番手グリッドからスタートしたランド・ノリスとセルジオ・ペレスがかなりのスピードで迫っていました。この日のハミルトンは珍しくレース中でもミスをしていましたし、乗りにくそうでした。ハミルトンがかなりハードに攻めていたことがわかります。実際レース後、ハミルトンは今日はレースでやれることは何でもやったが、マックスのペースについていくことはできなかったと述べています。

この日はボッタスがフリー走行中に、ピットレーンでスピンしたことによるペナルティでスタートグリッドを失っていたこともハミルトンには不利に働きました。ハミルトンとボッタスの間には大差が付き、ふたりで作戦を分けて、フェルスタッペンにプレッシャーをかけることも叶いませんでした。もっともレッドブルも完璧ではなく、ペレスのタイヤ交換をミスして、ボッタスにみすみす3位の座を明け渡してしまう失態を見せていました。

またハミルトンはレース中にバイブレーションにも悩まされていました。フロントタイヤのバイブレーションは、ブリスターが発生して、ひどくなっていたためです。リアタイヤはコースを少し外れたときに大きなタイヤカスを拾いそれが取れなくて、バイブレーションを発生していました。これでハミルトンは少なからずタイムを失っていたでしょう。

今のメルセデスを象徴するような暗雲が垂れこめるレッドブルリンク

最終的にハミルトンはフェルスタッペンに17秒もの大差をつけられて、最後はファステスト狙いのタイヤ交換を実行し、目論見通りにファステストラップの1ポイントを追加しました。

いつもならタイヤのデグラはレッドブルより優れているはずのメルセデスが今回は違いました。というのも今回メルセデスはかなり極端なセットアップをしていました。タイヤに負荷をかけるセットアップです。こうすると当然、タイヤは発熱しやすくなりますが、タイヤのデグラは悪くなります。実際、途中までは数秒差でフェルスタッペンを追いかけていたハミルトンですが、レース終盤に向けて徐々に引き離されて最終的には(ハミルトンが最後にファステストラップ狙いのタイヤ交換をする前までには)17秒もの大差をつけられました。

実際、メルセデスは途中でツーストップに変更することも考えたそうですが、それを実行することはありませんでした。なぜなら今回のハミルトンにはフェルスタッペンに対抗できるだけのペースがなく、タイヤ交換をしてもフェルスタッペンに追いつくことは難しいと判断したからです。またこのサーキットは比較的タイヤへの負荷は少ないので、アンダーカットのパワーが少ないのです。つまりハミルトンが先にタイヤ交換を仕掛けても、フェルスタッペンが次のラップでタイヤ交換をすれば抜かれることもなく、トップでレースに戻れます。そしてほぼ同じ条件のタイヤを履いていれば、この日のフェルスタッペンはハミルトンに順位を脅かされることはなかったでしょう。

ではなぜメルセデスは極端なセットアップをしたのでしょうか。チームはなんのコメントも出してはいませんが、恐らく予選でタイヤの温度が上がらずに、二列目よりも後ろからスタートすることを危惧したからではないでしょうか。実際、タイヤに熱の入りにくいモナコやアゼルバイジャンでは二台のうち一台は予選でタイヤに熱を入れられずに後方からのスタートを強いられました。

レッドブルリンクは、市街地コースよりはタイヤに熱を入れやすいのですが、高地に位置することもあり、曇ったりすると気温が急激に下がることもあります。そうなるとメルセデスはたちまち苦戦します。少なくとも2列目以内からスタートできれば、レッドブルにプレッシャーを掛けることもできます。なのでモナコでは見送った極端なセットアップを試したと思われます。そして予選の順位ということではハミルトンが2位だったので成功したことになります。ただレースではデグラが大きくなり、徐々にフェルスタッペンに離されて、なにも仕掛けることができませんでした。

シルバーストーンで導入される可能性のあるタイヤは次のオーストリアGPのフリー走行で試されますが、通常タイヤの構造を堅牢にするとタイヤのウィームアップ性は悪くなるので、パーフォーマンス面に限れば、メルセデスは新しいタイヤの導入は避けたいところでしょう。

オープニングラップにノリスとペレスに迫られるハミルトン

これまでもメルセデスがレッドブルに負けたレースはありますが、モナコなどの特殊な条件を除けば、ここまでの大差をつけられることは、ほとんど記憶にありません。とにかくハミルトンはフェルスタッペンに対して何もできなかったことになります。このレースでは今シーズン初めてレッドブルは予選でもメルセデスより速く、レースペースでも凌駕していました。
またこの日のフェルスタッペンはハミルトンをDRS圏内に入れることもほとんどありませんでした、これも今年始めての出来事です。

フェルスタッペンは、タイヤをいたわりながら一定のペースを維持できていました。これも前週のフランスGPとは違っていました。

最近、レッドブルリアウィングがメルセデスよりも軽いことが話題になっていますが、これはレッドブルがメルセデスよりもアンダーフロア、すなわちディヒューザーからより多くのダウンフォースを得ていることを表しています。通常当たり前ですが、リアウィングが薄いとダウンフォースが減ります。そうするとストレートでは速くなりますが、コーナーでは遅くなります。フランスGPのタイムを比較するとレッドブルはストレートが多いセクター2では速いですが、コーナーの多いセクター3でもメルセデスを圧倒しています。これはレッドブルがストレートスピードが欲しくて、コーナー部分を妥協したセットアップをしていないことを表しています。

レーススタートをグリッドで待つセルジオ・ペレス

さらにホンダはデプロイ(発電した電気をどこでどういうふうに使うか)の部分でも、メルセデスを凌駕しているように見えます。これらの影響があり、レッドブル・ホンダはメルセデスを圧倒できています。少なくとも今のところは。またクリスチャン・ホーナーはオイルの改良がホンダPUのパフォーマンスアップに大きく貢献しているとも述べています。

ただこれから夏の暑いシーズンに入ってきますので、メルセデスがタイヤの温度を気にすることがなくなれば、再びメルセデスが息を吹き返すことも考えられます。レッドブルとメルセデスのタイトル争いはまだしばらく続くと思います。