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2021年シーズン総集編 素晴らしいシーズンに乾杯

開幕から最終戦の最終ラップにまで激しいチャンピオン争いが繰り広げられた昨年のシーズン。ホンダは最終年をチャンピオンを獲得して去ることになりました。数十年に一度となるF1のビンテージイヤーをを振り返ってみましょう。

最後の最後まで激しくチャンピオンを争ったフェルスタッペンとハミルトン

▽小さな変更の大きな影響
昨年のコロナ禍の影響で各チームは予算的に苦しく、今年は基本的に昨年と同じマシンを使う事になりました。ただ二箇所は変更してもいいルールです。

なのでマシン的には基本的に昨年と同じだったのですが、レギュレーションに一部改訂がありました。それはリアタイヤ前のフロアがなくなりました。これは昨年ピレリタイヤがダウンフォースの負荷に耐えきれない場面があったので、ダウンフォースを減らしてタイヤを守るのが目的です。

ところがこの軽微な車体のレギュレーション変更がシーズンに大きな影響を与えました。
レーキ角が低い(車体の前傾角度が低い)メルセデスのマシンはホイールベースを長くしてフロア面積を増やすことによりダウンフォースを増やしていました。ところがこのレギュレーション変更でフロア面積が減ったことによりメルセデスのダウンフォースは大きく減ることになります。

レーキ角の高くフロア面積が少ないレッドブルはメルセデスよりも比較的影響が少なく、それはシーズン前のテストで如実にタイムに表れていました。というわけで開幕からレッドブルがスタートダッシュを見せるかと思われたのですが、なんと開幕戦はハミルトンが勝利します。これはワンストップのフェルスタッペンに対してツーステップに変更したハミルトンが逆転で勝利します。作戦面での違いはあるにせよ、テストでメルセデスは苦しんでいましたから、短期間でここまでリカバーしてきたメルセデスの底力には驚かされました。

大きなミスがほとんどなく、プレッシャーにも負けなかったフェルスタッペン。

▽激しく争うフェルスタッペンとハミルトン
続くイモラではフェルスタッペンが勝利を収めますがその後はハミルトンが連勝し、なんとテストで不調だったメルセデスが開幕4戦で3勝という予想外の結果となりました。ただ総合的に見て前半戦はレッドブルのほうがマシンの戦闘能力は高く、その後モナコからメキシコまで14戦で10勝(1勝はペレス)と巻き返します。

メルセデスの反撃はイギリスGPからです。シルバーストーンに大きなアップデートを持ち込んだメルセデスはダウンフォースの増加をもたらし、レッドブルへの挑戦権を得ることに成功しました。 マシンの純粋な速さを比べやすい予選の順位を見てもイギリス以降はレッドブルに対抗することができていました。

メルセデスは、マシンの設計的な限界までレーキ角を上げるような工夫もしていましたし、レッドブルよりもレーキ角が少ないことを利用し、ストレートでダウンフォースがかかったときに、他のチームよりもリアの車高を下げることにより、ディヒューザーで発生するダウンフォースを減らす(=ドラッグも減る)ことに成功し、トップスピードの向上を得ていました。

またメルセデスはシーズンを通して平均的には作戦面ではレッドブルを上回っていました。彼らのすごいところはとにかく論理的なんですね。今起こっている目の前の現象に惑わされずに、理屈としてはこれが正しいと決断するので、ブレが無いんですよね。最終戦ではそれが裏目に出ましたが、正直あればルール破りのFIAの判断だったので、悔やんでも悔やみきれないですよね。

またチームメイトのボッタスのほうが平均するとペレスより上位を走ることが多かったのも、大きかったと思います。今年はメルセデスとレッドブルの二台のスピードが圧倒していて、レース中は3番手以降のチームに20秒以上の大差をつけることがほとんどでした。そのため後方にライバルチームのドライバーがいなければ順位を失うことなくタイヤ交換ができるので、作戦面での自由度が大きくなりました。

それでもコンスタント勝てていたレッドブルに対してメルセデスは開幕4戦で3勝したあとは、モナコからメキシコまで14戦で3勝(そのうちボッタスが1勝)となりますが、フェルスタッペンがハンガリーでボッタス絡みアクシデントに巻き込まれて大きく得点を失ったこともあり、フェルスタッペンに迫っていました。またハミルトンはPPが5回だけで、予選順位が1位から7位までと大きなブレがありました。フェルスタッペンは悪くても3位でしたから、予選での安定感も抜群でしたね。

敗れたとは言え、チャンピオンにふさわしい走りを見せたハミルトン

ただメルセデスの最適化が進んだトルコGP以降、ハミルトンは残りの7戦の予選では1位と2位しかなく、最後に速さを取り戻しました。そして最後の4戦で3勝(最後も勝っていれば4戦4勝)と追い上げて、フェルスタッペンをギリギリまで追い込むことができました。

シーズン終了後にメルセデスがトークンを利用した開発を行わなかったことを表明していましたが、これには驚かされました。トークン使わなくてもレッドブルと互角に戦えるなんて、昨年までのマシンがいかに競争力があったのかがよくわかるエピソードです。

