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ライバルの接触とフェラーリの激走 イギリスGP観戦記

オープニングラップのフェルスタッペンとハミルトンの接触からのルクレールがレースの大半をリードするという予想外の展開。イギリス人以外のファンがルクレールの勝利を確信するほど第一スティントのペースは良かった。今回はルクレールがどのようにして勝利に近づき、どのようにして勝利を失ったのか。そしてどうしてハミルトンがその地元勝利を奪い取ったのかを見てみましょう。

ハミルトンを必死で抑え込むフェルスタッペン。このあと接触が待ち受けているとは

▽ハミルトンとフェルスタッペンの接触
この接触の是非については、もうすでに多くの議論がなされています。交通事故の責任に10-0がないように、この接触にもハミルトン側とフェルスタッペン側で見方が全く違うのもわかります。私の理解ではこの接触はレーシングインシデントだと思います。ハミルトンはコプスの手前で、フェルスタッペンに並びかけています。今のルールで言えば、完全に並ぶ必要はなく、相手のマシンの半分にまでマシンが来ていればイン側のマシンはコースを譲る必要はありません。

ただこのコーナー手前がどこやねんと言う話なんですよね。接触したときは、ハミルトンのフロントタイヤとフェルスタッペンのリアタイヤが接触しているので、レッドブル側から見れば、ハミルトンが譲るべきだという話になるし、メルセデス側から見れば、ハミルトンはコーナー手前で並びかけていたので、譲る必要はなく接触は両方に責任があるレーシングインシデントでありどちらかのドライバーにペナルティを課すのはおかしいという話になります。ここではペナルティも是非は問いませんが、この接触でどちらが損をしたのかといえば、明らかにフェルスタッペンです。このレース前までハミルトンに対してフェルスタッペンはポイントを大きくリードしていたわけです。ここで接触して失うものはフェルスタッペンのほうが大きくて、これでフェルスタッペンとハミルトンの得点差はたったの8ポイントになっています。

手痛い無得点に終わったフェルスタッペン

この週末のシルバーストーンでは明らかにメルセデスのほうが、レッドブルより速かったです。新しく持ち込んだ小さなパーツの効果もありますし、セットアップも適切でした。だからハミルトンからしたら、地元だしこのレースは絶対に勝ちたかったと思います。今まではクラッシュしてノーポイントになることを嫌ったハミルトンがフェルスタッペンのアグレッシブな走りに対して引いていましたが、ここでは絶対に負けられないという思いがあったのだと思います。

というのもこれまではひとつのレースで負けても、次のレースで勝てばそれでいいという割り切りもしていましたが、レッドブル・ホンダが5連勝してくると、そこまで余裕を見せているわけにはいかなかったからです。

だからこそ、今までだったら引いていたハミルトンが引かなかったのだと思います。ただ彼の名誉のためにいうと彼は最後まで接触を回避しようとしてブレーキングをしていました。一方のフェルスタッペンは通常通りアクセルオフしただけでした。

フェルスタッペンは確かにイン側にハミルトンが走るスペースを残してはいます。ただこの時、フェルスタッペンもハミルトンも1位を狙っていたので、引けない状態でした。ともにアクセルオフにするタイミングが予選より遅くなっていました。当然、スタート直後ですから、燃料が重くコーナーリングは厳しくなります。だからフェルスタッペンはあのタイミングでターンインしないとコプスの立ち上がりで、コース外に出ていたでしょう。ハミルトンに抜かれたルクレールのようにです。ただそれでもレースはまだ52周も残っているわけです。ここで勝負をしてすべてを失うリスクをフェルスタッペンが冒すべきだったのかは、少し疑問です。ここでハミルトンに抜かれても、このあと長いレースでは逆転を狙えるチャンスがあったかもしれません。それを考えると少し残念でしたね。

ただこのフェルスタッペンのクラッシュを穴埋めしてくれたのは、この後で説明するルクレールの走りでした。

それにしてもこの週末のメルセデスのマシンは速かったです。予選ではポールポジションを取りましたし、今回始めておこなわれた予選のミニレースでは、スタートに失敗して2位に落ちて、短いレースでは逆転できませんでしたがペース自体はありました。決勝レースのオープニングラップのペースを見るだけでも、フェルスタッペンとのペースの違いは明らかでした。すべてのコーナー、ストレートでハミルトンはフェルスタッペンに仕掛けられる状態でした。

ハミルトンに抜かれたくないフェルスタッペンはストレート前のコーナーをインベタで回っています。一方のハミルトンは余裕を持ってコーナー中央から良い加速ができています。このふたりのストレートでの速度差はDRSなしで14KMもありました。

この大きな速度差が、これだけ速度差があればハミルトンはオーバーテイクをしたくなりますよね。これまでもチャンピオンを争うドライバー同士の接触自家はありましたし、これが最後というわけでもないと思います。

