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最後のドラマを生んだ五つの伏線 イギリスGP観戦記

伝統のイギリスGPだが、あまりにもメルセデスが速すぎて、レース終盤にはうとうとしてしまった人も多いのではないだろうか。そんなイギリスGPが残り2周になった時点で大きく動き始めた。
 
残り2周の時点で2位を走っていたボッタスの左フロントタイヤが突然パンク。彼はタイヤ交換を余儀なくされて入賞圏外に落ちる。そしてチームメイトのルイス・ハミルトンも最終ラップの途中で同じく左フロントタイヤがパンクしてスローダウン。この時点で2位に上がっていたフェルスタッペンが猛追するが、あと5秒届かずハミルトンは3連勝となった。
 
フェルスタッペンはファステストラップを狙いにいくために残り2周の時点でソフトタイヤに交換。だからハミルトンのタイヤがパンクした時点で30秒以上の大差がついていた。ではフェルスタッペンはタイヤ交換しなければ勝てていたのであろうか。
 
残り2周でドラマが起こったが、実はこのドラマの脚本にはレース前半から伏線が張られていたのである。それでは、その伏線をたどってみよう
 
 
▽タイヤ交換の時期
レース前の予想では、ワンストップが最速であると予想されていた。ただし18周目からタイヤ交換のウィンドウが開くというのがピレリの予想だった。つまり最低でも18周まで走らなければ、第2スティントでハードタイヤを利用したワンストップは難しいと予想されていた。ところがセーフティカーが各チームのプランに変化を迫った。
 
12周目にアルファタウリのクビアトがベケッツでリアを失いスピンしてクラッシュ。彼は自分のミスではないと言う。録画を見るといきなりリアが流れているように見えるので、恐らくタイヤのパンクが原因の可能性が高い。
ここでセーフティカーが登場したので、13周目にトップランナー達は続々とタイヤ交換に入る。だが13周目のタイヤ交換は予想より5周も早い。これはタイヤにとって厳しい条件となる。まずこれがひとつ目の伏線である。
 
 
▽ハミルトン対ボッタス
スタートでボッタスの蹴り出しはハミルトンよりも良くて、二人は並びかかるもののハミルトンがなんとかリードをキープする。この日のボッタスはハミルトンとの差を数秒にキープして、チームメイトに楽をさせない。ハミルトンはタイヤ交換後しばらくはボッタスを引き離すことができなかった。その後、ボッタスはタイヤが厳しくなり徐々に遅れ出す。
 
クリーンなエアで走るハミルトンより2位のボッタスの方がタイヤには厳しいのは当然なのだが、それでもボッタスは差を広げられないようにプッシュし続けた。だからこの日のハミルトンはサンデードライブではなかった。ハミルトンもタイヤを労りながらもハードな走りを強いられていた。逆にハミルトンはボッタスのペースが速すぎてタイヤの寿命を気にしていないのではないかと思ったそうだ。
 
チーム代表のトト・ウルフはこの時点で2台のペースを落とすことは考えていなかった。彼はこの時点で二人のバトルを制限せず、二台を自由に争わせた。まだチームオーダーを出すのは早すぎると思っていた。このメルセデスの想定以上のペースにより、この二人のドライバーはハードタイヤを酷使することになる。これが第二の伏線である。
 
メルセデスはレース終盤にタイヤ交換した方がいいかどうかの議論があったことを認めている。だが彼らにはできない理由があった。それは第四への伏線へとつながる。
 
 
▽タイヤに厳しいシルバーストーンとデブリ
ハミルトンはパンクの原因はコース上のデブリではないかと話している。実際最後のドラマの前にライコネンがフロントウィングを破損してコースを走っていた。ハミルトンによると自分のタイヤのコンパウンドは少なくなっていたが、それでもペース的には悪くはなかった。
 
だからボッタスがパンクしても、それはボッタスがプッシュしすぎたからだと考えていて、自分は最後までいけると思っていた。ただ彼のタイヤもコンパウンドが薄くなっていたのは間違いがなかった。そしてトレッド上のコンパウンドが少なくなれば、それだけタイヤのコードをデブリから守る層が薄くなるわけで、小さなデブリでもタイヤが壊れる可能性は高くなる。
 
シルバーストーンは鈴鹿と並んでカレンダーの中ではタイヤに厳しいサーキットである(鈴鹿は残念ながら今年のカレンダーには乗っていないが)。実際、マクラーレンのノリスはこの日のレースでは、フロントタイヤがたれてきてアンダーステアがひどくなるので最初のラップからペースを抑えたと述べている。
 
そんなタイヤに厳しいサーキットで予定よりも5周も早くタイヤ交換を強いられ、メルセデス同士でプッシュしあい、そして最後はコース上のデブリによりとどめを刺されてたということになる。これが第三の伏線となる。
 
ただ最速のメルセデスには2回目のタイヤ交換するという選択肢も残されてはいたし、実際メルセデスのピットでは2回目のタイヤ交換の話もあった。ボッタスからはバイブレーションの報告もあり、ハミルトンもバイブレーションを感じると無線で連絡があった。では彼らはなぜ2回目のタイヤ交換をしなかったのだろう。そこが第4の伏線になる。
 
 
 
▽フェルスタッペンの好走
予選ではポールポジションのハミルトンから1秒も離されたフェルスタッペンだったが決勝レースでは、諦めずにメルセデスについていこうとしていた。だから残り3周の時点でもメルセデスの2台の15秒ほど後方に位置していて、メルセデスはタイヤ交換を選択できなかった。タイヤ交換すればフェルスタッペンにリードを許すことになるからである。
 
もしレース前半でフェルスタッペンが勝てないと諦めてペースを落として2台との差が20秒以上あればメルセデスは二台ともタイヤ交換させていただろう。実際、フェルスタッペンは後方とは差が開いていたので、ペースを落としても3位は安泰だったが、彼はそれを選択しなかった。これが第5の伏線である。フェルスタッペンの諦めない走りにより、メルセデスは2回目のタイヤ交換をしたくてもできなかったのである。
 
ではフェルスタッペンがタイヤ交換しなければ彼はレースに勝てていたのだろうか。
実はフェルスタッペンが交換したタイヤを見ると30カ所もカットされていたことがわかっている。つまりもしフェルスタッペンもコンパウンドが薄くなったタイヤでデブリを拾っていた。彼もタイヤ交換せずに走り続けていても、最後まで無事に走り切れていた保証はなかった。
 
これが最後のドラマの一部始終である。それにしても最後のドラマ以外ではメルセデスの圧倒的な速さが目立ったレースとなった。
それについてはまた別の機会に述べてみたい。
 
今週末は再びシルバーストーンで第五戦が開催される。しかもタイヤはこの日のコンパウンドよりひとつづつ軟らかくなる。
となると各チームのタイヤ戦略もまた興味深くなりそうである。
 
ただこの日のレースは最後の最後に盛り上がったけれど、本当はこのようなトラブルではなく、普通にレースで盛り上がって欲しいと思うのは私だけだろうか。