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2011 Rd7 カナダGP観戦記

 ▽我慢と攻めの走り バトン 予選7位のドライバーが、6回のピットストップに2回のアクシデントとドライブスルーペナルティだったとしたら、あなたはこのドライバーを何位だと思うだろうか。 このドライバーの名前はジェンソン・バトン。 彼はモナコで逃した勝利をカナダで取り戻した。 モナコでもレース中は最速だったバトンだが、この時は勝利を逃した。 ここカナダでもバトンのレースペースは速く、特に最後の10周は抜きんでて速く、彼は1人だけ1分16秒台を記録。これはベッテルを除く他のドライバーより2秒以上も速いペースでベッテルよりも0.2~0.3秒速かった。 その理由の一つはリアウィングにある。 今回、マクラーレンはカナダに重いウィングを持ち込んだ。 重いウィングとはダウンフォースが大きく、同時に抵抗も大きいウィングである。 通常、このサーキットは最高速が重要視されるので、正面から見ると薄い、ダウンフォースの少ないリアウィングを持ち込むのが普通である。 ところが彼らは重いウィングを持ち込んだ。 これは昨年、Fダクトを使用する彼らが他のチームとは違い重いウィングを持ち込んで1-2フィニッシュしたことも影響している。 今年、Fダクトはなくなったが、代わりにDRSがある。 マクラーレンは重いウィングを使うことで、ブレーキングの安定性とコーナーでの速さを得て、直線はDRSで稼ぎ、軽いウィングのマシンより速いラップタイムを記録しようと目論んだのだが、予選でバトンは7位に終わってしまった。 ところが雨の決勝では重くてダウンフォースの多いリア・ウィングが有利に働き速いペースを維持。 だが勝利へは茨の道が待っていた。 レース序盤では、チームメイトのハミルトンと接触。 さらに赤旗中断の再スタート直後にアロンソと接触し、左前輪をパンクさせ、半周以上をそのまま走って、大差の最下位に。 この二回のどちらかで、バトンのレースは終わっていてもおかしくなかった。 だが共にリタイヤしたのは、ぶつかった相手の方だった。