フェルスタッペン リタイヤした後のレースを盛り上げてくれたルクレール

▽レースを救ったルクレールの激走とハミルトンの逆転劇
チャンピオンを争うフェルスタッペンがリタイヤした後のレースは、ハミルトンが独走するはずでした。それを救ったのはルクレールの素晴らしい走りと、ハミルトンへの10秒ペナルティでした。

レースペースでいうとミディアムではルクレールのほうが明らかに速く、ハミルトンを離すことができていました。これを見るとルクレールの勝利も夢ではないと思われました。ただハードに履き替えるとルクレールのペースは落ちてきます。ルクレールのマシンにはエンジンが突然カットされるトラブルが出ていました。このトラブルは2年前のバーレーンGPでも出て、今年のモナコでも出ていまいた。そしてこのトラブルはレース終盤にルクレールを苦しめることになります。

フェラーリから正式な発表はありませんが、ルクレールのエンジンカットはエンジンマッピングに関する燃料系のトラブルだった模様です。つまり燃料がエンジンに供給されないトラブルですね。そしたらエンジンが止まるのもわかります。

ただ一瞬だけ止まる症状だったので、走り続けることはできました。フェラーリはこの問題を燃料を通常より多く供給することにより、このトラブルを回避しようとしたようです。だからレース前半で燃料を多く消費したため、レース中盤で燃料をセーブする必要が出てきました。これはパワーが減ることを意味しますし、当然タイムも落ちます。これは追いかけるハミルトンにとっては有利な状況です。レース終盤にフェラーリは、ルクレールの燃料不足は解消できていましたが、その時にルクレールのタイヤは厳しくなっていて、ハミルトンのオーバーテイクを防ぐ術がもうありませんでした。

このエンジンカットの現象はレース中に数回起こしており、毎回1秒前後のタイムを失っていいたことを考えると、それがなければルクレールは逃げ切れていた可能性もありました。このトラブルがなければレース中盤でもっとタイムを稼げていたわけですから。だからフェラーリにとってはこのトラブルはとても大きな影響があり、これがなければルクレールはレースに勝てていたかもしれません。

ハミルトンはハードを履いた途端、まるで別のマシンになったように速くなりました。先程も述べましたがルクレールのミディアムのペースはメルセデスより速かったです。ただハードに履いたハミルトンはまるで別のマシンに乗っているかのような速さを見せてくれました。しかもタイヤのタレもほとんどない状態で、ルクレールに追いついた時点で勝負はありました。

上位陣はグリッドに着いてから、スタートまで待つ間にタイヤの温度が冷えていく

▽初の予選レース
史上初の予選レースでしたが、正直言うとあってもなくてもいいかなという感じでした。トップ争いもスタートで決まって、タイヤ交換もなく、あとは波乱なしでした。

ハミルトンのスタートが悪かったのは、タイヤ温度が下がりすぎていたからです。通常、フォーメーションラップで加減速したり、左右に振ったりして、タイヤを温めるわけです。最前列のドライバーは、一番先にグリッドについて、あとのマシンが並ぶまで数秒間待っています。

当然、その間にタイヤの温度はどんどん下がっていきます。だから前からスタートするドライバーは、適温よりも高めの温度になるようにして、グリッドに着きます。そうして後ろのマシンが全部グリッドにつく間に、タイヤの温度が適温になり、素晴らしいスタートが切れるというのが理想的な展開です。ただ常に理想的なスタートができるわけではありません。後ろのマシンが何秒後にグリッドに付くのかは予想はできても、正確にわかるわけではありません。
だからこの予選レースでのスタートでは、ハミルトンのタイヤは予想よりも温度が下がりすぎてタイヤがグリップせずにホイールスピンを多くしてしまい、フェルスタッペンに前に行かれてしまいました。

そしてレッドブルもこの新しいフォーマットの週末に合わせるのに失敗しました。トップスピードが少ないセッティングにしたのは失敗だったと思います。予選でもハミルトンに負け、決勝レースでもオープニングラップのスピードは明らかにハミルトンに分がありました。この週末は金曜日午後に予選レースの予選があったので、金曜日の午後の予選に出走した後は、セットアップを変更することができませんでした。

通常、金曜日の午前中は路面状態も良くないので、基本的なチェックが目的になります。ところがこの週末は、この金曜日の午前中で、すべてを決めなければならないので、チームの仕事はかなり忙しくなります。持ち込み時に設定したセットアップを外した場合、これを修正するのは難しくなります。

メルセデスは、特にこの週末に新しい空力のアップデートを持ち込んでいましたので、かなり難しかったと思います。それを見事にやってのけたのは、さすがとしか言いようがないですね。普通、金表日の午前中に新旧パーツの比較とかするもんですが、この日はそんな時間がなかったですからね。だからメルセデスの新しいパーツはまだその潜在能力をすべて発揮していないと思います。そう考えると今後のチャンピオン争いはまだまだ余談を許さない状況だと思います。