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ピレリタイヤは危険なのか、安全なのか

 ピレリタイヤの攻めたタイヤ設計

ピレリタイヤがイギリスGPのタイヤ問題の解析結果を発表した。
だがこれは論争を呼びそうな内容である。
ピレリが発表したタイヤバーストの要因は以下の通り。


1.装着するタイヤを左右に入れ替えていた
今年のタイヤは構造が左右対象になっていて、左右を入れ替える事が可能であった。昨年のタイヤの構造は左右が非対称で入れ替えても同じ方向になり、意味がなかった。今年のタイヤは左右を入れ替えると構造が逆向きにできるので、これを採用するチームは多かった。ではなぜ左右のタイヤを入れ替えるのだろうか?そうする事によってタイヤのたわみ方が変わるのだ。そしてタイヤの摩耗状況が変わる。元々タイヤのライフを短縮する為にピレリはタイヤ構造を左右対称にしてきた。だから左右のタイヤを入れ替えればタイヤの寿命が延びるという理屈である。実際、タイヤに優しいと言われているフォースインディアはかなり早い段階から左右を入れ替えている。ではこれがなぜタイヤバーストの原因になるかというと、左右のタイヤを入れ替えると、インサイドだったサイドウォールがアウトサイドに、アウトサイドだったサイドウォールがインサイドになる。今回はサイドウォールにカットが見つかっているので、これが原因の一つとして考えられるというのだ。しかしこれまでは左右を入れ替えても大きな問題は起きなかった。またピレリはこれまで左右入替を知りつつも容認していた。それはサイドウォールの強度に関しては左右入れ替えても問題なしと認識していたとしか考えられない。シルバーストーンがタイヤに厳しいサーキットであることを考えても、この理由には疑問が残る。
 2.タイヤの空気圧が低い
タイヤの空気圧が低いとタイヤはその構造を維持する事ができずに壊れる。タイヤはゴムでできているというのは間違いでは ないが、正確にはゴムでコーティングした構造を空気で支えている。つまりタイヤという部品にとって空気とはなくてはならないというわけである。ピレリによ ると指定の空気圧より低いチームもあったそうだ。ではなぜチームは危険を冒してまで空気圧を下げるかというと、その方がタイヤがグリップするから。これは 自転車のタイヤに空気を入れると、走りが軽くなる事で簡単に実感できる。これは接地面積が減り抵抗が少なくなるためである。タイヤの空気圧を下げるとその 逆で、接地面積が増え抵抗が増えるがグリップが増す。そのためグリップの欲しいチームは危険を冒してまで空気圧を下げる。

3.極端なキャンバー角
キャンバー角とはクルマを正面から見た時にタイヤがハの字になっている角度の事である。この角度つけるとどうなるかというとコーナリング時にタイヤのグリップ が増える。ところがいい事ばかりでもない。キャンバー角を極端につけるとコーナーではいいが、直線部分ではタイヤのインサイドだけが路面に接することにな るので、インサイドだけに負荷がかかり、最悪の場合タイヤが壊れる。

4.攻撃的なシルバーストーンの縁石
高速コーナーの縁石が攻撃的であり、特に多くのタイヤの壊れたターン4が危険で、タイヤバーストの一因になった。ただこれまで何の問題もなかったのがいきなり、バーストの原因になるというのも不思議ではある。

以上四つがタイヤが破壊された原因であり、タイヤには問題がないというとがピレリの見解である。
確 かにこれらの要因が重なりタイヤがバーストしたのは間違いがないだろう。だが普通は多少空気圧が低くても、キャンバー角がきつくても余裕を持ってタイヤが 壊れないようにするのが、良識的なタイヤ設計というものである。実際、ブリヂストンの単独供給時代にもタイヤの空気圧を指定以下にするチームはあったが、 タイヤが壊れたことはない。特にシーズン中にテストもできないし、タイヤの構造を簡単に変更できない場合はなおさらである。つまりピレリのタイヤは危険と はいえないが、かなり攻めた設計であることは間違いない。
私自身はタイヤを設計した経験はないので、タイヤを設計する人に聞いてみたいが、必要以上に余裕がない設計ではないかと思う。人の命を預かるタイヤというパーツの性格を考えると、余裕をもった設計が求められるのではないだろうか。

タ イヤ問題というと2005年のアメリカGPが思い出される人も多いだろう。この時もミシュランは攻めた設計のタイヤを持ち込み、強烈なバンクの縦Gにタイ ヤの構造が耐えきれずにタイヤが壊れた。ではなぜタイヤの構造を柔らかくするかというと、そうすると単純にタイヤのパフォーマンスが上がるからだ。ただ安 全に大きな影響を与える部品であるタイヤの性格上、どこまで攻めた設計をするかはそのタイヤメーカーの設計思想や方針によるところが大きい。

ピ レリは空気圧やキャンバー角度の監視をFIAに求めている。実際問題としてタイヤの空気圧とキャンバー角を制限すれば、ドイツでは問題が起こらない可能性 は高い。舞台となるニュルブルクリンクは気温も低いし高速コーナーも少ない。タイヤへの負荷は少ないサーキットである。だがもし金曜日に何らかの問題がお こった場合、土曜日と日曜日のレースが開催されるかは予断を許さない。

ちなみにピレリはドイツの次のハンガリーGPでは、新しいタイヤを 供給する予定である。このタイヤはドイツGP翌週のヤングドライバーテストでテストされる。基本的にこの新しいタイヤは2012年の構造に2013年のコ ンパウンドを装着する。でもタイヤの安全性に問題がなければ、タイヤを新しくする必要はないとの考えもある。もっとも安全性に絶対はないので、それでもタ イヤを新しくするのには賛成である。

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