 正直に言ってSCがこれほど多くでなければバトンが勝つこともなかった。 だから幸運な勝利と言うことも言えるが、彼は雨のレースでは何が起こるか分からないと考え、最後まで諦めずに走りきった。 これをベテランの走りというのだろう。 ハミルトンとは好対照だった。 それでも最後の走りは圧巻で、バトンのアグレッシブな走りは、このレースのウィナーにふさわしかった。 ▽ベッテルの複雑な2位 1周目からタイヤ交換時の1周だけを除き69周目までトップをキープしていたベッテル。 最後の1周いや半周だけトップをバトンに譲り、2位に終わった。 彼が悔いの残る点は、レース後のインタビューでも述べているとおり、最後のSC明け直後にペースを落としてタイヤを温存した部分だろう。 彼はバトンが2位に浮上し追い上げてくると、それまでより2秒近くタイムアップしている。 つまり彼は2秒速く走れたにもかかわらず、ペースをコントロールしていたことになる。もう2周ほど速くスパートをかけていれば、ベッテルは逃げ切れていた可能性が高かった。 だがベッテルを責めるのは酷だろう。 というのも、レコードラインだけがドライな状態で、後ろからマシンが追ってきてもレコードラインを外して追い抜くのは極めて難しかったから、ヘアピンの立ち上がりさえ気をつければ抜かれないとの計算もあったはずだ。 それにペースをコントロールして最後に追いつかれても、振り切る自信があったのだろう。 だがバトンのスピードは驚異的で、さすがのベッテルも予想し得なかった。 ベッテルも最後の4周は限界まで攻めたのだが最終ラップ、ほんの少しだけレコードラインを外してハーフスピンし、バトンに先行された。 だが考えようによってはベッテルは幸運だった。 一つ前のコーナーで限界を超えていれば、ガードレールの餌食になってリタイヤになっていただろう。 実際、彼は一つ前のコーナーでマシンの姿勢を乱している。 そうすれば彼は、ほぼ全ラップでトップを走りながら、無得点でモントリオールを後にすることになった。 それを考えると2位で18ポイント得たことは、満足すべき結果といえよう。 2位との差はレース前の68ポイントから70ポイントに増えたのだし、なにより彼が7レースで失ったポイントはたったの14ポイントだけなのだから。 ベッテルが二位だったことにより、これでチャンピオン争いが面白くなったとは言えないが、それでもカナダでベッテルが勝てばチャンピン争いは決まったも同然だったので、シーズン全体を考えれば、誰にとってもいい結果だったのではないだろうか。 ▽焦るハミルトン レースに「もし」はないが、ハミルトンがバトンと接触していなければ、レースに勝ったのはハミルトンだっただろう。 それくらい彼は速かったし、このコースを得意としていた。 だが結果は無得点で、自分の責任とはいえやりきれない思いだろう。 シューマッハーにアタックする時も、レコードライン以外は水が多く、追い抜くのが難しい状況にもかかわらず、抜きにかかって外側にはらみ、一度抜いたバトンに前に行かれてしまった。 バトンと接触した場面も、確かにバトンは最終コーナー立ち上がりでミスをしていて、立ち上がりのスピードはかなりの差があり、ハミルトンは左側にスペース見つけて飛び込んだのだが、バトンはレコードラインを走り、左側によったことにより二台は接触。 二台にペナルティがなかったのは、それで良いと思うが、あまりにも性急すぎるハミルトンの走りは、少し疑問である。 彼は勝てるだけの速さがあったのだから。 もっとも、いつでもどこでもアタックするというのが、彼の良い点でもあるし、特徴である。 それがなくなってはハミルトンはハミルトンではない。 だがもう少しレースの流れを考えて走らないと、彼が二度目のチャンピオンを取るのには、時間がかかりそうだ。 だがハミルトンが最速のレッドブルとベッテルに勝とうとしていることは覚えておかなければならない。 ある程度のリスクをとって攻めなければ、今年のベッテルに勝つことはできない。 だが今回はやり過ぎだった。 勝てるだけの速さがあっただけに、残念である。 ▽喜びの予選と落胆の決勝 フェラーリ 予選では大幅な改善が見られて2位と3位に付けたフェラーリ。 この予選スピードの改善は、ブロウンディヒューザーのエンジンマップの改良が大きく貢献している。 この分野こそはレッドブルが予選で大差を付けているポイントなのだ。 ブロウンディヒューザーは簡単に言うと、ディヒューザーに高速の排気ガスを吹き付けて、空気の流れを加速させて、ダウンフォースを得るアイテムである。 だがかつては流行ったこのアイテムは欠点が一つあり、アクセルをオフにすると、排気ガスがでなくなり、ダウンフォース量が減り、ドライビングしにくいのだ。 そこで昨年、レッドブルが持ち込んだのだが、ドライバーがアクセルを完全にオフにしても、エンジンに燃料を供給して、排気ガスを吹き出し続けるエンジンマップだった。 それをアグレッシブに予選で使用しているのがレッドブルで、フェラーリも今回、アグレッシブなエンジンマップを用意して、結果を残した。 当然アグレッシブなブロウン・ディヒューザーには欠点もある。 スロットルオフ時にも燃料を供給しているので、燃料消費量は増えるし、オーバーヒートしやすい。 だから予選と決勝では全く別のエンジンマップを使用する。 レッドブルが予選で速いのにはこういう理由があったのだ。 だが決勝では、強い雨が降ると予想されていたにもかかわらず、アロンソがインターミディエイトに交換した直後に大雨が降り、再度レインにタイヤ交換するなど、自滅してしまった。 最後はバトンと接触し縁石で亀の子状態になりリタイヤ。 また赤旗中断時に3位だったマッサは、周回遅れを抜く際に乾いたレコードラインを外し、濡れた部分でブレーキングしてスピン。 レースは続行できたものの、フロントノーズを壊して、余計なピットインを強いられた。 最後は可夢偉を抜いて6位になったが、予選での位置を考えると、喜べる結果とは言えないだろう。 ▽ミハエル復活か? レース終盤2位を走っていたミハエル。 復帰後、初表彰台かと思われたが最後はバトンとウェバーに抜かれて4位に終わった。 レース終盤のペースが良かったのは、メルセデスのマシンがタイヤに厳しく、低い気温の中でも、タイヤの温度上昇が早かった為で、ミハエル復活というわけではない。 ▽すり抜けた表彰台 可夢偉 雨が降り続ければ表彰台は可能だった可夢偉。 だがさすがにドライ路面になるとマシンの性能差が如実に出てしまい、最後はマッサにもかわされて7位。 予選13位とマシンの性能を考えると上出来ではあるのだが、一時は2位を走っていただけに、残念な気持ちが強い。 レース序盤ではレインタイヤで我慢して走り続けて、2位にまで浮上したところで、赤旗中断。 これでタイムロスすることなく新しいレインタイヤに交換することができ、有利な展開だった。 しかし約二時間の中断後は急速に路面が乾いてきて、しかもDRSが使えるようになっては可夢偉にできることは限られている。 可夢偉としては雨が小降りになった直後にレースを再開してもらえればもう少しチャンスが増えたと思うが、FIAは路面状況が回復しないこともあり、雨が小降りになっても30分近くレースを再開させなかった。これは当時の状況を考えれば当然の処置だとは思うが、可夢偉サイドからみるとかなりのダメージだった。 だが可夢偉が一時的にせよ2位をキープしたことは事実である。 もう少し雨が小降りで降り続いてレースが続行されていれば、また違った結果が生まれただろうが、それは言っても仕方がない。 今回の可夢偉の走りは、かなりのインパクトがあったと思うので、表彰台には乗れなかったが、意義のある素晴らしい走りだった。 それにしても可夢偉には毎回毎回新しい驚きを提供してくれる。 これほど急激に成長するドライバーは、なかなかいない。 イギリスGP以降は、ブロウン・ディヒューザーが大きく制限される。 そうするとあまりこれを有効活用できていないザウバーにとっては、トップチームとの差が縮まるチャンスである。 特に予選での改善幅は大きい。 イギリスGP以降はさらに予選でも楽しませてくれそうである。

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