シーズンを通じてフェルスタッペンはアクシデント以外では優勝か2位と抜群の安定感を見せていました。サウジアラビアGP予選以外は大きなミスはほとんどなし。予選でも最低順位が3位で10回のPPタイム。大きなプレッシャーがかかる中、凄まじい精神力の強さを見せてくれました。すごいドライバーになりました。

ただ少しリスクを冒しすぎの感はありました。もちろんフェルスタッペンの言い分もわかりますが、ぶつかってノーポイントになって、相手のドライバーにペナルティは与えられても、フェルスタッペンが失ったポイントが戻っくるわけではありません。もちろんレーサーなのでスペースがあれば、飛び込むのも理解はできます。

セナだってシューマッハだってそのようにしてきましたからね。ただイギリスGPはまだ1周目だったので逆転のチャンスはあったし、ポイントをリードしていたので、最悪2位でもよかった。イギリスGP時点では32ポイント差もあったので2位でも7ポイントしか縮まらないのですが、これで25ポイントも吐き出すことになり、シーズン後半の展開を苦しくしていました。チャンピオンを取れたからいいものの、もし逃していれば後悔することになったでしょう。

今年、いかにこの2チームの戦いが激しかったかは1−2フィニッシュが一度もなかったことが証明してます(マクラーレンがイタリアGPで一度だけ達成)。それにしてもシーズン終盤では何があっても1位と2位はフェルスタッペンとハミルトンみたいな感じで、もうほかのドライバーを圧倒していたのは驚きでしたね。

プレッシャーのかかる中、恐ろしいまでの精神力の強さを見せつけたフェルスタッペン

▽メルセデスを追い込んだホンダ
最終年を迎えたホンダのアップデートも素晴らしかったのですね。
ホンダも新骨格のエンジンを投入し、圧縮比を向上してパワーアップし、それにより回生できるエネルギーも増えました。パワーもメルセデスと同等かそれ以上の時もあったと思います。まともに走れなかった当初のことを考えると驚くしかありません。

さらにイタリアGPから新型バッテリーを投入し、より多くのエネルギーを使えることになり、走行中のエネルギー切れがなくなりました。これはメルセデスにとっても脅威でしたね。

またホンダエンジンのシリンダー内の特殊なコーティングで、距離を走った際のパワーダウンは最低限にとどめたことも素晴らしい技術でした。メルセデスは長い距離を走ったエンジンでパワーダウンが大きく(一説によると30馬力ダウン)と言われていました。なのでシーズン終盤に新しいPUを連続で投入して、戦闘力を維持していました。

ホンダはフェルスタッペンがイギリスGPのアクシデントでひとつPUを失った以外は、ルール通りに3基のPUで1年間を走りきりました。これもなかなかできることではありませんし、参戦当初にPUを1レースで何回も交換していたことを思えば、感慨深いものがあります。

一方、これまでのメルセデスからするとトラブルも多くて、彼らがいかにPUを限界ギリギリまで使い込むまで追い詰められたことがわかります。昨年までですと、予選Q3とレースの序盤だけパワー最優先モードで走らせて、あとは流すことができましたが、今年はそんな余裕は殆どありませんでした。

メルセデスに負けないパフォーマンスを見せて、しかもアクシデントを除けば3基のPUでシーズンを乗り切ったホンダ

▽ホンダ 有終の美を飾るも撤退
ホンダは昨年をもってF1から徹底することになりました。ただ今年以降もレッドブルはお金を出して、ホンダのPUを継続して使います。だったら撤退なんかしなくてもよくないかというのが率直な感想です。

レッドブルがFIAや他のPUメーカーと交渉して、PUの開発を凍結すことにはなりましたが、最初からホンダが交渉していれば人材投入も必要最小限でF1活動できますし、費用もレッドブルから出してもらえば問題はないでしょう。

ところが同じスキームを取るにも関わらず、来年からホンダのプレゼンスはF1からは消えてしまいます。ここまで莫大な費用と人材を投入して開発して、これから収穫期にはいるときに、その果実をすべて捨ててしまうのは、なんかとてももったいないように感じるのは私だけでしょうか。

最初からレッドブルにお金を出してもらって、FIAと掛け合ってPU開発を凍結してもらえば、ホンダは撤退する必要はなかったと感じてしまいます。もっともホンダがF1から撤退するにはお金や人材だけの問題だけはないと思います。ホンダはヨーロッパではそんなにたくさんの車を販売しているわけではありません。アメリカと中国市場が最優先なので、F1を継続する意義はないと判断されたのだと思います。

対象的にメルセデスAMGはメルセデスの名前はついていますが、メルセデスからF1に投資しているお金はほとんどなく、チームが分配金とスポンサー料だけで活動資金を回しているので、撤退する必要もなく継続できています。どちらがスマートなやり方なのかは、明らかだと思います。

それにしてもここまで競争が激しいチャンピオン争いもなかなかないビンテージなシーズンになりました。そしてホンダが撤退最後の年にチャンピオンを取れたことも、彼らの苦労を見てきた者としては安堵しました。さて来シーズンは大きくレギュレーションが変わり、予想がつきにくいのですが、同じような素晴らしいシーズンになることを願って、この総集編を締めくくりたいと思います。

それでは開幕戦でまたお会いしましょう。